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蝙蝠屋
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死んだはずなのに痛いと感じることがあるんだろうか。と、いうより、死んだのならこう考える暇もないのではないだろうか。
(あ、れ……?)
夢から覚めるのと同じ感覚で、俺は目を開けた。
すぐに感じる痛みに目を細めると、痛みは瞬時に引き、代わりに近くで何かが動く気配がした。
「わ、動いた」
「動いた! 動いた!」
懐かしい感じがした。
沢山の子どもたちに囲まれて過ごしたあの日々。
俺が昼寝をしていると、決まってイタズラをしにくる子がいた。俺は寝たふりを続けてその子が罠にかかるのを待った。ゆっくり息を殺して近づいて来ているつもりでも、堪えきれない笑い声で近くまで来ているのが分かる。またイタズラされる前に素早く捕まえてお腹をくすぐると嬉しそうな声を上げて飛び跳ねた。
あの子の名前は何だったか。
少し考えてみたが思い出せない。
「また動かなくなった!」
一際大きな声がした。女の子の声だ。
その声に急に現実に引き戻された。
俺は飛び起きるように身体を起こすと辺りを見回した。俺の上に掛けられていた布団が大きく翻った。
「わ!」
「うわっ!」
複数の声が重なる。俺と、先程の女の子の声だ。
俺は声のする方へ振り返った。おそらく四畳ほどの狭い和室の隅に十歳くらいの女の子とそれより少し幼い顔をした男の子がいた。どちらも浴衣の様な服を着ていて、髪を後ろで一つに結いている。男の子は手に木の棒を持っていて、先程の痛みの原因に見当がつく。
俺は部屋の真ん中に敷かれた布団に寝かされていたらしい。部屋には家具の類は無かったが、畳の上にペルシャ模様のような絨毯が敷かれていた。
廊下へと続く襖は開いていたが、見える範囲で他に人の気配は無く静まり返っていた。
「えっと……君たちは?」
「わたし、千宇音(ちうね)。千の宇宙の音で千宇音!」
「ぼく、虎弥太(こやた)。虎とえーと、弓に……こういう字書く!」
子どもたちはなんの警戒心もなく口々に名前を答える。聞いておいてアレだが、少し心配になってしまう。
「千宇音と虎弥太ね。俺は――」
怪しいものではないと理解してもらうために自己紹介をしようと口を開く。が、更に大きく響いた声に掻き消された。
「あら、目が覚めたのね!」
低めの……ハスキーな女の人の声。
俺は声がした廊下の方へ目をやった。
「シャロニカ!」
女の子が彼女の名前を呼んだ。
シャロニカと呼ばれた女の人はその呼びかけに、にっこりと応え部屋へ入って来た。おそらく俺より少し年上くらいだろう。長い前髪を掻き分けながらゆっくりと俺に近づいてくる。妙に雰囲気のある動きに加え、前をちゃんと合わせていない、腰の紐一本でとめられただけのはだけた薄い着物姿に俺は思わず目を背ける。
「ああ、ごめんなさい! こんな所で生活してると、この辺感覚おかしくなっちゃって」
シャロニカさんはそう言いながら、しっかりと襟元を正すように腕を動かし始めた。
「はい、もうこっち見ても大丈夫よ」
大丈夫、と言われても、じゃあ見ます、とはなれない。俺だって一応、健全な十九歳の男だ。それに加えて免疫が無さすぎるせいで直視は出来なかった。
「大変だったわね、アレに襲われるなんて」
「アレ……?」
俺の身分を問いただすでもなく始まった会話に俺は思わず顔を上げた。シャロニカさんは意外そうな顔で俺を見ていた。
「アレっていうのは……?」
「嫌だ、忘れちゃった? アレはアレよ。人によって呼び方は違うけど。アレに襲われると色々不幸が起きるって聞くけど記憶が無いのもそのせい?」
アレが何を指すのか、なんとなく分かってきた。
確かにアレに名前を付けようと思ったら難しいだろう。
俺のことを呼んだアレ。俺の背中にピッタリとくっ付いてきたアレ。今思い出しても気味が悪くなるアレ。
