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泣かせたい俺と泣き虫な君【4】
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「凛乃介~? そろそろ支度しないとバイト遅れるよー?」
ぬいぐるみが置かれて狭くなったシングルベッドの布団の中から顔を出し、俺は時計を見た。
「あー、マジだ……だる……」
「最近サボりまくってんじゃん! どうしたの? あんなにバーテンのバイト楽しいって言ってたのに」
「んー? 楽しいのは楽しいよー」
言いながら、ベッドに腰掛けてきた女の子のお腹に腕を回す。探るように指を滑らせていると手で叩かれた。
「あたし、これからセフレんとこ行くから、凛乃介もちゃんとバイト行きな」
「え~わざわざセフレのとこ行くなら相手俺でも良くない?」
「最近の凛乃介はカッコ悪いから嫌」
「どこがどうカッコ悪いって?」
「顔」
女の子は俺の額に人差し指を突き立てると、一切の遠慮なくそう言った。
「そもそも急にうちに転がり込んできて、しばらく泊めてくれってなんなの? ダサいにもほどがあるでしょ!」
「色々事情があって……」
「とにかく! こんなダサくてカッコ悪い凛乃介の相手なんかしてる暇ないの! あたしに相手して欲しかったらいつものカッコ良い凛乃介に戻ってから出直してきな!」
そう言いながら布団を引き剥がされる。パンツしか履いてない状況で空気に晒されて鳥肌が立つ。
「分ーかーりーまーしーた!」
俺はヤケになって服を着始める。バイトに行くのも気乗りしなかったが、ここを追い出されてしまっては居場所がない。
とりあえず言われた通りにしようと、家を出ると渋々バイト先へと向かった。
「凛乃介? 体調大丈夫か?」
店に着いて、一番に声を掛けてきたのは先輩の龍司さんだった。
「あ、はい、……おかげさまで……」
体調不良という名目でサボっていたことを思い出す。
「病み上がりなんだから無理すんなよー」
龍司さんの優しさに流石に良心が痛む。自暴自棄になって全部から逃げ出していたが、人に迷惑をかけるのはダサいとようやく気付く。
「しっかし、マジで具合悪かったんだなぁ。いつものイケメン顔が台無しだぞ」
「え、俺、そんな酷い顔してます……?」
「酷い、酷い。まぁでも、たまには黄色い声が飛び交わない店内も落ち着いてていいかもなぁ」
自分の顔を一切見ていなかった俺は、己の変わりようにため息をついた。
「じゃー、いつものように開店準備始めちゃって」
「はい」
俺は言われるまま、いつもと同じように仕事を始めた。
動き始めてお客が入り始めると、あれこれ悩んでいたことが少しだけ薄らいだ。いや、久しぶりのバイトで余裕が無く、考える暇がなかったと言った方が適切かもしれない。
とにかく、俺は常連からひっきりなしに声を掛けられ、会話をすることで徐々にいつもの自分を取り戻し始めた。
常連の女の子たちをお見送りするためにドアを開けるのもれっきとした俺の仕事だ。
しばらくバイトに来ていなかった分の愛想を込めて、明るく声を掛ける。
「また来てねー!」
言いながらドアを開けると、目の前にちょこんと佇む直生の姿があった。
正直、幻覚か何かだと思った。
「また凛乃介がいる時に来るね!」
女の子達がきゃあきゃあとはしゃぎながら店を出る。俺はやっとの思いで取り繕った笑顔で手を振り、女の子たちを送り出した。
そして、なるべく平静を装って、固まって動かないでいる直生に声を掛けた。
「直生……? なんでここに……?」
直生は何か言いたそうに口をぱくぱくした後、小さい声を出した。
「お、俺がここに来ちゃ悪いかよ……」
思ってもみなかった言葉に戸惑う。
「いや、悪くはないけど……直生、酒飲めねーじゃん」
「酒以外の飲み物だってあるだろ」
「まぁ、あるっちゃあるけど……」
直生の目的が分からずに逡巡する。
「前に、凛乃介が誘ってくれたじゃん。俺のバーテン姿見に来いよって。だから、来た」
