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今日の宿探し【トナミ】
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いつもやっているように、焦らしながらシャツのボタンを外し、唇を這わせていく。
胸の突起に軽く歯を当てる。それから舌先で転がすように舐める。
相手が僅かに動いた。
オレは自分が着ていた、だぼだぼのTシャツを思い切りよく脱ぎ捨てると、相手を押し倒し、馬乗りになった。冷たい空気に鳥肌が立つが、相手の素肌に手を当てて温もりを分けてもらう。
誘うように首を傾けると、オレの自慢のプラチナブロンドの髪が僅かな照明に照らされて細く光った。
ちゅっ、ちゅっ、とわざとらしい音を立てながら唇を身体に這わせ、徐々に下半身へと移動していく。
自分の下半身を相手の脚に擦りつけ、これでもかというほどに密着する。
様子を窺うように上目づかいで相手を見る。目を合わせてにっこりほほ笑むつもりだったのに、向こうは固く目を瞑っていて叶わなかった。
それなら、と次の作戦に移る。
「ン、ァ、ん、」
別に感じてもいないのに、雰囲気を作るために声を出す。
オレの声は下半身に、クるってよく褒められた。男にしては高めの声がコンプレックスだったが、こういう使い方が出来るなら良いかなとも思う。だから今日も少し大袈裟に演技をする。
鼠蹊部のラインをなぞるように舐めながら、グレーのボクサーパンツのゴムの部分を口に含む。
オレの唾液でパンツの色が濃く変わる。
これを見て興奮する人も多いのに、勿体ない事をしているな、と思う。
相手はいつまでも目を瞑っていて全然オレのことを見ようとしない。
視覚的に攻められない分、思ったよりも相手の反応は悪かったが、経験上、ここまですれば、もう大丈夫なはずだ。
オレはニヤッと笑うと、相手の熱を露わにしようと、口を使ってパンツをずらし始めた。
「わー、ありがとう!」
オレが行きつけのバーで今夜の宿、もとい寄生先を探しをしていると、カウンターの隣に一席空けて座っていた女が急に大きめな声を出した。
本人にその意識はなかったのか、周囲の客が一瞬彼女の方に注目すると、恥ずかしそうに身を縮こまさせて、謝るように数回軽く会釈した。
見た目はオレと同じくらいか少し上、多分二十代半ばくらい。茶色のボブが似合う童顔だが、オレの目は誤魔化せない。
店に入ってきた時にめざとくチェックしたが、連れの男は冴えない容姿のおじさんでオレの好みではなかった。それに女連れの男は絶対に釣れないことは分かっているから、オレは隣の客に対してすぐに興味を失っていた。
「ごめん、大きな声出しちゃって……、嬉しくって、つい」
「あぁ、気にすんな。それだけ喜んで貰えたら製作者冥利に尽きるわ」
「ねね、開けていい?」
「どうぞ」
女の媚びるような声が気に障る。
きっと、意識してこんな声を出しているわけではないのだろう。この声で甘える方が全て自分にとって良い方向にいくのだと、今までの人生経験から理解しているのだ。だからわざとじゃない。わざとじゃない所がオレのイライラを加速させる。
そうやって今まで何度も『寄生先』を奪われてきた。"そういう"やつ以外、最終的には女の方に靡く。だから、女という生き物に恨みはないが、妬みはめちゃくちゃにある。
顔だけだったらオレの方が可愛いのに。
オレの自己肯定感を支えている容姿の良さで内心マウントをとる。そんなことをしても意味はないと分かっているのに、自分が他人、とりわけ世渡りが上手そうな女よりも劣っていると思いたくなくて、ついついやってしまう。
そんな拗れに拗れた性格のオレは、なんとなく暇つぶしに隣の会話に耳を傾けることにした。
「すっごい! 理想通り! 流石イト君!」
イト君と呼ばれた男の顔は見えないが、僅かな身じろぎが彼は照れているのだとオレに伝える。
「やっぱりイト君に頼んで正解だったよ!」
「良かった……」
イト君から吐き出された安堵の息が、言いようのない緊張感を含んでいた。
あ、これは。
オレはピンときて、顔を背けた。
このイト君は隣の女に惚れていて、プレゼントか何かでもあげたのだろう。おそらく、今日、告白かプロポーズでもするつもりで、頑張って用意したものを喜んでもらえて浮かれている最中だ。
オレは嘆息した。
幸せなカップルの行く末を暇つぶしで観察出来るほど、今のオレには気持ちの余裕が無い。
そもそも、オレは今夜の宿を探しにこのバーに来ているのだ。決して他人のイチャイチャを見に来たわけではない。
二人に対しての興味が薄れたオレは、新しい客でも来ないかと、店の出入り口に目を向けた。
手元のグラスは既に空になっていたが、追加で注文するのを躊躇していた。
今日、誰も捕まらなかったら、またネカフェ泊まりになるのかぁ~、ネカフェ寒いんだよなぁ……そろそろ足伸ばして寝たいなぁ~
連日の狭い室内での睡眠に身体が悲鳴を上げ始めている。成人男性の平均よりも身長も体重も低かったオレだが、流石にネカフェの個室で快適に生活できるようなサイズ感ではない。
隣の二人の行く末よりも、自分の行く末を考えると顔が引き攣ってくる。
オレの唯一の武器と言っても良い顔の良さを、こんなことで台無しにする訳にはいかないと、なんとか表情を取り繕う。
もうここにい続けても収穫はないかもしれない。諦めて店を出ようかと考え始めた。その時。
「これで理想通りの結婚式が挙げられるよ! 本当にありがとう!」
え?