アレの正体が気になったが、もうこれ以上聞かないことにした。多分、聞いたところで分からないだろう。
「えっと、ここは……?」
「嘘! 本当に記憶喪失なの?」
「あの………………はい」
そういうことにしておいた方が都合が良さそうだと思った。嘘をつくのは心が痛んだが、どこだか分からない世界で身を守るためには仕方がない。
「じゃあ蝙蝠楼(こうもりろう)の池の中に倒れてたのも偶然? だとしたらすごい幸運だったわね!」
「蝙蝠楼……?」
「ここのことよ。この色町最大の大見世。あっ、蝙蝠楼って言うのは通称で、本当は煌璃楼(こうりろう)って言うんだけど。楼主の姿が蝙蝠みたいだからみんなそう呼んでるわ」
何となく、おそろしい人なんだろうなと思う。蝙蝠にあまり良いイメージは無い。
「じゃあ俺はシャロニカさんに助けられて……?」
口に出してその違和感にようやく気付いた。
シャロニカさんはどう見ても見た目は日本人だ。名前に関して俺は人のことを言えた立場では無いが、それでも違和感はどうしても、ある。
俺が自己紹介すると、他の人はこんな気持ちになっていたのかと、今更理解する。
「そうよ、見つけたのはこの子たちだけどね。朝起きたらこの子たちがあなたを――そういえば、名前聞いてなかったわね。名前は覚えてる?」
「あ、亜莉寿って言います」
「アリスって言うの? 外の世界の響きの名前ね? もしかしたら遊女だったのかも……」
「遊女!?」
俺の知っている遊女とは、遊郭で働く女の人のことだ。そもそも現代では遊郭と名のつくものは無いし、遊女と名乗る人もいないだろう。
(そういえば……)
シャロニカはここを大見世だと言っていた。そしてここは色町だとも。あまり得意ではなかった歴史の授業の知識と言葉の響きから、この蝙蝠楼が遊郭のような場所だと理解する。そして俺は今、そんな町で働いていた遊女だと疑われている。
「俺は――見ての通り男だし、多分違うと思います」
「あら、性別なんて関係ないわよ。昔は女ばっかりだったらしいけどね。今でもその名残で遊女って呼ぶくらいだし。でも、最近は男の花魁だって多いわよ。ウチにもいるしね」
「そうなんですか……」
知れば知るほど、俺が知っている日本とはかけ離れていく。
「それに、アリスって名前なんでしょう? 遊女はみんな外の世界の名前を付けるから、多分同業だと思うんだけど」
シャロニカさんが本気で俺の身を案じてくれているのは伝わる。その気持ちは嬉しいのだが、このままだと俺は遊女ということになってしまう。流石にそれだけは避けたい。
「えーっと、もし仮に遊女だったとしても、この通り記憶が無くなっちゃってるんで……多分もう働けないと思います」
「そうかしら? 努力次第だと思うんだけどねぇ。アリスは変わった見た目をしているし、ここで働いていればアリスのことを知ってる人も見つかるかもよ?」
そう言ってシャロニカさんは俺の顔から上、主に頭を見た。
自分としてはどこにでもいそうな平均的な顔をしていると思っているのだが、どうやらシャロニカさんが言っているのはそこではないらしい。
「その髪、生まれつき?」
「髪――? あ、」
現代では見慣れた金髪ブリーチ。確かに黒髪しか存在しない世界だと変わった見た目になるかもしれない。俺がどう説明しようか迷っていると、シャロニカさんは少し慌てたように声を出した。
「言いたくなかったらいいのよ。誰にでも人に言いたくないことくらいあるわよね」
「えーと、そうですね……その辺も記憶がちょっと……」
都合の良い記憶喪失に流石に怪しまれるかと思ったが、人が良いシャロニカさんは俺に深く同情したようだった。
「分かった。みんなにも根掘り葉掘り聞かないように言っておくわね」
そう言って慣れた様子でウインクする。アイドルがするような隙のないリアクションに少しドギマギする。
「た、助かります。……あれ? みんな?」
「そうよ? みんな。ここで暮らしていくなら、みんなに挨拶しないと。あ、でもまずは――」
(ここで暮らす? 俺が?)
