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第15話
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トルコーダ侯爵夫人となってから、およそ1年半がすぎた。
その間に侯爵夫人としての仕事は全て引き継ぎ、義両親は領地へと引っ越した。
私は相変わらずトルコーダ侯爵夫人(仮)として侯爵家の使用人達のとりまとめや家政管理を行いながら、温室の管理を楽しんでいる。
そんな日々の中で一番変わったことといえば、初めてアーネスト様とお茶会を行ってから、1ヶ月に1~2回くらいのペースでアーネスト様とお茶会が催されている事。
あの地獄の無言お茶会は、回を重ねるごとに和やかな交流の場となっている。
そして分かったことは、意外とアーネスト様は女性との交流が苦手で奥手だということ。
そんなアーネスト様が無理をして私と交流してくれているのは、きっと義両親が領地へ引っ越し残された私を心配してのことだと思う。
アーネスト様の不器用な優しさに気付いてからは、私の方から話題を提供し会話を広げるようにしている。
そうすると会話が続き、アーネスト様の緊張もほぐれてくるのだ。
そして今日もアーネスト様からのお誘いでお茶会を行っている。
「エレン、そろそろ跡継ぎとなる養子を迎えようと思う。」
そうそう、私の事を名前で呼んでくれるようになりました。
「わかりました。どのような方か伺っても?」
「あぁ、もちろんだ。父の従兄弟のサルベール伯爵家の三男で、今年11歳になった子だ。素直でかしこい子だ。氷魔法が使えるようで、魔法学園に通わせようと思っている。」
「まぁ、それは優秀な方ですね。お会いする日が楽しみです。」
「来月迎え入れる予定になっている。私は仕事があるから、この家の中で過ごす時間の大部分は君にお願いすることになるだろう。気にかけてやって欲しい。」
「もちろんです。快適に過ごせるようにお手伝いさせてもらいますね。」
義両親がいなくなって寂しくなってしまったこの邸に、明るい話題が出来て良かったわ。
お会いする日が楽しみね。
○○○
「はじめまして、ネイサン・トルコーダです。立派な跡継ぎになれるよう頑張ります。よろしくお願いいたします。」
今日は待ちに待った、養子となった子がやってくる日。
アーネスト様に連れられて、小さな男の子がとても緊張した様子で挨拶をしてくれた。
「はじめまして、ネイサン。私はエレン・トルコーダです。あなたに会えるのを楽しみにしていました。これからよろしくね。」
私は彼に少し近づいて、その場にしゃがみ目線を合わせて挨拶をした。
「はい!お義母さま!」
可愛い!!
・・・でも。
「私の事は、エレンと名前で呼んでちょうだいね?」
「・・・え?名前でですか?」
ネイサンは首をかしげたあと、そっとアーネスト様を見上げる。アーネスト様が頷いたのを見てから、戸惑いがちに私に返事をする。
「エレン様?」
「えぇ、そう呼んで。これからよろしくね。」
私はにっこりと笑って声をかけた。
だって・・・ねぇ?
私は一時的な侯爵夫人だから。ネイサンから「お義母さま」と呼ばれるべきなのはアリス様だもの。
だけど、このことはネイサンも知っているのよね?