もう聞き流すだけになっていた隣のカップルの会話に再び注目することとなった。
思わず前のめりになり、横目で二人を確認してしまう。
「あぁ、うん……良かった」
全然良くなさそうな顔でイト君が応える。どうやら二人はオレが想像していた関係ではないらしい。
イト君が女のことを好きっていうのは合ってる気がするんだけどなぁ……
自分の推理が外れて少し落ち込む。こんな生活を続けている手前、人間観察には自信があったのだ。
「そうだ! お礼に奢らせて! あ、もちろんちゃんとお金も払うから心配しないでね!」
女の方はそれはもう絵にかいたようなウキウキ顔でイト君から貰った何かを眺めている。
「そんなの気にすんなよ……それより、芽依は何か飲まないのか?」
「あ、わたしは……あの、お酒はちょっと、」
芽依と呼ばれた女は少しだけ言いづらそうに、しかし聞いて欲しそうな顔でちらちらとイト君を見る。
まどろっこしいな、と思う。
「芽依、お酒好きだっただろ?」
「あ、うん。そうなんだけど……、今日っていうか、これからしばらくはちょっと飲めなくなったんだよ、ね……」
最高に歯切れが悪い。
何故かオレの方が苛立ちを感じ始める。
「なんで? 具合悪いとか?」
「そうじゃなくて……!」
痺れを切らしたように芽依は少しだけ声のボリュームを落とした。
「赤ちゃん、出来たから……」
「え、」
晴天の霹靂だったのだろう。イト君は固まってしまった。
胸の突起に軽く歯を当てる。それから舌先で転がすように舐める。
相手が僅かに動いた。
オレは自分が着ていた、だぼだぼのTシャツを思い切りよく脱ぎ捨てると、相手を押し倒し、馬乗りになった。冷たい空気に鳥肌が立つが、相手の素肌に手を当てて温もりを分けてもらう。
誘うように首を傾けると、オレの自慢のプラチナブロンドの髪が僅かな照明に照らされて細く光った。
ちゅっ、ちゅっ、とわざとらしい音を立てながら唇を身体に這わせ、徐々に下半身へと移動していく。
自分の下半身を相手の脚に擦りつけ、これでもかというほどに密着する。
様子を窺うように上目づかいで相手を見る。目を合わせてにっこりほほ笑むつもりだったのに、向こうは固く目を瞑っていて叶わなかった。
それなら、と次の作戦に移る。
「ン、ァ、ん、」
別に感じてもいないのに、雰囲気を作るために声を出す。
オレの声は下半身に、クるってよく褒められた。男にしては高めの声がコンプレックスだったが、こういう使い方が出来るなら良いかなとも思う。だから今日も少し大袈裟に演技をする。
鼠蹊部のラインをなぞるように舐めながら、グレーのボクサーパンツのゴムの部分を口に含む。
オレの唾液でパンツの色が濃く変わる。
これを見て興奮する人も多いのに、勿体ない事をしているな、と思う。
相手はいつまでも目を瞑っていて全然オレのことを見ようとしない。
視覚的に攻められない分、思ったよりも相手の反応は悪かったが、経験上、ここまですれば、もう大丈夫なはずだ。
オレはニヤッと笑うと、相手の熱を露わにしようと、口を使ってパンツをずらし始めた。
「わー、ありがとう!」
オレが行きつけのバーで今夜の宿、もとい寄生先を探しをしていると、カウンターの隣に一席空けて座っていた女が急に大きめな声を出した。
本人にその意識はなかったのか、周囲の客が一瞬彼女の方に注目すると、恥ずかしそうに身を縮こまさせて、謝るように数回軽く会釈した。
見た目はオレと同じくらいか少し上、多分二十代半ばくらい。茶色のボブが似合う童顔だが、オレの目は誤魔化せない。
店に入ってきた時にめざとくチェックしたが、連れの男は冴えない容姿のおじさんでオレの好みではなかった。それに女連れの男は絶対に釣れないことは分かっているから、オレは隣の客に対してすぐに興味を失っていた。
「ごめん、大きな声出しちゃって……、嬉しくって、つい」
「あぁ、気にすんな。それだけ喜んで貰えたら製作者冥利に尽きるわ」