シャロニカさんはそう言うと、千宇音と小弥太をそばに呼んで何かを耳打ちした。二人は途端に瞳を輝かせ部屋から出ていく。
「記憶が戻るまでは――多分遊女見習いって事になると思うわ。アリスの年で見習いしてる子なんていないけど、事情が事情だもの、誰も笑ったりしないわよ」
「遊女見習い……!?」
遊女の仕事はなんとなく想像がつくが、見習いとなると話は変わってくる。とりあえず遊女になる事は一時的に回避できたようだが、完全に逃げ切ることには失敗してしまった。
「遊女見習いって……主に何をするんですか……?」
「そうねぇ、見世の掃除だったり、洗濯、みんなのご飯の用意、後はちょっとしたお使いとかかしら。たまに花魁や先輩について座敷に上がることはあるけど、競争率が高いからしばらくは無理だと思っておいた方が良いわね」
最後の一つを抜かすと、要するに家事全般。養護施設を出て一年と少し、一人暮らしで培ったスキルを使えばどうにか切り抜けられそうな内容だ。最後の一つも、しばらくは無理ということなら安心だろう。
それならこのままの流れで、ここでお世話になる方がいいのかもしれないと思い始める。
この世界のことが何一つ分からない今、目の前にぶら下げられた、おそらく安全な生活をみすみす逃す手はない。どのみち、外はあの得体の知れないバケモノが徘徊しているような町なのだ。だったら居場所を確保するのが最優先だろう。
「お世話になっても大丈夫ですか……?」
「もちろん! ここはアリスみたいな訳ありの子が身を寄せ合う場所だからね」
「…………よろしくお願いします」
思いがけず迷い込んだ世界で、思いがけず居候することになってしまった。
(運が良いのか悪いのか分からない……)
総合的に考えたら多分マイナス。
それでも俺は前を向く。
シャロニカさんの眩し過ぎる笑顔に釣られ、俺もこの世界に来て初めて顔を緩めることができた。
(あ、れ……?)
夢から覚めるのと同じ感覚で、俺は目を開けた。
すぐに感じる痛みに目を細めると、痛みは瞬時に引き、代わりに近くで何かが動く気配がした。
「わ、動いた」
「動いた! 動いた!」
懐かしい感じがした。
沢山の子どもたちに囲まれて過ごしたあの日々。
俺が昼寝をしていると、決まってイタズラをしにくる子がいた。俺は寝たふりを続けてその子が罠にかかるのを待った。ゆっくり息を殺して近づいて来ているつもりでも、堪えきれない笑い声で近くまで来ているのが分かる。またイタズラされる前に素早く捕まえてお腹をくすぐると嬉しそうな声を上げて飛び跳ねた。
あの子の名前は何だったか。
少し考えてみたが思い出せない。
「また動かなくなった!」
一際大きな声がした。女の子の声だ。
その声に急に現実に引き戻された。
俺は飛び起きるように身体を起こすと辺りを見回した。俺の上に掛けられていた布団が大きく翻った。
「わ!」
「うわっ!」
複数の声が重なる。俺と、先程の女の子の声だ。
俺は声のする方へ振り返った。おそらく四畳ほどの狭い和室の隅に十歳くらいの女の子とそれより少し幼い顔をした男の子がいた。どちらも浴衣の様な服を着ていて、髪を後ろで一つに結いている。男の子は手に木の棒を持っていて、先程の痛みの原因に見当がつく。
俺は部屋の真ん中に敷かれた布団に寝かされていたらしい。部屋には家具の類は無かったが、畳の上にペルシャ模様のような絨毯が敷かれていた。
廊下へと続く襖は開いていたが、見える範囲で他に人の気配は無く静まり返っていた。
「えっと……君たちは?」
「わたし、千宇音(ちうね)。千の宇宙の音で千宇音!」
「ぼく、虎弥太(こやた)。虎とえーと、弓に……こういう字書く!」
子どもたちはなんの警戒心もなく口々に名前を答える。聞いておいてアレだが、少し心配になってしまう。
「千宇音と虎弥太ね。俺は――」
