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泣かせたい俺と泣き虫な君【5】
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「で、本当は何しに来たの?」
「え……」
「俺に何か言いたくて来たんじゃないの?」
「あぁ、ええと……」
緊張が解けたついでに一気に畳み掛ける。また間を開けるとダメになりそうだったからだ。
「凛乃介が俺のこと避けるから!」
「……」
そうくるとは思わなかった。
俺は直生の顔を見続けることが出来なくて目を伏せた。
「俺だって悪かったって思ってるよ! いつもいつも凛乃介のこと巻き込んで! だけど、お前がいないと俺は……」
直生を巻き込んでいるのは自分の方なのに、と罪悪感から短い息が漏れる。
「俺がいなくても、直生はもう大丈夫だって」
俺じゃなくても直生は大丈夫。
「は……?」
「いつまでも一緒にいるわけにはいかないだろ?」
俺じゃないとダメだと直生は思い込んだままなのだと思った。その思い込みは、この先必ず直生を不幸にしてしまう。
そうなったら俺は悔やんでも悔やみ切れない。
「俺も……直生も、このままじゃ良くないよなって」
自分で放った突き離すような言葉が巡り巡って自分を傷付ける。
直生の顔文字まともに見れないまま、どんどん思ってもいない言葉が溢れてくる。
「やだ」
俺が発した言葉かと思った。
が、直生の口から出たものだと分かると、何とか説得しようと俺も言葉を被せた。
「やだって言っても──」
「やだ。凛乃介と離れたくない」
聞き間違いかと思った。もしくは自分の都合のいい夢かもしれない。
「離れたくないって……」
直生の言葉の本当の意味が分からない。
言葉のままに受け取ってしまいそうな自分がいて、必死に言い聞かせる。
直生はあくまでも自分を泣き止ませてくれる存在として俺を必要としているだけだと。
俺が唸りながら頭を抱えていると、直生が僅かに動いた。顔を見ると、いつものように盛大に涙を流していた。
「直生……」
俺は手を伸ばしかけて、やめた。そして直生の顔を見ないように下を向く。
「凛乃介、」
直生が名前を呼んでくるが顔が上げられない。
今すぐ抱きしめたいが、俺と、そして何より直生のために堪える。
「ごめ、俺、こんなで……今まで凛乃介に甘えてて、」
「…………」
「凛乃介の気持ち考えてなかった」
「俺の、気持ち……?」
俺の気持ちなんて最初から変わらない。
いつまでも直生の隣にいたい、それだけなのに。
そんなことは許されないのだと、現実が言ってくる。
俺じゃない誰かの隣にいた方が直生は幸せになれる。悔しいけど、それは紛れもない事実なのだ。
強く拳を握る。
痛みとやるせなさで泣きそうになる。
「俺の気持ち分かってんの?」
「え……」
思わず噛み付いてしまった。
本当はもっと穏便に、わだかまりなく、直生とは離れたかった。
でももう無理そうだ。
自分の中にある割り切れない思いが俺の背中を強く押す。
なんか、もう、どうでもいいや。
俺は立ち上がると、視線を直生に合わせた。逃げられないように縫いとめたまま、顔に手をあて上を向かせる。いつもの紅潮した直生の頬の色が今までのそれとは違って見えてくる。
唇に触れるか触れないかの一瞬の出来事を、直生は微動だにせず見守っていた。
「俺だって泣きたいよ」
思わず本音が漏れる。
泣きたいのは直生だけじゃない。
俺だって泣いて自分の感情をぶち撒けたい。
「本当に俺の気持ちが分かってんの? こんなに直生の事が大好きで、触るたびに色々我慢してる俺の気持ちが?」
こうなったらもう止まらない。どうせもう最後ならと、言いたいこと全部言ってやる覚悟で口を開く。
「こんな俺といると直生が駄目になると思って、離れなきゃいけないと思った俺の気持ちが直生に分かんの?」
一気に吐き出してくらくらしてきた。呼吸が苦しくなる。
「凛乃介……あの……」
「分かんないよな? 直生はただ単に俺を幼馴染の泣き止ませ屋くらいにしか思ってなかったもんな」
吐き出しついでに皮肉も混ぜる。このくらいは言わせて欲しい。
俺の言葉に押されていた直生だったが、急にスイッチが入ったように食ってかかってきた。
「そっちこそ! 俺がどれだけ凛乃介のことが好きで悩んできたか知らないだろ!?」
は…………?
