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泣かせたい俺と泣き虫な君~二人の続き~【下】
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「無理、降参、直生の勝ち」
「何それどういう──」
言い終わらない内に噛み付くように言葉を飲み込む。無理矢理口をこじ開けて、逃げる舌を追いかける。舌先で歯列をなぞると、また直生がのけぞった。
離して欲しそうに両腕で突っぱねられたが、構わず続けた。
空気を求めて大きく開けた口をすかさず塞ぎ、掻き回す。
夢中になって直生を感じていると、直生の力が抜けるのを感じた。
あ、やば。
いくらなんでもがっつき過ぎたかもと、腕の中の直生を見ると、涙目になりながら俺のことを見上げていた。目が若干怒っている。
だけどその怒って潤んだ瞳すら今の俺には燃料にしかならない。再び首元に顔を埋めると、拒否される前に強く吸い付いた。
「い、」
鈍い痛みに直生が顔を顰める。今自分が何をされているかは分かっていないようで、嫌がりはしなかった。
もしかして、俺が何してるか分かってない……?
チャンスだと思った。周りにアピールできるくらい沢山痕を残そうと、直生の襟元に手を掛け胸元を広げようとする。が、流石に叩かれてしまった。
「何しようとしたんだよ!」
「別に……」
「俺はキスしたいって言ったのに、なんか違うことしようとしただろ!」
「するだろ普通!」
またこのパターンだ。
一々手を止められていては、次に進むまでに何年かかるか分からない。
俺はこの先続く苦行を想像して、深くため息をついた。
「じゃあもう本当に今日は止めにするから、とりあえず撫でさせて」
「なんで……?」
「泣いてるから」
ハッとした後にバツが悪そうな顔で若干俺の方に頭を傾けてくる。
俺はいつものようにゆっくりと直生の頭を撫でた。直生は目を瞑って完全に身を任せている。信用されていると言えば聞こえはいいが、単に意識されていないともとれる。
自分の中にどんどん溜まり続ける熱を、気付かないフリしてやり過ごそうとする。
「…………そう言えば、凛乃介、前に俺がいなくてももう大丈夫みたいなこと言ってたけどさ」
「あー、うん……」
「そんな訳ないだろ……」
直生はそう言うが、決定的な現場を目撃してしまったのだ。ヤケになってそういう気持ちになってもおかしくないだろと内心毒付く。
「そもそも、俺じゃなきゃ駄目なんて決まってないだろ?」
俺はそうだと長年思い込んできたけど。
「は? 凛乃介以外の前で泣いたことなんてねーし、凛乃介以外のやつに泣き止まされたくないし……」
「お前、凛の手握って泣き止んでたじゃん」
「……は?」
自分の方が正しいことを言っているはずなのに、何言ってるんだこいつは、とでも言うような顔で見られてしまった。
「凛? なんの話?」
ここまできてとぼける気とはいい度胸だなと思う。こっちは現行犯で目撃しているのだから、言い逃れはさせないと詰め寄る。
「だから! 直生が学校で倒れた時! お前医務室で泣いてただろ? その時、凛の手握って……」
言ってて段々辛くなってきた。恋人にはなれたものの、直生にとって俺は誰でもいい人間のままだ。
「医務室? …………あ、」
「なんだよ?」
「何でもない……」
「何でもなくないだろ絶対」
「何でもないって!」
絶対に何かを隠している顔の直生を抱きしめて拘束する。白状するまでは離してやらないつもりだ。
「言うまで離さないからな」
脅しながらまた首に噛み付く。
「ん、や、っだ、止めろって!」
「いやだ」
歯を立てながら徐々に力を入れていく。早く降参しないと噛み跡が残ってしまうだろう。
「り、んの、すけだって、」
「?」
「だから、凛乃介だって思ったんだよ!」
俺の耳元で鼓膜が破れそうな大音量で直生が叫ぶ。
「凛じゃなくて、凛乃介が手を握ってくれたと思って泣き止んだんだよ! これで満足か!?」
直生の必死のシャウトに耳の奥がぼーっとする。俺の力が緩んだのを見計らって、直生が俺の腕から逃げ出した。
「恥ずかしいこと言わせんな馬鹿!」
俺の勘違いだったと分かり、嬉しさのあまりまた抱き着こうとする。しかし、直生は警戒したように距離をとった。
「直生?」
「今日はもう充分触れ合ったからいいだろ」
触れ合ったって……動物園か何かか?
