出来損ないと呼ばれた俺たちですが

てりてり

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全ては神の采配通り

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『貴方は他の人と違って何の才能もないの。だから人一倍努力しなさい』

『お母さんのいうとおりにしなさい。そうすれば貴方も兄さんのようになれるわよ』

これが生まれてから今まで言われてきた言葉だった。
確かに俺は母さんの言う通り、才能がなかった。何をさせても期待を上回る兄と比べられ、その度に落胆される。どれだけ努力しようと、天才には届かなかった。

『お前さあ、もうやめろよ。どうせ俺より下手なんだしさ』

認められたい。褒められたい。結果を出したい。何で俺には出来ないんだ。そんなことしか考えられなかった。だから今、死にかけていても未練だとか、絶望だとかは感じなかった。今はただ、解放されたい。それだけだ。

そんなことをつらつらと考えていると

俺の体は宙に投げ出された。

「……お兄さん!大丈夫ですか!?」

ぷちゅ、と何かが孵化するかのような音。膝の骨が噛み合わない感覚。そして目を背けたくなるほど鮮やかな血溜まり。

死ぬ直前には走馬灯を見るというが、普段からしょうもない人生を振り返っているからか、走馬灯にもならない人生だったのか。一切そういうものは見えなかった。多分後者だろうな、なんてことを考えながら顔面蒼白な通行人を見ていた。

「おい坊主、待ってろ!今救急車呼んでやるからな!」
「……っ聞こえてますか!目を開けてください!」

……こんな風に、誰かに心配されるのって久しぶりだな。しかも全員赤の他人。意外に人って優しいんだな。

『人にやさしくするよりも自分に厳しく生きなさい。その方が人様の為よ』

ほんと、あんな馬鹿みたいな奴の言葉聞くんじゃなかった。

あぁ、次生まれるなら、もっと有意義なものになりてえな。別に蟻でもミジンコでも文句言わねえからさ。誰かの役に立つものになりたい。



『いいよ。君の願い、叶えてあげる』



…なんだ?気休めか?どうせこの状態からじゃあ助かるわけがない。それにどうやって叶えてくれるんだよ。

『うーん、現代の信仰心やや問題ありと思ってたけどこういう事かぁ。ま、いいよ。ボクは心が広いからね、怒らないであげる』

信仰?新手の宗教勧誘か?生憎俺の家には搾り取れる金なんて…ねえって……?

『どう?これでボクのこと信じてくれたかな?』

いや、…どんなトリックだよ。瞬間移動?死者蘇生?この際どうだっていい。目の前の子供
がマジもんの神様だっていうのか?

『ごめんね。今作った部屋だから何もないだろう?まあ、少ししか居ないしいいよね』

黒髪の中性的な顔立ちをした少年が俺を見据える。ニコニコと屈託ない笑顔を浮かべているがとにかく威圧感が凄まじい。何というか、目を合わせたら終わり、というか。

「いや、アンタ何者なんだよ。さっき俺、下半身轢かれたはずなんだけど…さっきのは夢か?」

あれは夢というにはあまりにも惨すぎるだろ…下半身不随とかそういうレベルじゃねえし。だが今、俺の脚は確かに存在する。さっきの事故が夢だったのか、それとも目の前の少年のせいなのか。

『うーん、とりあえず夢か現実かだけど、残念ながらさっきのはすべて現実。無免許運転に加えて速度違反であり得ないくらい下半身を持ってかれたからね』

そんな馬鹿みてぇな奴に轢かれたのか…まぁそっちの方が後腐れなくていいか。俺にはもうどうすることもできねぇし。

『で、ボクの正体だけど…なんと、君たちがいうところのカミサマだよ!どう?驚いた?敬ってくれても構わないよ!』

「………はぁ…?」

『あ、この目は信じてないんだな!?全く、君のことを運んだのもボクだっていうのに…』

いや、信じる信じない以前に…神様ってこんなに威厳とかないものなのか?さっきの一言とふんぞり返る仕草で威圧感とか一散したんだが。

『…コホン、まあとりあえず本題に入ろっか!あんまり長居したら良くないしね』

え、長居したらどうなるんだ?

『えーと、ボクはちょっと怠いな~くらいで済むんだけど、君は魂ごと爆裂するね』

………爆裂?

『うん。魂が爆裂しちゃって死にながら痛みに蝕まれて二度と肉体を得ることが出来ないんだ。さ、早く契約済ませちゃおう!』

「あ、ちょっと今すぐ出て行っても良いすか?」

『え!?困るよ、折角見つけた貴重な人材なのに~!』

いや、一生モノの痛みより適当に虫とかに転生する方が億倍マシだろ!というかそんな時間制限聞いてねぇし!

『大丈夫だって!時間だってまだあるし!……10分くらい』

全く安心できる要素が見当たらないんだが。10分って意外に少ないし一瞬だぞ?そんな攻防を3分ほど続けたとき、突然自称神な少年が椅子に座りだした。いつの間に?と思い後ろを振り返ると同じ椅子がそこに。

『……君も男なら、異世界転生、してみたくないかい?』

「……っしてみたいです!」

『よぅし、それじゃあこの契約書にサインして!はい、紙とペン』

こうして俺は言われるがままにポンと渡された紙にサインするのだった。だがしかし、問題点が一つ。

「これ、なんて読むんだ?…こんな文字見たことないんだが」

『あぁ、それは今から君が転生する世界の文字だよ。成長するうちに読めるようになると思う。で、内容だけど…』

内容は…?

『ある人を救ってあげて欲しいんだ』

救うって…はぁ?意味分かんねぇよ。曖昧過ぎるし、ある人って言われても誰かも分からない。そんな馬鹿げたことをする必要があるのか?…何故?

『何故?なんてこと言うんだい、君は。さっきボクと契約しただろ?さぁ、早く行かないと大変なことになっちゃうよ』

……契約したから、それを守るのは当然のこと。それなのに、何かがおかしい。いや、何もおかしいことはないのにおかしい。何がおかしいんだ?

『行ってらっしゃい。起きたらもう、君はボクのいとし子だよ』
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