怪しいものではないと理解してもらうために自己紹介をしようと口を開く。が、更に大きく響いた声に掻き消された。
「あら、目が覚めたのね!」
低めの……ハスキーな女の人の声。
俺は声がした廊下の方へ目をやった。
「シャロニカ!」
女の子が彼女の名前を呼んだ。
シャロニカと呼ばれた女の人はその呼びかけに、にっこりと応え部屋へ入って来た。おそらく俺より少し年上くらいだろう。長い前髪を掻き分けながらゆっくりと俺に近づいてくる。妙に雰囲気のある動きに加え、前をちゃんと合わせていない、腰の紐一本でとめられただけのはだけた薄い着物姿に俺は思わず目を背ける。
「ああ、ごめんなさい! こんな所で生活してると、この辺感覚おかしくなっちゃって」
シャロニカさんはそう言いながら、しっかりと襟元を正すように腕を動かし始めた。
「はい、もうこっち見ても大丈夫よ」
大丈夫、と言われても、じゃあ見ます、とはなれない。俺だって一応、健全な十九歳の男だ。それに加えて免疫が無さすぎるせいで直視は出来なかった。
「大変だったわね、アレに襲われるなんて」
「アレ……?」
俺の身分を問いただすでもなく始まった会話に俺は思わず顔を上げた。シャロニカさんは意外そうな顔で俺を見ていた。
「アレっていうのは……?」
「嫌だ、忘れちゃった? アレはアレよ。人によって呼び方は違うけど。アレに襲われると色々不幸が起きるって聞くけど記憶が無いのもそのせい?」
アレが何を指すのか、なんとなく分かってきた。
確かにアレに名前を付けようと思ったら難しいだろう。
俺のことを呼んだアレ。俺の背中にピッタリとくっ付いてきたアレ。今思い出しても気味が悪くなるアレ。
アレの正体が気になったが、もうこれ以上聞かないことにした。多分、聞いたところで分からないだろう。
「えっと、ここは……?」
「嘘! 本当に記憶喪失なの?」
「あの………………はい」
そういうことにしておいた方が都合が良さそうだと思った。嘘をつくのは心が痛んだが、どこだか分からない世界で身を守るためには仕方がない。
「じゃあ蝙蝠楼(こうもりろう)の池の中に倒れてたのも偶然? だとしたらすごい幸運だったわね!」
「蝙蝠楼……?」
「ここのことよ。この色町最大の大見世。あっ、蝙蝠楼って言うのは通称で、本当は煌璃楼(こうりろう)って言うんだけど。楼主の姿が蝙蝠みたいだからみんなそう呼んでるわ」
何となく、おそろしい人なんだろうなと思う。蝙蝠にあまり良いイメージは無い。
「じゃあ俺はシャロニカさんに助けられて……?」
口に出してその違和感にようやく気付いた。
シャロニカさんはどう見ても見た目は日本人だ。名前に関して俺は人のことを言えた立場では無いが、それでも違和感はどうしても、ある。
俺が自己紹介すると、他の人はこんな気持ちになっていたのかと、今更理解する。
「そうよ、見つけたのはこの子たちだけどね。朝起きたらこの子たちがあなたを――そういえば、名前聞いてなかったわね。名前は覚えてる?」
「あ、亜莉寿って言います」
「アリスって言うの? 外の世界の響きの名前ね? もしかしたら遊女だったのかも……」
「遊女!?」
俺の知っている遊女とは、遊郭で働く女の人のことだ。そもそも現代では遊郭と名のつくものは無いし、遊女と名乗る人もいないだろう。
(そういえば……)
シャロニカはここを大見世だと言っていた。そしてここは色町だとも。あまり得意ではなかった歴史の授業の知識と言葉の響きから、この蝙蝠楼が遊郭のような場所だと理解する。そして俺は今、そんな町で働いていた遊女だと疑われている。
「俺は――見ての通り男だし、多分違うと思います」
「あら、性別なんて関係ないわよ。昔は女ばっかりだったらしいけどね。今でもその名残で遊女って呼ぶくらいだし。でも、最近は男の花魁だって多いわよ。ウチにもいるしね」