「ねね、開けていい?」
「どうぞ」
女の媚びるような声が気に障る。
きっと、意識してこんな声を出しているわけではないのだろう。この声で甘える方が全て自分にとって良い方向にいくのだと、今までの人生経験から理解しているのだ。だからわざとじゃない。わざとじゃない所がオレのイライラを加速させる。
そうやって今まで何度も『寄生先』を奪われてきた。"そういう"やつ以外、最終的には女の方に靡く。だから、女という生き物に恨みはないが、妬みはめちゃくちゃにある。
顔だけだったらオレの方が可愛いのに。
オレの自己肯定感を支えている容姿の良さで内心マウントをとる。そんなことをしても意味はないと分かっているのに、自分が他人、とりわけ世渡りが上手そうな女よりも劣っていると思いたくなくて、ついついやってしまう。
そんな拗れに拗れた性格のオレは、なんとなく暇つぶしに隣の会話に耳を傾けることにした。
「すっごい! 理想通り! 流石イト君!」
イト君と呼ばれた男の顔は見えないが、僅かな身じろぎが彼は照れているのだとオレに伝える。
「やっぱりイト君に頼んで正解だったよ!」
「良かった……」
イト君から吐き出された安堵の息が、言いようのない緊張感を含んでいた。
あ、これは。
オレはピンときて、顔を背けた。
このイト君は隣の女に惚れていて、プレゼントか何かでもあげたのだろう。おそらく、今日、告白かプロポーズでもするつもりで、頑張って用意したものを喜んでもらえて浮かれている最中だ。
オレは嘆息した。
幸せなカップルの行く末を暇つぶしで観察出来るほど、今のオレには気持ちの余裕が無い。
そもそも、オレは今夜の宿を探しにこのバーに来ているのだ。決して他人のイチャイチャを見に来たわけではない。
二人に対しての興味が薄れたオレは、新しい客でも来ないかと、店の出入り口に目を向けた。
手元のグラスは既に空になっていたが、追加で注文するのを躊躇していた。
今日、誰も捕まらなかったら、またネカフェ泊まりになるのかぁ~、ネカフェ寒いんだよなぁ……そろそろ足伸ばして寝たいなぁ~
連日の狭い室内での睡眠に身体が悲鳴を上げ始めている。成人男性の平均よりも身長も体重も低かったオレだが、流石にネカフェの個室で快適に生活できるようなサイズ感ではない。
隣の二人の行く末よりも、自分の行く末を考えると顔が引き攣ってくる。
オレの唯一の武器と言っても良い顔の良さを、こんなことで台無しにする訳にはいかないと、なんとか表情を取り繕う。
もうここにい続けても収穫はないかもしれない。諦めて店を出ようかと考え始めた。その時。
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え?
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イト君が女のことを好きっていうのは合ってる気がするんだけどなぁ……
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「そうだ! お礼に奢らせて! あ、もちろんちゃんとお金も払うから心配しないでね!」
女の方はそれはもう絵にかいたようなウキウキ顔でイト君から貰った何かを眺めている。
「そんなの気にすんなよ……それより、芽依は何か飲まないのか?」
「あ、わたしは……あの、お酒はちょっと、」
芽依と呼ばれた女は少しだけ言いづらそうに、しかし聞いて欲しそうな顔でちらちらとイト君を見る。
まどろっこしいな、と思う。
「芽依、お酒好きだっただろ?」
「あ、うん。そうなんだけど……、今日っていうか、これからしばらくはちょっと飲めなくなったんだよ、ね……」
最高に歯切れが悪い。
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