「言ったけど……」
それにしたって唐突だ。
「邪魔だったらすぐに帰るし」
「邪魔ってことはないけど……」
正直、今直生の顔を見たくはなかった。ようやくいつもの自分の取り戻せそうだったのに振り出しに戻ってしまったような感覚を覚えた。
俺が気まずい空気を出していると、店内から名前を呼ばれた。つい反射で笑顔で返事をしてしまう。
そうだ、今俺はバイト中なのだ。いくら直生とは言え、客として来たなら迎え入れなければならない。俺はドアを大きく開けて直生を招き入れた。
「来て」
直生はおどおどとした様子で、いつもに輪をかけて小さくなり、俺の後ろを着いてきた。
おそらく直生はこういう場所に来るのは初めてだろう。そう考えると、ますます直生がここに来た理由が分からなかった。
「ここで待ってて」
俺は直生を常連しか通してない奥のスペースへ誘導した。今は客の流れが落ち着いていて、この周辺には誰もいない。おまけにカーテンで個室になるため、直生も落ち着けるだろうと思ったからだった。
直生が椅子に座ったのを確認すると、カーテンを降ろして席を離れた。
慌てて、カウンターまで戻り、飲み物を作り始める。
直生がここに来たら絶対に作ろうと思っていたカクテル。オレンジジュースが好きな直生のために考えておいた。
もっとちゃんとした機会に出したかったが、もうそんな機会はないかもしれないと思うと、俺への餞別がわりにどうしても飲んで貰いたかった。
慣れた手つきで準備をすると、龍司さんに声を掛ける。病み上がりの設定のせいか、すぐに休憩の許可が出た。
お礼を言って足早に直生の下に戻る。すると、不思議そうな顔で直生が俺を見た。
「バイトは……?」
「休憩貰ってきた。直生はこれな」
内心ドキドキしながら、直生の前にドリンクを置く。
「これは……?」
「オレンジベースのカクテル作った。勿論ノンアルだから心配すんな」
「…………ありがとう」
俺の緊張をよそに、直生は一気に飲み干した。
気に入ってもらえたのかもしれない。そう思うと少しだけ緊張が解けた。
「凛乃介~? そろそろ支度しないとバイト遅れるよー?」
ぬいぐるみが置かれて狭くなったシングルベッドの布団の中から顔を出し、俺は時計を見た。
「あー、マジだ……だる……」
「最近サボりまくってんじゃん! どうしたの? あんなにバーテンのバイト楽しいって言ってたのに」
「んー? 楽しいのは楽しいよー」
言いながら、ベッドに腰掛けてきた女の子のお腹に腕を回す。探るように指を滑らせていると手で叩かれた。
「あたし、これからセフレんとこ行くから、凛乃介もちゃんとバイト行きな」
「え~わざわざセフレのとこ行くなら相手俺でも良くない?」
「最近の凛乃介はカッコ悪いから嫌」
「どこがどうカッコ悪いって?」
「顔」
女の子は俺の額に人差し指を突き立てると、一切の遠慮なくそう言った。
「そもそも急にうちに転がり込んできて、しばらく泊めてくれってなんなの? ダサいにもほどがあるでしょ!」
「色々事情があって……」
「とにかく! こんなダサくてカッコ悪い凛乃介の相手なんかしてる暇ないの! あたしに相手して欲しかったらいつものカッコ良い凛乃介に戻ってから出直してきな!」
そう言いながら布団を引き剥がされる。パンツしか履いてない状況で空気に晒されて鳥肌が立つ。
「分ーかーりーまーしーた!」
俺はヤケになって服を着始める。バイトに行くのも気乗りしなかったが、ここを追い出されてしまっては居場所がない。
とりあえず言われた通りにしようと、家を出ると渋々バイト先へと向かった。
「凛乃介? 体調大丈夫か?」
店に着いて、一番に声を掛けてきたのは先輩の龍司さんだった。
「あ、はい、……おかげさまで……」
体調不良という名目でサボっていたことを思い出す。
「病み上がりなんだから無理すんなよー」
龍司さんの優しさに流石に良心が痛む。自暴自棄になって全部から逃げ出していたが、人に迷惑をかけるのはダサいとようやく気付く。
