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side A ジュリアの物語
第29話
しおりを挟む「その問題は、この公式を当てはめて・・・・そうそう、そしてここまで来たら、今度はこっちの公式を当てはめて・・・」
毎週の殿下と過ごす時間に勉強を教わり始めて、私は物理的に近くなった距離感にドキドキと胸が高鳴るのを必死に押さえながら勉強している。
だって、隣に座るだけでなく、身を乗り出すようにして指さしたりしながら教えてくださるから、肩が触れることなんかもしばしば。
そのたびに私の心は飛びはねるのだけれど、殿下は全く変わらず余裕な態度なのが悲しいところ。
それでもやっぱり悲しみよりも、こんなにも近くに居られる幸せで胸はいっぱいだ。
「そうそう、それで正解だ!」
「わぁ!解けた!」
二人ほぼ同時にそう言って顔を上げると、とんでもなく近いところに殿下の顔があって驚いた。
「わ!!」
「す、すまない!」
ほんの数秒二人とも固まってしまって、はっと我に返ったのもほぼ同時だった。
びっくりした!!
本当にびっくりした!!
あ、あ、あ、あんな近くで殿下の顔を見てしまった!
二人同時に身を引いて距離が空いて、ドキドキと大きく脈打つ胸を押さえる。
きっと顔は真っ赤になってしまっているに違いない。
「ゴホンッ。あの、すまなかった。つい近くに居すぎたみたいだ。」
殿下がそう仰るけど、私はまだ胸が落ち着かなくて、そちらに顔を向けることができない。
「い、いえ、私の方こそすみませんでした。」
「今日の所はここまでにしよう。それでは、また来週。」
その日は、そのまま解散となってしまった。
最後まで殿下の方を見られなかった私は、殿下の耳が赤く染まっている事に気付かなかった。
睫毛が長かったな。
青みがかった緑の瞳は、吸い込まれそうに美しかった。
帰宅してからも、その日は殿下のことが頭から離れなかった。
○○○
「最近は、すごく勉強を頑張ってるなって思っていたけれど、今日はなんだか上の空ね。」
殿下のことで頭がいっぱいになった翌日、休み時間にボーッとしていた私に、そう声をかけてきたのはアメリだ。
「・・・え?」
「本当に今日は変ね。どうしたの?」
心配そうにのぞき込んでくるアメリに、私はビックリしてのけぞった。
「ななな、なに?」
「なーんか、おかしいわね~。急に勉強し始めたのもそうだし、どこか雰囲気が変わったのよね~。」
そう言いながら胡乱げな顔をするアメリ。
「何も変わってないわ。勉強は、アメリ達と同じクラスになるためだって、言ったじゃない。」
「ふ~~~ん。」
どこか納得がいっていないような顔をしながらもアメリは自分の席へと戻っていった。
ばれないように気を付けないと。
今度は違ったドキドキを抱えながら次の講義の準備を始めたのだった。
○○○
殿下に成績のことを指摘されてから、私は毎日放課後に図書室で勉強をするようになった。
今までサボっていた分のツケが回ってきて、次の試験で良い点を取ろうと思うと時間が足りないくらいだ。
一人黙々と勉強をしていた私は、ふと気がついて顔を上げると、外は夕暮れに染まっていた。
もうそんな時間になってしまったのかと、休憩を兼ねて窓の外を見ていると、殿下とパトリシア様が歩いている姿を見つけてしまった。
どうやら今から帰る所みたい。
パトリシア様が殿下の腕に手を乗せてエスコートされながら、にこやかに話している姿に、胸がチクリと痛む。
『殿下の隣で微笑んでいるのが、私だったら良いのに。』
そんな考えが浮かんでしまって、慌ててかき消した。
こんな事を考えるなんて、許されることじゃない。
分かっていても、殿下の隣に堂々と並ぶことができるパトリシア様を羨む気持ちは簡単には消えてくれなかった。
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