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予定通り【トナミ】
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意外にもゼンの家はバーからそう遠くない場所にあった。
繁華街からは外れるものの、一応都内で駅も徒歩圏内、近くにはまだ機能している商店街もあって、生活するには充分な条件を揃えているなと思った。ただ一つ、ここが家、と指差された場所が小さな古びた雑居ビルだったことを除いて。
コンクリートの壁が剥がれ落ちている狭い階段を男二人、肩をぶつけ合いながら上る。見えてきたドアに備えるようにゼンはカバンの中を漁り始めた。
ポケットティッシュ、レシートにボールペンと沢山のものをぼろぼろとカバンからこぼし、なんとか鍵を探し出す。酔いはとっくの昔に覚めたかと思ったが、まだ意識ははっきりとしていないらしい。酒に弱い体質なのか、精神的に参ってしまったのかは判断つかないが、どちらにせよオレには関係ないことだった。
ゼンは鍵を差し込むと、軋むドアノブに手をかけ、オレの方を見た。
「ようこそ~我が家へ~」
やけにテンションの高い声に、ちょっと面倒くさいタイプの酔っ払いになってきたなと思った。
「お邪魔しまーす」
それでもそんな些細な理由で今夜の寝床を逃す訳にはいかない。オレは酔っ払いを物ともせず、勝手に上がり込んだ。
「あ、えーと、お風呂はあちらです! ご自由にどうぞ!」
ゼンはふらつきながら玄関すぐ横のドアを指差した。視線の先には確かに風呂場と思われるガラス戸があった。
「着替えとか貸してもらえる?」
とりあえずダメ元で言ってみたが、ゼンはふらふらと奥の部屋に消えて行くと、グレーの布の塊を押し付けてきた。
恐らく、着替えのつもりらしいが、どう見てもTシャツしかない。下はどうするつもりなのだと思ったが、これ以上要求しても話が通じるか分からないので、やめておく事にした。
「じゃあ、失礼しまーす」
オレはゼンの返事を待たずに風呂場に通じるドアを開け、素早く身を滑り込ませた。
とりあえず、第一段階はクリアだ。
冷たくなった服を脱ぎ捨て、シャワーを浴びる。想像していたよりも、ゼンの家の風呂は丁寧に掃除がされていて、古くはあったが、不快感はなかった。シャンプーとボディーソープしか置いていない浴室に女の気配はもちろん感じられない。
今日のあの様子だと今彼女はいないはずだけど……
もしかしたら、普段のゼンはマメな男なのかもしれない。今は酔っ払っていて、全く正体が分からないが。
一通り身体を綺麗にして脱衣所に出る。
オレは当たり前のように、自身のカバンからパンツを取り出す。今まで着る服は大体宿主が用意してくれていたし、自分で用意するのは下着くらいで充分だった。
実際には、下着を用意してくれた宿主も沢山いたが、どいつもこいつも下着とは呼ばないような紐やレースばかりの物を用意してきて、うんざりしたオレは最低限、これだけは自分で用意するようになった。
下はパンツ一枚、上はゼンから借りたダボダボのTシャツ。この状態を彼シャツと言って興奮する人間を嫌ほど目の当たりにしてきたが、そもそも彼氏じゃないやつのシャツを着たところで彼シャツにはならないだろ、と内心嘲笑していた。
ゼンはどうだろ?
この姿で人前に出ていくことに対しての羞恥心など、とっくの昔に感じなくなっていたが、初見の人間がこれを見て、どう思うかは気になった。
ノンケだしな……
ゲイやバイとは腐るほど接してきたオレだが、ノンケとこの状況は初めてだった。
何故か妙にソワソワしてしまうのは、きっと慣れない引っ掛け方をしたせいだと思った。
いつもはもっと、擦り寄って、甘えて、媚びる。求められるままに可愛いオレを演じていれば拾ってもらえる。分かりやすくて簡単な作業だ。
勝手に使ったタオルを洗濯機の中に放り込むと脱衣所から出る。室内とは言え、暖房の付いていない部屋の中で下半身パンツ一丁は流石に冷える。
「お風呂ありがとう──」
猫を被って可愛い声でゼンにお礼を言う。しかしゼンから反応は無かった。
それどころか、短い廊下の先にあるゼンがいるであろう部屋の電気はついておらず、真っ暗で何も見えない状態だった。
「あの、」
オレは手探りで電気のスイッチを探しながら部屋に近付いていく。部屋の入り口横の壁にスイッチを見つけ押すと、大の字で寝ているゼンの姿があった。
あまりにも豪快な寝姿でシャツが捲れて腹部が露わになってしまっている。
力尽きる前に脱いだのか、着ていたジャケットは側に脱ぎ捨てられていた。
「うわ……」
思わず声が出てしまう。
知らない人間を家に上げておいて、自分は爆睡。あまりの危機管理能力の低さに唖然とする。こんなことをしているオレが言うのもなんだが、ちょっと心配になるレベルだ。
ただ、オレは善人ではないため、この状況を最大限利用しようと思った。
オレはゼンに近づくと躊躇なくはだけていたシャツを捲った。
思った通りいい身体をしている。自分には無い適度に割れた腹筋を指でなぞる。正直羨ましくて仕方ない。
悔しくて、指で突いていると、流石のゼンも気付いたのか、目を薄く開けた。
「あ、終わったか?」
まだ少しふわふわしているが、1回寝たことで大分緩和されたようだ。
オレは即座に指を離して距離を取った。
「うん、ありがとう」