「しっかし、マジで具合悪かったんだなぁ。いつものイケメン顔が台無しだぞ」
「え、俺、そんな酷い顔してます……?」
「酷い、酷い。まぁでも、たまには黄色い声が飛び交わない店内も落ち着いてていいかもなぁ」
自分の顔を一切見ていなかった俺は、己の変わりようにため息をついた。
「じゃー、いつものように開店準備始めちゃって」
「はい」
俺は言われるまま、いつもと同じように仕事を始めた。
動き始めてお客が入り始めると、あれこれ悩んでいたことが少しだけ薄らいだ。いや、久しぶりのバイトで余裕が無く、考える暇がなかったと言った方が適切かもしれない。
とにかく、俺は常連からひっきりなしに声を掛けられ、会話をすることで徐々にいつもの自分を取り戻し始めた。
常連の女の子たちをお見送りするためにドアを開けるのもれっきとした俺の仕事だ。
しばらくバイトに来ていなかった分の愛想を込めて、明るく声を掛ける。
「また来てねー!」
言いながらドアを開けると、目の前にちょこんと佇む直生の姿があった。
正直、幻覚か何かだと思った。
「また凛乃介がいる時に来るね!」
女の子達がきゃあきゃあとはしゃぎながら店を出る。俺はやっとの思いで取り繕った笑顔で手を振り、女の子たちを送り出した。
そして、なるべく平静を装って、固まって動かないでいる直生に声を掛けた。
「直生……? なんでここに……?」
直生は何か言いたそうに口をぱくぱくした後、小さい声を出した。
「お、俺がここに来ちゃ悪いかよ……」
思ってもみなかった言葉に戸惑う。
「いや、悪くはないけど……直生、酒飲めねーじゃん」
「酒以外の飲み物だってあるだろ」
「まぁ、あるっちゃあるけど……」
直生の目的が分からずに逡巡する。
「前に、凛乃介が誘ってくれたじゃん。俺のバーテン姿見に来いよって。だから、来た」
「言ったけど……」
それにしたって唐突だ。
「邪魔だったらすぐに帰るし」
「邪魔ってことはないけど……」
正直、今直生の顔を見たくはなかった。ようやくいつもの自分の取り戻せそうだったのに振り出しに戻ってしまったような感覚を覚えた。
俺が気まずい空気を出していると、店内から名前を呼ばれた。つい反射で笑顔で返事をしてしまう。
そうだ、今俺はバイト中なのだ。いくら直生とは言え、客として来たなら迎え入れなければならない。俺はドアを大きく開けて直生を招き入れた。
「来て」
直生はおどおどとした様子で、いつもに輪をかけて小さくなり、俺の後ろを着いてきた。
おそらく直生はこういう場所に来るのは初めてだろう。そう考えると、ますます直生がここに来た理由が分からなかった。
「ここで待ってて」
俺は直生を常連しか通してない奥のスペースへ誘導した。今は客の流れが落ち着いていて、この周辺には誰もいない。おまけにカーテンで個室になるため、直生も落ち着けるだろうと思ったからだった。
直生が椅子に座ったのを確認すると、カーテンを降ろして席を離れた。
慌てて、カウンターまで戻り、飲み物を作り始める。
直生がここに来たら絶対に作ろうと思っていたカクテル。オレンジジュースが好きな直生のために考えておいた。
もっとちゃんとした機会に出したかったが、もうそんな機会はないかもしれないと思うと、俺への餞別がわりにどうしても飲んで貰いたかった。
慣れた手つきで準備をすると、龍司さんに声を掛ける。病み上がりの設定のせいか、すぐに休憩の許可が出た。
お礼を言って足早に直生の下に戻る。すると、不思議そうな顔で直生が俺を見た。
「バイトは……?」
「休憩貰ってきた。直生はこれな」
内心ドキドキしながら、直生の前にドリンクを置く。
「これは……?」
「オレンジベースのカクテル作った。勿論ノンアルだから心配すんな」
「…………ありがとう」
俺の緊張をよそに、直生は一気に飲み干した。
気に入ってもらえたのかもしれない。そう思うと少しだけ緊張が解けた。
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