出来損ないと呼ばれた俺たちですが

魔無しの従者と化け物の主

「旗を上げよ！これこそ我らの忠誠の証、我らが祖国、フィリアの御旗だ！」

敵軍、兵力13000。それに対して当方、5000。一方的な負け試合ということは一目瞭然だ。

「ノア、向こうの状況は？」

「面白えくらいに戸惑ってやがる。まさか、2倍以上も戦力に差のある相手に負けるだなんて思っていなかっただろうからな。向こうとこっちじゃ、頭の出来が違うんだよ」

「ふふ、兄様もびっくりするかな？死地に赴いた可愛くなそい弟が呆気なく戻ってくるなんて」

「あぁ、また癇癪起こすだろうな、あの馬鹿王。ったく、これで何度目になるんだよ。正直言って、 戦争なんかより阿呆の王様と会う方が面倒なんだよな」

「そんなこと言わないで、ノア。あれでも僕の兄様なんだから、ね？それに、もうすぐ王位もなくなるんだし、今の間くらい好きにさせてあげたっていいじゃない」

それだけ言うと、それまで呑気な顔をしながら皮肉を呟いていたエルドが立ち上がり、自らの手の平に炎を作り出した。自身の瞳の色によく似たその炎球をいとも容易く投げ捨てる。
そこには怯えた目でこちらを見据える鎧姿の男。
その影が目に映ると共に、ノアと呼ばれた男は両手の細剣を振るい脚を切り捨てる。

それを見て満足そうにエルドは頷き、その黒い髪を風に預けながら空中に足を踏み出し、空を駆けた。とても初歩的な風を使った魔術だが、戦争においては必要不可欠なものだ。

「じゃあ、ちょっと行ってくるね。帰ったらアップルパイでも食べようよ」

「いいぜ、でも気をつけろよ？一応向こうも碧眼魔術師使ってるみたいだしな。あとその台詞、死亡フラグって言うんだぜ？」

「は？そこらの碧眼なんかに僕が負けると思ってるの？気を付けるのはあっちの方だよ。その、しぼうふらぐ？っていうのはよくわかんないけど」

「へいへい。では主殿、ご武運を～」

「なんかムカつく......」

軽く手を振って主を見送り、その後ろ姿が見えなくなった頃。ノアはもう一度細剣を持ち構える。気配を遮断させていたのか、音もなく忍び寄るは白の礼服を身に付けた敵軍魔術師十数名。その全てが一斉に魔力を具現化させてこちらを威嚇する。奇襲を仕掛ければ勝てる相手だとでも思ったのか。

「悪ぃな、ウチの主様が勝利をご所望なんだ。従者という立場として、願いを叶えてやりてえんだよ」

それをものともせず、ノアは自分の劣等の証である紫眼で敵を見据える。完全に包囲されているというのに嘲りにも似た笑みを浮かべながら、誰よりも速く、的確に胸に突き刺す。そして、彼の持つ青髪に降りかかる鮮血を煩わしそうに振り払いながら一つ欠伸をするのだ。


ノア・アベリア、この時の年齢16歳。『術と法の祖』と呼ばれるアベリア家に生まれながらも魔力を持たない「出来損ない」だ。
そして、

「魔法でもチート級でもかかってきやがれ。努力で打ち勝ってやるよ」

『地球』という異世界で存在していた記憶を持つ転生者であった。