話の展開がおかしい。
俺は直生に自分の気持ちを打ち明けて、それで終わりにするつもりでいた。なのに、直生はとんでもないことを言い始めた。
僅かに逃げ腰になる直生の手首を素早く捕まえる。いま逃すわけにはいかない。
「それ、本当?」
「離せよ」
「本当かって聞いてんだよ」
「本当だから離せよ!」
思わぬ形で言質を取ってしまった。直生の態度はやけくそで、俺は必死の形相で詰め寄っている。ムードのカケラもない雑な両思いの発覚に、俺たちらしさを感じてしまい脱力する。
「はぁー」
大きくため息をつく。
「なんで、そういう大事なこと……」
今までの分かりづらい直生の態度に呆れと安堵が混じった気持ちになる。しかし、よくよく考えてみればそれは俺も同じで、どうやらお互い様だったみたいだ。
そう思うと、今まで葛藤が途端に恥ずかしくなってくる。
直生に悟られないように、誤魔化しながら直生を引き寄せる。
文句が出ない内に、すぐさまその口を塞ぐ。
夢にまで見たこの瞬間を、ちゃんと現実のものにしたくて直生の形を確かめる。
俺の手で泣き止んでいく様子に愛おしさが募る。出来ればこのまま離したくない。
けれど、ここは場所が良くない。多分このまま続けていると、直生が怒りはじめるのは目に見えていた。
俺は名残惜しむ気持ちを込めて直生の下唇を啄んだ。
顔を離すと、目の前には泣き止んだ直生の顔が照れ臭そうに下を向いていた。
「………………普通にしろよ」
この思わせぶりな態度は何なのだろうか。
こんなに可愛い態度をとるのは俺の前だけだと思いたい。
「分かった。じゃあ今度は普通にする」
俺は揶揄うつもりで立ち上がり、また距離を詰めようとした。が、本気にした直生が慌てて肩を押してきた。
「違う! そっちじゃなくて!」
俺は笑ったが、直生は深刻そうな顔をした。
調子に乗りすぎたか……?
俺は少し態度を改めると、直生との間に適切な距離をとった。
「まぁ、ここじゃあれだしな」
冗談で場を和ませるつもりだったのだが、直生はハッとしたように周囲を見回した。そして恥ずかしそうに顔をあからめて下を向く。
俺は直生の頭をゆっくり撫でるとすかさずフォローを入れた。
「みんな酒入ってるし、他人の話なんか聞いてないから平気だって」
いまいち信用していないような表情の直生は来た時と同じようにおどおどと店を出て行った。
本当は家まで送って行きたかったが、まだバイトが終わる時間じゃない。
数日サボってしまった分、ちゃんとしないといけないと思い、泣く泣く一人で帰らせた。
徐々に小さくなっていく直生の背中に、駆け寄って抱き着きたい衝動を抑える。
唇を噛み締めて眉間に力を入れようとするが、どうにも表情が緩んでしまって仕方ない。
店に戻った後も、散々、龍司さんや常連さんに浮かれた態度を突っ込まれ、ネタにされたのは言うまでもない。
fin
「え……」
「俺に何か言いたくて来たんじゃないの?」
「あぁ、ええと……」
緊張が解けたついでに一気に畳み掛ける。また間を開けるとダメになりそうだったからだ。
「凛乃介が俺のこと避けるから!」
「……」
そうくるとは思わなかった。
俺は直生の顔を見続けることが出来なくて目を伏せた。
「俺だって悪かったって思ってるよ! いつもいつも凛乃介のこと巻き込んで! だけど、お前がいないと俺は……」
直生を巻き込んでいるのは自分の方なのに、と罪悪感から短い息が漏れる。
「俺がいなくても、直生はもう大丈夫だって」
俺じゃなくても直生は大丈夫。
「は……?」
「いつまでも一緒にいるわけにはいかないだろ?」
俺じゃないとダメだと直生は思い込んだままなのだと思った。その思い込みは、この先必ず直生を不幸にしてしまう。
そうなったら俺は悔やんでも悔やみ切れない。
「俺も……直生も、このままじゃ良くないよなって」
自分で放った突き離すような言葉が巡り巡って自分を傷付ける。
直生の顔文字まともに見れないまま、どんどん思ってもいない言葉が溢れてくる。
「やだ」
俺が発した言葉かと思った。
が、直生の口から出たものだと分かると、何とか説得しようと俺も言葉を被せた。
「やだって言っても──」
「やだ。凛乃介と離れたくない」
聞き間違いかと思った。もしくは自分の都合のいい夢かもしれない。
「離れたくないって……」
直生の言葉の本当の意味が分からない。
言葉のままに受け取ってしまいそうな自分がいて、必死に言い聞かせる。
直生はあくまでも自分を泣き止ませてくれる存在として俺を必要としているだけだと。
俺が唸りながら頭を抱えていると、直生が僅かに動いた。顔を見ると、いつものように盛大に涙を流していた。
「直生……」
俺は手を伸ばしかけて、やめた。そして直生の顔を見ないように下を向く。
「凛乃介、」
直生が名前を呼んでくるが顔が上げられない。
今すぐ抱きしめたいが、俺と、そして何より直生のために堪える。
「ごめ、俺、こんなで……今まで凛乃介に甘えてて、」
