透明な君

蒼音

文字の大きさ
1 / 1
1.彼女の名前

人殺し

しおりを挟む
「あと五人で任務完了です」


突然 無機質な女の声が頭の中で告げた。その声は耳に内蔵された通信機器から出ているようだ。
彼女にはそれがありがたがった。もし通信機が耳の中ではなく外についていたならば、きっと風圧で遥か後方に飛ばされてしまうだろう。


尋常じゃないスピードで駆けながら、彼女は村人を二つのナイフで殺していく。

綺麗な髪を持つ村娘、図体ばかりでかい大男、腰の曲がった老婆、背の小さな女の子。
"それ"は様々な形をしているが、二つだけ共通点がある。それは――それぞれ音色は違うが、斬られた瞬間、音を出すこと。


それから、死ぬ瞬間心底怯えた顔をすることだ。


この話は何も"これら"に限ったことではない。
そういえば、他のもこんな感じだったな、と彼女は思う。


「残りあと一人です。二つ目の角を曲がった赤い屋根の家に隠れています」

了解、と彼女は小さく答え加速する。


赤い屋根の家。もうどれが染色料の赤なのか、人の赤なのかわからない。村の大地は血を吸い込み、まるで彼岸花が咲き乱れているようだった。血に染め上げられた村にかつての美しさはないが、違う美しさがそこにはあった。


「そこです」

声に導かれ辺りを探すと目当てのものはすぐ見つかった。
小刻みに震え、目を大きく見開き、歯をガチガチと打つ少年がそこにはいた。少年はあまりの恐怖に声が出ないのかヒューヒューと喉を鳴らす。


「騒がしいです。黙ってください」


彼女は苛立ちを含んだ冷たい声を発した瞬間、少年を手にかけた。
少年の返り血が頬にかかったが気にもとめなかった。


「任務完了を確認しました。お疲れ様です」


言葉だけの労いをもらい彼女は今度の武器はナイフではなく銃がいいと注文をつけた。ほんの少しおいて、承知しました、と返ってきたが明らかに先程よりも感情をすり減らしたような声だった。


事を終えた彼女は村を散歩した。腰まである真っ白な髪や身体にフィットした戦闘服には血がよく似合う。
赤い村を赤い彼女が行く。なんだか滑稽だがもう慣れた。
村は人口はそれ程いないはずなのに建物が乱立していて複雑に入り組んでいた。不思議に思っていつつも、彼女は何気なく足元に目を落とした。するとそこには小さな白い花が咲いていた。赤くない花を摘んで物珍しそうにそれを見る。


「お疲れ様」


男の声が通信機器から聞こえた。博士だ。迎えに行くという博士の言葉に彼女は頬を緩ませる。


ありがとう、という彼女は小さな白い花のようだった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

とある令嬢の断罪劇

古堂 素央
ファンタジー
本当に裁かれるべきだったのは誰? 時を超え、役どころを変え、それぞれの因果は巡りゆく。 とある令嬢の断罪にまつわる、嘘と真実の物語。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

【完結】勇者の息子

つくも茄子
ファンタジー
勇者一行によって滅ぼされた魔王。 勇者は王女であり聖女である女性と結婚し、王様になった。 他の勇者パーティーのメンバー達もまた、勇者の治める国で要職につき、世界は平和な時代が訪れたのである。 そんな誰もが知る勇者の物語。 御伽噺にはじかれた一人の女性がいたことを知る者は、ほとんどいない。 月日は流れ、最年少で最高ランク(S級)の冒険者が誕生した。 彼の名前はグレイ。 グレイは幼い頃から実父の話を母親から子守唄代わりに聞かされてきた。 「秘密よ、秘密――――」 母が何度も語る秘密の話。 何故、父の話が秘密なのか。 それは長じるにつれ、グレイは理解していく。 自分の父親が誰なのかを。 秘密にする必要が何なのかを。 グレイは父親に似ていた。 それが全ての答えだった。 魔王は滅びても残党の魔獣達はいる。 主を失ったからか、それとも魔王という楔を失ったからか。 魔獣達は勢力を伸ばし始めた。 繁殖力もあり、倒しても倒しても次々に現れる。 各国は魔獣退治に頭を悩ませた。 魔王ほど強力でなくとも数が多すぎた。そのうえ、魔獣は賢い。群れを形成、奇襲をかけようとするほどになった。 皮肉にも魔王という存在がいたゆえに、魔獣は大人しくしていたともいえた。 世界は再び窮地に立たされていた。 勇者一行は魔王討伐以降、全盛期の力は失われていた。 しかも勇者は数年前から病床に臥している。 今や、魔獣退治の英雄は冒険者だった。 そんな時だ。 勇者の国が極秘でとある人物を探しているという。 噂では「勇者の子供(隠し子)」だという。 勇者の子供の存在は国家機密。だから極秘捜査というのは当然だった。 もともと勇者は平民出身。 魔王を退治する以前に恋人がいても不思議ではない。 何故、今頃になってそんな捜査が行われているのか。 それには理由があった。 魔獣は勇者の国を集中的に襲っているからだ。 勇者の子供に魔獣退治をさせようという魂胆だろう。 極秘捜査も不自然ではなかった。 もっともその極秘捜査はうまくいっていない。 本物が名乗り出ることはない。

その国が滅びたのは

志位斗 茂家波
ファンタジー
3年前、ある事件が起こるその時まで、その国は栄えていた。 だがしかし、その事件以降あっという間に落ちぶれたが、一体どういうことなのだろうか? それは、考え無しの婚約破棄によるものであったそうだ。 息抜き用婚約破棄物。全6話+オマケの予定。 作者の「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹が登場。というか、これをそっちの乗せたほうが良いんじゃないかと思い中。 誤字脱字があるかもしれません。ないように頑張ってますが、御指摘や改良点があれば受け付けます。

嘘はあなたから教わりました

菜花
ファンタジー
公爵令嬢オリガは王太子ネストルの婚約者だった。だがノンナという令嬢が現れてから全てが変わった。平気で嘘をつかれ、約束を破られ、オリガは恋心を失った。カクヨム様でも公開中。

真実の愛のおつりたち

毒島醜女
ファンタジー
ある公国。 不幸な身の上の平民女に恋をした公子は彼女を虐げた公爵令嬢を婚約破棄する。 その騒動は大きな波を起こし、大勢の人間を巻き込んでいった。 真実の愛に踊らされるのは当人だけではない。 そんな群像劇。

ヒロインは修道院に行った

菜花
ファンタジー
乙女ゲームに転生した。でも他の転生者が既に攻略キャラを攻略済みのようだった……。カクヨム様でも投稿中。

処理中です...