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泣かせたい俺と泣き虫な君~二人の続き~【上】
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俺の顔を見た直生の第一声が「うわ……」なのは流石に傷付いた。
俺が口を尖らせると、直生は一瞬悩んだような素振りを見せて、気乗りしなさそうな顔でドアを開けてくれた。
まさか家に上げてもらえるとは思わず、報告だけのつもりだったが、久しぶりに直生の家に足を踏み入れた。
多分最後に入ったのが、俺たちが付き合う前、直生の二日酔いの看病をした時だ。
俺はチラッと直生を見る。いつもと変わらない様子に少し安心する。
良かった、いつも通りっぽいな……
色々あって、俺と直生は付き合うことになった。と、思っていたのは俺だけだったと知ったのは俺の家で映画を見ている時だった。
確かにムードは無かったかもしれないが、両思い同士が告白しあって、そこから付き合わないという選択肢があるなんて思いもしなくて、俺は直生の思考回路に愕然とした。
経験値の少なそうな直生に合わせて、時間を置いてみたものの、直生の中で俺と自分の関係性は幼馴染のままだった。
直生はそれで満足かもしれないが、生憎、初恋を拗らせている俺はそんな関係じゃ満足出来なかった。
直生にもっと触りたい。
その一心で、直生との関係性を変えるべく、まずは自分の整理をしようと考えついた。
そして満を辞してその報告を聞いてもらいに来た所だったのだが。
「その傷どうした?」
家の中という直生のスペースに入れたことに浮かれて、必死で作戦を練り直していた俺に直生が聞いてきた。
「あ、これ? 女の子に殴られた」
「なぐ……」
「違う違う、そんな物騒な話じゃない。もう会えないって言ったら引っ叩かれた」
「……充分物騒だと思うけど」
俺は頬に真横に細く入った傷をなぞりながら笑った。
「向こうも、あ、って顔してたし、悪気は無かったんじゃん?」
「悪気はないのに引っ叩くのかよ……」
「あ、でも、収まりつかなかったのか、俺の中で唯一好きだった顔を傷つけちゃった! って嘆いてたな、そういえば……」
「凛乃介、いつか刺されるぞ」
「もうしないから大丈夫」
「え……?」
俺は真っ直ぐに直生の方を向いて目を見た。
急に変わった俺の雰囲気に直生は言葉を引っ込めた。
「もう、諦めないって決めたから」
一歩、直生に近付くと、一歩、直生は後ろに下がった。多分、このまま追いかけっこを続けていても、直生は俺との距離を縮めようとしてこないだろう。
だったらこっちが追い付けばいい。
「ちゃんと、言ってなかったなって反省した。だから言わせて」
両思い。
それでもこの言葉を口にするのは緊張する。
俺が意を決して口を開こうとした瞬間、勢いよく伸ばされた直生の両手が俺の口を塞いだ。
少し背伸びをした直生は慌てた様子で俺を見た。
「待って!」
「なんで!?」
思わず情けない声が出てしまう。
人の一世一代の告白を遮るなんて、直生が何を考えているのか分からない。
「凛乃介のことが好きです。俺と付き合ってください」
「………………え?」
「一度で聞き取れよ!」
「いや、そういう訳じゃなくて……」
俺が言おうとしていたセリフがそのまま直生の口から出てきたことに唖然とする。
追いかけっこをしていると思っていたら、いつのまにか鬼は直生に変わっていたらしい。
まさかの展開に思考が追い付かない。
俺から告白して、直生の返事を聞くつもりだった。それなのに、立場が逆転してしまうなんて。
あれ? これってもしかして俺の返事待ち……?
顔を赤くして俯きがちな上目遣いで俺を見る直生。
これ、返事いる?
