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我慢の限界
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「ちょっと、我慢の限界」
アキはいつもより強い力で俺の腕を引くとシャワールームへ引きずり込んだ。乱暴に個室に投げ入れられ、入り口を塞ぐように立ちはだかられ、後ろ手に鍵をかけられた。1人用の個室に大の男が2人入っていれば必然的に距離が近くなる。アキは俯いて深く呼吸を繰り返している。
「アキ? どうし……」
俺が質問を投げかける前に冷たい感触が頭から降りかかって来た。
「ごめん、ちょっと、頭冷やさせて」
アキはそう言いながらシャワーの蛇口を捻る。狭い空間だけあって、アキにも俺にもシャワーの冷たい水が染みてくる。だが、意外にも不快感は無く、冷たい水が心地良かった。
「………………アキ?」
アキは何も言わなかった。相変わらず眉間に皺を寄せたままだったが、怒りの色は薄くなっているような気がした。
「リュージは……僕のこと……」
アキから微かな声が聞こえた気がしたが、シャワーの音に掻き消えた。
「アキ?」
先程の激しい空気は身を潜め、今度は急な沈黙が押し寄せた。シャワーの音以外にはここには何もない。名前を呼んでみても、返事をしてくれない。それが何となく寂しくて悲しかった。
「アキ! アキ!」
俺は意地になってアキの名前を呼んだ。アキがこっちを見てくれないのが急に怖くなった。
「アキってば!」
俺は勢い余って倒れる様にアキに縋り付いた。アキは俺の体重を支え切れなかったのか尻もちをつくような形でしゃがみ込み、俺はそれに正面から覆い被さるように膝を曲げた。水で張り付いたシャツのせいで妙にアキとの距離が近く感じる。
俺は正面にアキの顔を捉えたが、長い前髪が水で張り付き表情が見えなかった。
「アキ? 俺なんかした? なんかしたなら言って欲しい…………」
俺は切実に声を出した。
「……恋人なんだから…………」
あれほど口にするのを躊躇っていたのに、気が付いたら空気を震わせていた。
アキは恋人という言葉に少しだけ顔を上げた。
「…………僕もう限界かもしれない」
「それは……俺のせいで?」
アキは否定も肯定もせずに言葉を続けた。
「リュージと一緒にいるとすごく幸せなのに、…………苦しい」
それは俺も同じだと、思った。
「リュージはさ、」
「ん?」
「僕のこと、どう思ってる……?」
「えっ」
急な核心をつく質問に思わず声が裏返る。
アキのことは勿論嫌いじゃない。好きかと言われれば……。
「好き……だと……思う、多分」
シャワーの音に掻き消えてくれないかと淡く願いながら言葉にする。それは恋愛的な好きかどうかは正面分からない。それでもアキに感じる心地良さは好意を持っていないと感じないと思う。
「多分……か」
思案するような声色でアキが呟いた。また悲しませるようなことを言ってしまったかと、内心焦ったが、アキは今度ははっきりと顔を上げ、俺を見つめてきた。
「多分でもいいよ……今は」
優しい声色でそう言われ、胸の奥がぎゅっと縮まった気がした。
「ねぇ、リュージの顔もっとよく見たいから」
アキはおもむろに自身のポケットに手を入れた。
「さっきみたいにまた結んで?」
そう言いながら、前髪を縛っていた香奈の髪ゴムを渡してきた。
「分かった」
俺はそれを受け取ると、前屈みになってアキの前髪を束ね始めた。水に濡れた髪は中々綺麗に結ぶことが出来ず、悪戦苦闘する俺を見て、アキは笑った。間近で見る笑顔にまた胸がぎゅっとなる。
「よし、出来た……」
「リュージ、いい?」
「うん?」
なんとかまとめ終わった達成感に一息つこうとしたとこで、アキが何かを聞いてきた。
「ア、」
聞き返そうとした瞬間、アキの顔が間近に迫って来た。宙に浮いていた手首を掴まれ引き寄せられる。そして唇の微かに触れる感触。
反射的に腕を伸ばした俺は、そのままアキと距離をあけた。
「アアアアアアアアキ!!!! 今何した!?」
「何もしてないよ」
「しただろ!」
「リュージが避けるから何も出来なかったよ」
「でもあたって──」
俺はハッとして一旦落ち着くと、呼吸を整えた。別に初めてって訳でもないし、男同士だし、そんな一々慌てるのは流石に情けなさ過ぎる。
「そういうこと、勝手にするなって言っただろ」
「ちゃんと聞いたよ?」
「意思の疎通が図れてなかったら、聞いてないのも同然だっての」
「えー……」
アキは少しだけ不満そうにしたが、切り替えたように俺を見てきた。
「じゃあ、改めて、いい?」
「却下」
「えー……」
アキに怒りの色はもう無く、駄々をこねる子どものように眉をハの字に曲げ唇を尖らせた。不覚にもアキの唇に意識が集中しそうになって慌てて首を振る。
と、ここで自分たちの状況に改めて気が付いた。
「そう言えばさぁ、俺たちこれで電車乗るの?」
「あ……」
依然出続けるシャワーを全身に浴びながら、パンツの中までびちゃびちゃになっている事を確認して力が抜けた。
「…………ホテル行く?」
「冗談は後で聞いてやるから」
「…………」