それに直生的にはもう充分かもしれないが、俺的には全然足りない。いきなりヤりたいとは言わないが、もう少し深めのキスくらいはしたい。
今までの俺の素行からするとかなり譲歩してるのだが、直生には丸で通じない。
「じゃあ、もうちょっとキスしよ。直生も気持ち良いって言ってたし!」
俺の提案に直生は渋々俺の方に向き直った。
「………………舌、入れないなら」
「え?」
「舌、入れないならいい……」
「…………なんで?」
「舌入れられるとなにも考えられなくなって怖い」
「あー!!!! もう!!!!」
俺はとんでもない煽り文句を真正面から受け止め、折れそうになる心で直生に触れるだけのキスをした。
fin
「何それどういう──」
言い終わらない内に噛み付くように言葉を飲み込む。無理矢理口をこじ開けて、逃げる舌を追いかける。舌先で歯列をなぞると、また直生がのけぞった。
離して欲しそうに両腕で突っぱねられたが、構わず続けた。
空気を求めて大きく開けた口をすかさず塞ぎ、掻き回す。
夢中になって直生を感じていると、直生の力が抜けるのを感じた。
あ、やば。
いくらなんでもがっつき過ぎたかもと、腕の中の直生を見ると、涙目になりながら俺のことを見上げていた。目が若干怒っている。
だけどその怒って潤んだ瞳すら今の俺には燃料にしかならない。再び首元に顔を埋めると、拒否される前に強く吸い付いた。
「い、」
鈍い痛みに直生が顔を顰める。今自分が何をされているかは分かっていないようで、嫌がりはしなかった。
もしかして、俺が何してるか分かってない……?
チャンスだと思った。周りにアピールできるくらい沢山痕を残そうと、直生の襟元に手を掛け胸元を広げようとする。が、流石に叩かれてしまった。
「何しようとしたんだよ!」
「別に……」
「俺はキスしたいって言ったのに、なんか違うことしようとしただろ!」
「するだろ普通!」
またこのパターンだ。
一々手を止められていては、次に進むまでに何年かかるか分からない。
俺はこの先続く苦行を想像して、深くため息をついた。
「じゃあもう本当に今日は止めにするから、とりあえず撫でさせて」
「なんで……?」
「泣いてるから」
ハッとした後にバツが悪そうな顔で若干俺の方に頭を傾けてくる。
俺はいつものようにゆっくりと直生の頭を撫でた。直生は目を瞑って完全に身を任せている。信用されていると言えば聞こえはいいが、単に意識されていないともとれる。
自分の中にどんどん溜まり続ける熱を、気付かないフリしてやり過ごそうとする。
「…………そう言えば、凛乃介、前に俺がいなくてももう大丈夫みたいなこと言ってたけどさ」
「あー、うん……」
「そんな訳ないだろ……」
直生はそう言うが、決定的な現場を目撃してしまったのだ。ヤケになってそういう気持ちになってもおかしくないだろと内心毒付く。
「そもそも、俺じゃなきゃ駄目なんて決まってないだろ?」
俺はそうだと長年思い込んできたけど。
「は? 凛乃介以外の前で泣いたことなんてねーし、凛乃介以外のやつに泣き止まされたくないし……」
「お前、凛の手握って泣き止んでたじゃん」
「……は?」
自分の方が正しいことを言っているはずなのに、何言ってるんだこいつは、とでも言うような顔で見られてしまった。
「凛? なんの話?」
ここまできてとぼける気とはいい度胸だなと思う。こっちは現行犯で目撃しているのだから、言い逃れはさせないと詰め寄る。
「だから! 直生が学校で倒れた時! お前医務室で泣いてただろ? その時、凛の手握って……」
言ってて段々辛くなってきた。恋人にはなれたものの、直生にとって俺は誰でもいい人間のままだ。
「医務室? …………あ、」
「なんだよ?」
「何でもない……」
「何でもなくないだろ絶対」
「何でもないって!」
絶対に何かを隠している顔の直生を抱きしめて拘束する。白状するまでは離してやらないつもりだ。
「言うまで離さないからな」
脅しながらまた首に噛み付く。
「ん、や、っだ、止めろって!」
「いやだ」
歯を立てながら徐々に力を入れていく。早く降参しないと噛み跡が残ってしまうだろう。
「り、んの、すけだって、」
「?」
「だから、凛乃介だって思ったんだよ!」
俺の耳元で鼓膜が破れそうな大音量で直生が叫ぶ。
「凛じゃなくて、凛乃介が手を握ってくれたと思って泣き止んだんだよ! これで満足か!?」
直生の必死のシャウトに耳の奥がぼーっとする。俺の力が緩んだのを見計らって、直生が俺の腕から逃げ出した。
「恥ずかしいこと言わせんな馬鹿!」
俺の勘違いだったと分かり、嬉しさのあまりまた抱き着こうとする。しかし、直生は警戒したように距離をとった。
「直生?」
「今日はもう充分触れ合ったからいいだろ」
触れ合ったって……動物園か何かか?
それに直生的にはもう充分かもしれないが、俺的には全然足りない。いきなりヤりたいとは言わないが、もう少し深めのキスくらいはしたい。
今までの俺の素行からするとかなり譲歩してるのだが、直生には丸で通じない。
「じゃあ、もうちょっとキスしよ。直生も気持ち良いって言ってたし!」
俺の提案に直生は渋々俺の方に向き直った。
「………………舌、入れないなら」
「え?」
「舌、入れないならいい……」
「…………なんで?」
「舌入れられるとなにも考えられなくなって怖い」
「あー!!!! もう!!!!」
俺はとんでもない煽り文句を真正面から受け止め、折れそうになる心で直生に触れるだけのキスをした。
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