返事の代わりに直生をめちゃくちゃにしたい衝動を何とか抑えて、口を開く。
「俺もおんなじこと考えてた」
俺の一言にパッと表情を明るくした直生が可愛くて堪らない。ここから先は理性との戦いだな、と奥歯を噛み締めると、あろうことか、直生が近寄ってきた。
「あのさ、お願いがあるんだけど」
「…………何?」
直生の顔が赤い。多分それ以上に俺の顔は赤くなっている自信がある。
「キス……していい?」
「駄目!」
「は? なんでだよ!?」
「駄目! 今は本当に駄目! 俺の余裕が無いんだって!」
「なんだよその理屈!」
全力で拒否すると、直生は更に顔を赤くして眉間に皺を寄せた。そしてジリジリと距離を縮めてくる。
完全に意地になっている。そう感じるが良い対処方法が思い浮かばない。
「ずっと凛乃介とキスしたいって思ってた俺の気持ちは無視かよ!?」
ぶつん、と自分の中の何かが切れる音がした。
あー、もう、いいや。
俺からしたキスは直生の中では無かったことになってるのか、とか、ずっと俺とキスしたいと思ってたのかよ、とか、色々言いたいことはあったが、そんな時間も惜しいと思った。
「そんなに言うならしてやるよ」
直生の返事を待たずに強引に抱き寄せる。
自分から誘っておいて、抱きしめられた途端身体を固くするなんていったいどういうつもりなのか。
ガチガチに固まった直生の首に軽く歯を立てると声を漏らしながら背中を反らせた。
「え……?」
なぜか疑問の声を上げる直生が不可解そうな顔で俺を見た。
「なんか、声出た……」
「へ?」
「今、声出そうなんて思ってなかったのに、凛乃介に首噛まれたら声出た……」
「直生は首が弱いってことじゃね?」
「首が……、弱い……?」
直生の経験値の低さを侮っていたかもしれない。
経験は無いにせよ、流石にAVくらいは見たことあるだろうと思っていた。だけどこの反応から察するに、きっとその経験すらない。
マジかよ……
俺の中のハードルが一気に跳ね上がる。
いくらなんでもこの状態の直生にあれこれ出来るほど、悪い人間にはなれない。
「やっぱり、今日はやめとくか……」
俺の呟きに直生は即座に反応する。
「なんで!? 俺が変な声出したから!?」
根本的なところですれ違ってしまっている。
「逆だよ、馬鹿!」
「馬鹿って言うな!」
どんどんとそういう雰囲気から遠のく言い合いに、俺の頭も少しは落ち着いてきた。
もう俺と直生は恋人なのだ。焦る必要はない。これから時間を掛けてゆっくり距離を縮めていけば良い。
そう思うのに、相変わらず直生の距離は近いままで、何か言いづらそうに口をもごもごと動かしていた。
「凛乃介が、キス、してくれた時、めちゃくちゃ気持ち良くて……、またしたいって思って……」
恥ずかしいのに一生懸命伝えようとしてくれているのが分かる。が、真剣にキスの感想を好きなやつから聞かされて、冷静でいられる男がいると思っているのかと本気で問いただしたくなる。
直生のズレた煽りが新鮮で、過剰に反応してしまう。
俺が口を尖らせると、直生は一瞬悩んだような素振りを見せて、気乗りしなさそうな顔でドアを開けてくれた。
まさか家に上げてもらえるとは思わず、報告だけのつもりだったが、久しぶりに直生の家に足を踏み入れた。
多分最後に入ったのが、俺たちが付き合う前、直生の二日酔いの看病をした時だ。
俺はチラッと直生を見る。いつもと変わらない様子に少し安心する。
良かった、いつも通りっぽいな……
色々あって、俺と直生は付き合うことになった。と、思っていたのは俺だけだったと知ったのは俺の家で映画を見ている時だった。
確かにムードは無かったかもしれないが、両思い同士が告白しあって、そこから付き合わないという選択肢があるなんて思いもしなくて、俺は直生の思考回路に愕然とした。
経験値の少なそうな直生に合わせて、時間を置いてみたものの、直生の中で俺と自分の関係性は幼馴染のままだった。
直生はそれで満足かもしれないが、生憎、初恋を拗らせている俺はそんな関係じゃ満足出来なかった。
直生にもっと触りたい。
その一心で、直生との関係性を変えるべく、まずは自分の整理をしようと考えついた。
そして満を辞してその報告を聞いてもらいに来た所だったのだが。
「その傷どうした?」
家の中という直生のスペースに入れたことに浮かれて、必死で作戦を練り直していた俺に直生が聞いてきた。
「あ、これ? 女の子に殴られた」
「なぐ……」
「違う違う、そんな物騒な話じゃない。もう会えないって言ったら引っ叩かれた」
「……充分物騒だと思うけど」
俺は頬に真横に細く入った傷をなぞりながら笑った。
「向こうも、あ、って顔してたし、悪気は無かったんじゃん?」
「悪気はないのに引っ叩くのかよ……」
「あ、でも、収まりつかなかったのか、俺の中で唯一好きだった顔を傷つけちゃった! って嘆いてたな、そういえば……」
「凛乃介、いつか刺されるぞ」
「もうしないから大丈夫」
「え……?」
俺は真っ直ぐに直生の方を向いて目を見た。
急に変わった俺の雰囲気に直生は言葉を引っ込めた。
「もう、諦めないって決めたから」
一歩、直生に近付くと、一歩、直生は後ろに下がった。多分、このまま追いかけっこを続けていても、直生は俺との距離を縮めようとしてこないだろう。
だったらこっちが追い付けばいい。
「ちゃんと、言ってなかったなって反省した。だから言わせて」
両思い。
それでもこの言葉を口にするのは緊張する。
俺が意を決して口を開こうとした瞬間、勢いよく伸ばされた直生の両手が俺の口を塞いだ。
少し背伸びをした直生は慌てた様子で俺を見た。
「待って!」
「なんで!?」
思わず情けない声が出てしまう。
人の一世一代の告白を遮るなんて、直生が何を考えているのか分からない。
「凛乃介のことが好きです。俺と付き合ってください」
「………………え?」
「一度で聞き取れよ!」
「いや、そういう訳じゃなくて……」
俺が言おうとしていたセリフがそのまま直生の口から出てきたことに唖然とする。
追いかけっこをしていると思っていたら、いつのまにか鬼は直生に変わっていたらしい。
まさかの展開に思考が追い付かない。
俺から告白して、直生の返事を聞くつもりだった。それなのに、立場が逆転してしまうなんて。
あれ? これってもしかして俺の返事待ち……?