「…………」
「凛乃介の気持ち考えてなかった」
「俺の、気持ち……?」
俺の気持ちなんて最初から変わらない。
いつまでも直生の隣にいたい、それだけなのに。
そんなことは許されないのだと、現実が言ってくる。
俺じゃない誰かの隣にいた方が直生は幸せになれる。悔しいけど、それは紛れもない事実なのだ。
強く拳を握る。
痛みとやるせなさで泣きそうになる。
「俺の気持ち分かってんの?」
「え……」
思わず噛み付いてしまった。
本当はもっと穏便に、わだかまりなく、直生とは離れたかった。
でももう無理そうだ。
自分の中にある割り切れない思いが俺の背中を強く押す。
なんか、もう、どうでもいいや。
俺は立ち上がると、視線を直生に合わせた。逃げられないように縫いとめたまま、顔に手をあて上を向かせる。いつもの紅潮した直生の頬の色が今までのそれとは違って見えてくる。
唇に触れるか触れないかの一瞬の出来事を、直生は微動だにせず見守っていた。
「俺だって泣きたいよ」
思わず本音が漏れる。
泣きたいのは直生だけじゃない。
俺だって泣いて自分の感情をぶち撒けたい。
「本当に俺の気持ちが分かってんの? こんなに直生の事が大好きで、触るたびに色々我慢してる俺の気持ちが?」
こうなったらもう止まらない。どうせもう最後ならと、言いたいこと全部言ってやる覚悟で口を開く。
「こんな俺といると直生が駄目になると思って、離れなきゃいけないと思った俺の気持ちが直生に分かんの?」
一気に吐き出してくらくらしてきた。呼吸が苦しくなる。
「凛乃介……あの……」
「分かんないよな? 直生はただ単に俺を幼馴染の泣き止ませ屋くらいにしか思ってなかったもんな」
吐き出しついでに皮肉も混ぜる。このくらいは言わせて欲しい。
俺の言葉に押されていた直生だったが、急にスイッチが入ったように食ってかかってきた。
「そっちこそ! 俺がどれだけ凛乃介のことが好きで悩んできたか知らないだろ!?」
は…………?
話の展開がおかしい。
俺は直生に自分の気持ちを打ち明けて、それで終わりにするつもりでいた。なのに、直生はとんでもないことを言い始めた。
僅かに逃げ腰になる直生の手首を素早く捕まえる。いま逃すわけにはいかない。
「それ、本当?」
「離せよ」
「本当かって聞いてんだよ」
「本当だから離せよ!」
思わぬ形で言質を取ってしまった。直生の態度はやけくそで、俺は必死の形相で詰め寄っている。ムードのカケラもない雑な両思いの発覚に、俺たちらしさを感じてしまい脱力する。
「はぁー」
大きくため息をつく。
「なんで、そういう大事なこと……」
今までの分かりづらい直生の態度に呆れと安堵が混じった気持ちになる。しかし、よくよく考えてみればそれは俺も同じで、どうやらお互い様だったみたいだ。
そう思うと、今まで葛藤が途端に恥ずかしくなってくる。
直生に悟られないように、誤魔化しながら直生を引き寄せる。
文句が出ない内に、すぐさまその口を塞ぐ。
夢にまで見たこの瞬間を、ちゃんと現実のものにしたくて直生の形を確かめる。
俺の手で泣き止んでいく様子に愛おしさが募る。出来ればこのまま離したくない。
けれど、ここは場所が良くない。多分このまま続けていると、直生が怒りはじめるのは目に見えていた。
俺は名残惜しむ気持ちを込めて直生の下唇を啄んだ。
顔を離すと、目の前には泣き止んだ直生の顔が照れ臭そうに下を向いていた。
「………………普通にしろよ」
この思わせぶりな態度は何なのだろうか。
こんなに可愛い態度をとるのは俺の前だけだと思いたい。
「分かった。じゃあ今度は普通にする」
俺は揶揄うつもりで立ち上がり、また距離を詰めようとした。が、本気にした直生が慌てて肩を押してきた。
「違う! そっちじゃなくて!」
俺は笑ったが、直生は深刻そうな顔をした。
調子に乗りすぎたか……?
俺は少し態度を改めると、直生との間に適切な距離をとった。
「まぁ、ここじゃあれだしな」
冗談で場を和ませるつもりだったのだが、直生はハッとしたように周囲を見回した。そして恥ずかしそうに顔をあからめて下を向く。
俺は直生の頭をゆっくり撫でるとすかさずフォローを入れた。
「みんな酒入ってるし、他人の話なんか聞いてないから平気だって」
いまいち信用していないような表情の直生は来た時と同じようにおどおどと店を出て行った。
本当は家まで送って行きたかったが、まだバイトが終わる時間じゃない。
数日サボってしまった分、ちゃんとしないといけないと思い、泣く泣く一人で帰らせた。
徐々に小さくなっていく直生の背中に、駆け寄って抱き着きたい衝動を抑える。
唇を噛み締めて眉間に力を入れようとするが、どうにも表情が緩んでしまって仕方ない。
店に戻った後も、散々、龍司さんや常連さんに浮かれた態度を突っ込まれ、ネタにされたのは言うまでもない。
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