俺は無言で立ち上がってシャワーを止めると、香奈になんと説明しようかと頭を悩ませ始めた。
アキはいつもより強い力で俺の腕を引くとシャワールームへ引きずり込んだ。乱暴に個室に投げ入れられ、入り口を塞ぐように立ちはだかられ、後ろ手に鍵をかけられた。1人用の個室に大の男が2人入っていれば必然的に距離が近くなる。アキは俯いて深く呼吸を繰り返している。
「アキ? どうし……」
俺が質問を投げかける前に冷たい感触が頭から降りかかって来た。
「ごめん、ちょっと、頭冷やさせて」
アキはそう言いながらシャワーの蛇口を捻る。狭い空間だけあって、アキにも俺にもシャワーの冷たい水が染みてくる。だが、意外にも不快感は無く、冷たい水が心地良かった。
「………………アキ?」
アキは何も言わなかった。相変わらず眉間に皺を寄せたままだったが、怒りの色は薄くなっているような気がした。
「リュージは……僕のこと……」
アキから微かな声が聞こえた気がしたが、シャワーの音に掻き消えた。
「アキ?」
先程の激しい空気は身を潜め、今度は急な沈黙が押し寄せた。シャワーの音以外にはここには何もない。名前を呼んでみても、返事をしてくれない。それが何となく寂しくて悲しかった。
「アキ! アキ!」
俺は意地になってアキの名前を呼んだ。アキがこっちを見てくれないのが急に怖くなった。
「アキってば!」
俺は勢い余って倒れる様にアキに縋り付いた。アキは俺の体重を支え切れなかったのか尻もちをつくような形でしゃがみ込み、俺はそれに正面から覆い被さるように膝を曲げた。水で張り付いたシャツのせいで妙にアキとの距離が近く感じる。
俺は正面にアキの顔を捉えたが、長い前髪が水で張り付き表情が見えなかった。
「アキ? 俺なんかした? なんかしたなら言って欲しい…………」
俺は切実に声を出した。
「……恋人なんだから…………」
あれほど口にするのを躊躇っていたのに、気が付いたら空気を震わせていた。
アキは恋人という言葉に少しだけ顔を上げた。
「…………僕もう限界かもしれない」
「それは……俺のせいで?」
アキは否定も肯定もせずに言葉を続けた。
「リュージと一緒にいるとすごく幸せなのに、…………苦しい」
それは俺も同じだと、思った。
「リュージはさ、」
「ん?」
「僕のこと、どう思ってる……?」
「えっ」
急な核心をつく質問に思わず声が裏返る。
アキのことは勿論嫌いじゃない。好きかと言われれば……。
「好き……だと……思う、多分」
シャワーの音に掻き消えてくれないかと淡く願いながら言葉にする。それは恋愛的な好きかどうかは正面分からない。それでもアキに感じる心地良さは好意を持っていないと感じないと思う。
「多分……か」
思案するような声色でアキが呟いた。また悲しませるようなことを言ってしまったかと、内心焦ったが、アキは今度ははっきりと顔を上げ、俺を見つめてきた。
「多分でもいいよ……今は」
優しい声色でそう言われ、胸の奥がぎゅっと縮まった気がした。
「ねぇ、リュージの顔もっとよく見たいから」
アキはおもむろに自身のポケットに手を入れた。
「さっきみたいにまた結んで?」
そう言いながら、前髪を縛っていた香奈の髪ゴムを渡してきた。
「分かった」
俺はそれを受け取ると、前屈みになってアキの前髪を束ね始めた。水に濡れた髪は中々綺麗に結ぶことが出来ず、悪戦苦闘する俺を見て、アキは笑った。間近で見る笑顔にまた胸がぎゅっとなる。
「よし、出来た……」
「リュージ、いい?」
「うん?」
なんとかまとめ終わった達成感に一息つこうとしたとこで、アキが何かを聞いてきた。
「ア、」
聞き返そうとした瞬間、アキの顔が間近に迫って来た。宙に浮いていた手首を掴まれ引き寄せられる。そして唇の微かに触れる感触。
反射的に腕を伸ばした俺は、そのままアキと距離をあけた。
「アアアアアアアアキ!!!! 今何した!?」
「何もしてないよ」
「しただろ!」
「リュージが避けるから何も出来なかったよ」
「でもあたって──」
俺はハッとして一旦落ち着くと、呼吸を整えた。別に初めてって訳でもないし、男同士だし、そんな一々慌てるのは流石に情けなさ過ぎる。
「そういうこと、勝手にするなって言っただろ」
「ちゃんと聞いたよ?」
「意思の疎通が図れてなかったら、聞いてないのも同然だっての」
「えー……」
アキは少しだけ不満そうにしたが、切り替えたように俺を見てきた。
「じゃあ、改めて、いい?」
「却下」
「えー……」
アキに怒りの色はもう無く、駄々をこねる子どものように眉をハの字に曲げ唇を尖らせた。不覚にもアキの唇に意識が集中しそうになって慌てて首を振る。
と、ここで自分たちの状況に改めて気が付いた。
「そう言えばさぁ、俺たちこれで電車乗るの?」
「あ……」
依然出続けるシャワーを全身に浴びながら、パンツの中までびちゃびちゃになっている事を確認して力が抜けた。
「…………ホテル行く?」
「冗談は後で聞いてやるから」
「…………」
俺は無言で立ち上がってシャワーを止めると、香奈になんと説明しようかと頭を悩ませ始めた。
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