顔を赤くして俯きがちな上目遣いで俺を見る直生。
これ、返事いる?
返事の代わりに直生をめちゃくちゃにしたい衝動を何とか抑えて、口を開く。
「俺もおんなじこと考えてた」
俺の一言にパッと表情を明るくした直生が可愛くて堪らない。ここから先は理性との戦いだな、と奥歯を噛み締めると、あろうことか、直生が近寄ってきた。
「あのさ、お願いがあるんだけど」
「…………何?」
直生の顔が赤い。多分それ以上に俺の顔は赤くなっている自信がある。
「キス……していい?」
「駄目!」
「は? なんでだよ!?」
「駄目! 今は本当に駄目! 俺の余裕が無いんだって!」
「なんだよその理屈!」
全力で拒否すると、直生は更に顔を赤くして眉間に皺を寄せた。そしてジリジリと距離を縮めてくる。
完全に意地になっている。そう感じるが良い対処方法が思い浮かばない。
「ずっと凛乃介とキスしたいって思ってた俺の気持ちは無視かよ!?」
ぶつん、と自分の中の何かが切れる音がした。
あー、もう、いいや。
俺からしたキスは直生の中では無かったことになってるのか、とか、ずっと俺とキスしたいと思ってたのかよ、とか、色々言いたいことはあったが、そんな時間も惜しいと思った。
「そんなに言うならしてやるよ」
直生の返事を待たずに強引に抱き寄せる。
自分から誘っておいて、抱きしめられた途端身体を固くするなんていったいどういうつもりなのか。
ガチガチに固まった直生の首に軽く歯を立てると声を漏らしながら背中を反らせた。
「え……?」
なぜか疑問の声を上げる直生が不可解そうな顔で俺を見た。
「なんか、声出た……」
「へ?」
「今、声出そうなんて思ってなかったのに、凛乃介に首噛まれたら声出た……」
「直生は首が弱いってことじゃね?」
「首が……、弱い……?」
直生の経験値の低さを侮っていたかもしれない。
経験は無いにせよ、流石にAVくらいは見たことあるだろうと思っていた。だけどこの反応から察するに、きっとその経験すらない。
マジかよ……
俺の中のハードルが一気に跳ね上がる。
いくらなんでもこの状態の直生にあれこれ出来るほど、悪い人間にはなれない。
「やっぱり、今日はやめとくか……」
俺の呟きに直生は即座に反応する。
「なんで!? 俺が変な声出したから!?」
根本的なところですれ違ってしまっている。
「逆だよ、馬鹿!」
「馬鹿って言うな!」
どんどんとそういう雰囲気から遠のく言い合いに、俺の頭も少しは落ち着いてきた。
もう俺と直生は恋人なのだ。焦る必要はない。これから時間を掛けてゆっくり距離を縮めていけば良い。
そう思うのに、相変わらず直生の距離は近いままで、何か言いづらそうに口をもごもごと動かしていた。
「凛乃介が、キス、してくれた時、めちゃくちゃ気持ち良くて……、またしたいって思って……」
恥ずかしいのに一生懸命伝えようとしてくれているのが分かる。が、真剣にキスの感想を好きなやつから聞かされて、冷静でいられる男がいると思っているのかと本気で問いただしたくなる。
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