あとでアーネスト様に確認しておいた方が良いわね。
○○○
ネイサンは執事のリチャードが邸の案内に連れて行った。
私はアーネスト様に話があると伝えて、応接間に移動した。
「確認させていただきたいのですが。」
「何だ?」
「ネイサンには、アリス様の事は説明されているのでしょうか。ネイサンが私の事を義母と呼んだので・・・。」
少しの沈黙が流れる。
「・・・いや、話してない。」
え~~~。大事なことでしょうに。
「それはいけません。アリス様がいつお目覚めになるのか分かりませんから、説明しておいた方が良いと思います。私の事を義母だと思っていたら、アリス様がいらっしゃった時にネイサンが戸惑ってしまいますわ。」
私が勘違いしてしまわないように。というのもあるけれど。
「・・・。そうだな。折を見て・・・」
「いけません。すぐにお話しになってくださいね。」
「・・・わかった。」
ネイサンと私の間に親子としての関係が出来上がってしまっては、ネイサンも私も後々悲しい思いをすることになるのに・・・。
残酷な方ね・・・。
その間に侯爵夫人としての仕事は全て引き継ぎ、義両親は領地へと引っ越した。
私は相変わらずトルコーダ侯爵夫人(仮)として侯爵家の使用人達のとりまとめや家政管理を行いながら、温室の管理を楽しんでいる。
そんな日々の中で一番変わったことといえば、初めてアーネスト様とお茶会を行ってから、1ヶ月に1~2回くらいのペースでアーネスト様とお茶会が催されている事。
あの地獄の無言お茶会は、回を重ねるごとに和やかな交流の場となっている。
そして分かったことは、意外とアーネスト様は女性との交流が苦手で奥手だということ。
そんなアーネスト様が無理をして私と交流してくれているのは、きっと義両親が領地へ引っ越し残された私を心配してのことだと思う。
アーネスト様の不器用な優しさに気付いてからは、私の方から話題を提供し会話を広げるようにしている。
そうすると会話が続き、アーネスト様の緊張もほぐれてくるのだ。
そして今日もアーネスト様からのお誘いでお茶会を行っている。
「エレン、そろそろ跡継ぎとなる養子を迎えようと思う。」
そうそう、私の事を名前で呼んでくれるようになりました。
「わかりました。どのような方か伺っても?」
「あぁ、もちろんだ。父の従兄弟のサルベール伯爵家の三男で、今年11歳になった子だ。素直でかしこい子だ。氷魔法が使えるようで、魔法学園に通わせようと思っている。」
「まぁ、それは優秀な方ですね。お会いする日が楽しみです。」
「来月迎え入れる予定になっている。私は仕事があるから、この家の中で過ごす時間の大部分は君にお願いすることになるだろう。気にかけてやって欲しい。」
「もちろんです。快適に過ごせるようにお手伝いさせてもらいますね。」
義両親がいなくなって寂しくなってしまったこの邸に、明るい話題が出来て良かったわ。
お会いする日が楽しみね。
○○○
「はじめまして、ネイサン・トルコーダです。立派な跡継ぎになれるよう頑張ります。よろしくお願いいたします。」
今日は待ちに待った、養子となった子がやってくる日。
アーネスト様に連れられて、小さな男の子がとても緊張した様子で挨拶をしてくれた。
「はじめまして、ネイサン。私はエレン・トルコーダです。あなたに会えるのを楽しみにしていました。これからよろしくね。」
私は彼に少し近づいて、その場にしゃがみ目線を合わせて挨拶をした。
「はい!お義母さま!」
可愛い!!
・・・でも。
「私の事は、エレンと名前で呼んでちょうだいね?」
「・・・え?名前でですか?」
ネイサンは首をかしげたあと、そっとアーネスト様を見上げる。アーネスト様が頷いたのを見てから、戸惑いがちに私に返事をする。
「エレン様?」
「えぇ、そう呼んで。これからよろしくね。」
私はにっこりと笑って声をかけた。
だって・・・ねぇ?
私は一時的な侯爵夫人だから。ネイサンから「お義母さま」と呼ばれるべきなのはアリス様だもの。
だけど、このことはネイサンも知っているのよね?
あとでアーネスト様に確認しておいた方が良いわね。
○○○
ネイサンは執事のリチャードが邸の案内に連れて行った。
私はアーネスト様に話があると伝えて、応接間に移動した。
「確認させていただきたいのですが。」
「何だ?」
「ネイサンには、アリス様の事は説明されているのでしょうか。ネイサンが私の事を義母と呼んだので・・・。」
少しの沈黙が流れる。
「・・・いや、話してない。」
え~~~。大事なことでしょうに。
「それはいけません。アリス様がいつお目覚めになるのか分かりませんから、説明しておいた方が良いと思います。私の事を義母だと思っていたら、アリス様がいらっしゃった時にネイサンが戸惑ってしまいますわ。」
私が勘違いしてしまわないように。というのもあるけれど。
「・・・。そうだな。折を見て・・・」
「いけません。すぐにお話しになってくださいね。」
「・・・わかった。」
ネイサンと私の間に親子としての関係が出来上がってしまっては、ネイサンも私も後々悲しい思いをすることになるのに・・・。
残酷な方ね・・・。
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