ゼンはまだ眠いのか、欠伸をしながら身体を起こした。ガシガシと黒髪短髪の頭を雑に掻く。既に盛大に寝癖がついているのに、吹き出しそうになった。
繁華街からは外れるものの、一応都内で駅も徒歩圏内、近くにはまだ機能している商店街もあって、生活するには充分な条件を揃えているなと思った。ただ一つ、ここが家、と指差された場所が小さな古びた雑居ビルだったことを除いて。
コンクリートの壁が剥がれ落ちている狭い階段を男二人、肩をぶつけ合いながら上る。見えてきたドアに備えるようにゼンはカバンの中を漁り始めた。
ポケットティッシュ、レシートにボールペンと沢山のものをぼろぼろとカバンからこぼし、なんとか鍵を探し出す。酔いはとっくの昔に覚めたかと思ったが、まだ意識ははっきりとしていないらしい。酒に弱い体質なのか、精神的に参ってしまったのかは判断つかないが、どちらにせよオレには関係ないことだった。
ゼンは鍵を差し込むと、軋むドアノブに手をかけ、オレの方を見た。
「ようこそ~我が家へ~」
やけにテンションの高い声に、ちょっと面倒くさいタイプの酔っ払いになってきたなと思った。
「お邪魔しまーす」
それでもそんな些細な理由で今夜の寝床を逃す訳にはいかない。オレは酔っ払いを物ともせず、勝手に上がり込んだ。
「あ、えーと、お風呂はあちらです! ご自由にどうぞ!」
ゼンはふらつきながら玄関すぐ横のドアを指差した。視線の先には確かに風呂場と思われるガラス戸があった。
「着替えとか貸してもらえる?」
とりあえずダメ元で言ってみたが、ゼンはふらふらと奥の部屋に消えて行くと、グレーの布の塊を押し付けてきた。
恐らく、着替えのつもりらしいが、どう見てもTシャツしかない。下はどうするつもりなのだと思ったが、これ以上要求しても話が通じるか分からないので、やめておく事にした。
「じゃあ、失礼しまーす」
オレはゼンの返事を待たずに風呂場に通じるドアを開け、素早く身を滑り込ませた。
とりあえず、第一段階はクリアだ。
冷たくなった服を脱ぎ捨て、シャワーを浴びる。想像していたよりも、ゼンの家の風呂は丁寧に掃除がされていて、古くはあったが、不快感はなかった。シャンプーとボディーソープしか置いていない浴室に女の気配はもちろん感じられない。
今日のあの様子だと今彼女はいないはずだけど……
もしかしたら、普段のゼンはマメな男なのかもしれない。今は酔っ払っていて、全く正体が分からないが。
一通り身体を綺麗にして脱衣所に出る。
オレは当たり前のように、自身のカバンからパンツを取り出す。今まで着る服は大体宿主が用意してくれていたし、自分で用意するのは下着くらいで充分だった。
実際には、下着を用意してくれた宿主も沢山いたが、どいつもこいつも下着とは呼ばないような紐やレースばかりの物を用意してきて、うんざりしたオレは最低限、これだけは自分で用意するようになった。
下はパンツ一枚、上はゼンから借りたダボダボのTシャツ。この状態を彼シャツと言って興奮する人間を嫌ほど目の当たりにしてきたが、そもそも彼氏じゃないやつのシャツを着たところで彼シャツにはならないだろ、と内心嘲笑していた。
ゼンはどうだろ?
この姿で人前に出ていくことに対しての羞恥心など、とっくの昔に感じなくなっていたが、初見の人間がこれを見て、どう思うかは気になった。
ノンケだしな……
ゲイやバイとは腐るほど接してきたオレだが、ノンケとこの状況は初めてだった。
何故か妙にソワソワしてしまうのは、きっと慣れない引っ掛け方をしたせいだと思った。
いつもはもっと、擦り寄って、甘えて、媚びる。求められるままに可愛いオレを演じていれば拾ってもらえる。分かりやすくて簡単な作業だ。
勝手に使ったタオルを洗濯機の中に放り込むと脱衣所から出る。室内とは言え、暖房の付いていない部屋の中で下半身パンツ一丁は流石に冷える。
「お風呂ありがとう──」
猫を被って可愛い声でゼンにお礼を言う。しかしゼンから反応は無かった。
それどころか、短い廊下の先にあるゼンがいるであろう部屋の電気はついておらず、真っ暗で何も見えない状態だった。
「あの、」
オレは手探りで電気のスイッチを探しながら部屋に近付いていく。部屋の入り口横の壁にスイッチを見つけ押すと、大の字で寝ているゼンの姿があった。
あまりにも豪快な寝姿でシャツが捲れて腹部が露わになってしまっている。
力尽きる前に脱いだのか、着ていたジャケットは側に脱ぎ捨てられていた。
「うわ……」
思わず声が出てしまう。
知らない人間を家に上げておいて、自分は爆睡。あまりの危機管理能力の低さに唖然とする。こんなことをしているオレが言うのもなんだが、ちょっと心配になるレベルだ。
ただ、オレは善人ではないため、この状況を最大限利用しようと思った。
オレはゼンに近づくと躊躇なくはだけていたシャツを捲った。
思った通りいい身体をしている。自分には無い適度に割れた腹筋を指でなぞる。正直羨ましくて仕方ない。
悔しくて、指で突いていると、流石のゼンも気付いたのか、目を薄く開けた。
「あ、終わったか?」
まだ少しふわふわしているが、1回寝たことで大分緩和されたようだ。
オレは即座に指を離して距離を取った。
「うん、ありがとう」
ゼンはまだ眠いのか、欠伸をしながら身体を起こした。ガシガシと黒髪短髪の頭を雑に掻く。既に盛大に寝癖がついているのに、吹き出しそうになった。
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