「そうなんですか……」
知れば知るほど、俺が知っている日本とはかけ離れていく。
「それに、アリスって名前なんでしょう? 遊女はみんな外の世界の名前を付けるから、多分同業だと思うんだけど」
シャロニカさんが本気で俺の身を案じてくれているのは伝わる。その気持ちは嬉しいのだが、このままだと俺は遊女ということになってしまう。流石にそれだけは避けたい。
「えーっと、もし仮に遊女だったとしても、この通り記憶が無くなっちゃってるんで……多分もう働けないと思います」
「そうかしら? 努力次第だと思うんだけどねぇ。アリスは変わった見た目をしているし、ここで働いていればアリスのことを知ってる人も見つかるかもよ?」
そう言ってシャロニカさんは俺の顔から上、主に頭を見た。
自分としてはどこにでもいそうな平均的な顔をしていると思っているのだが、どうやらシャロニカさんが言っているのはそこではないらしい。
「その髪、生まれつき?」
「髪――? あ、」
現代では見慣れた金髪ブリーチ。確かに黒髪しか存在しない世界だと変わった見た目になるかもしれない。俺がどう説明しようか迷っていると、シャロニカさんは少し慌てたように声を出した。
「言いたくなかったらいいのよ。誰にでも人に言いたくないことくらいあるわよね」
「えーと、そうですね……その辺も記憶がちょっと……」
都合の良い記憶喪失に流石に怪しまれるかと思ったが、人が良いシャロニカさんは俺に深く同情したようだった。
「分かった。みんなにも根掘り葉掘り聞かないように言っておくわね」
そう言って慣れた様子でウインクする。アイドルがするような隙のないリアクションに少しドギマギする。
「た、助かります。……あれ? みんな?」
「そうよ? みんな。ここで暮らしていくなら、みんなに挨拶しないと。あ、でもまずは――」
(ここで暮らす? 俺が?)
シャロニカさんはそう言うと、千宇音と小弥太をそばに呼んで何かを耳打ちした。二人は途端に瞳を輝かせ部屋から出ていく。
「記憶が戻るまでは――多分遊女見習いって事になると思うわ。アリスの年で見習いしてる子なんていないけど、事情が事情だもの、誰も笑ったりしないわよ」
「遊女見習い……!?」
遊女の仕事はなんとなく想像がつくが、見習いとなると話は変わってくる。とりあえず遊女になる事は一時的に回避できたようだが、完全に逃げ切ることには失敗してしまった。
「遊女見習いって……主に何をするんですか……?」
「そうねぇ、見世の掃除だったり、洗濯、みんなのご飯の用意、後はちょっとしたお使いとかかしら。たまに花魁や先輩について座敷に上がることはあるけど、競争率が高いからしばらくは無理だと思っておいた方が良いわね」
最後の一つを抜かすと、要するに家事全般。養護施設を出て一年と少し、一人暮らしで培ったスキルを使えばどうにか切り抜けられそうな内容だ。最後の一つも、しばらくは無理ということなら安心だろう。
それならこのままの流れで、ここでお世話になる方がいいのかもしれないと思い始める。
この世界のことが何一つ分からない今、目の前にぶら下げられた、おそらく安全な生活をみすみす逃す手はない。どのみち、外はあの得体の知れないバケモノが徘徊しているような町なのだ。だったら居場所を確保するのが最優先だろう。
「お世話になっても大丈夫ですか……?」
「もちろん! ここはアリスみたいな訳ありの子が身を寄せ合う場所だからね」
「…………よろしくお願いします」
思いがけず迷い込んだ世界で、思いがけず居候することになってしまった。
(運が良いのか悪いのか分からない……)
総合的に考えたら多分マイナス。
それでも俺は前を向く。
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