愛しい人よ

璃々

文字の大きさ
上 下
13 / 18

建造視点

しおりを挟む
陸稲を見送ったあと僕の世界からは色がなくなった。本来僕が生きるべきだった世界に飲み込まれる。僕の心が北極の氷のように音もなく凍っていく。

それから機械のように仕事をした。何かをしていないとあの世に行きそうだった。ご飯も食べれなくなっていった。無理して栄養食を食べると吐いてしまう。体重が落ちた。身体が鉛のように重い。それでも仕事をやめれなかった。自分でも気づくほどの顔色の悪さも誤魔化しながら仕事をした。意識が無くなるまでの期間は水を数滴ずつ飲んでなんとか耐えた。そうでもしないと愛しい陸稲のもとへ行ってまた酷いことをしてしまうと思ったからだ。いや、この前よりも酷くきっと監禁でもなんでもしてしまうだろう。倒れる瞬間は、陸稲で頭がいっぱいだった。






ふわふわと体が軽い。陸稲の声がする。声のもとへ走る。遠くの方から陸稲が手を振っている。「あぁ。きっとあっちに行ったらもう戻れなくなるな。」と感じる。それでも走るのは止まらない。大好きな陸稲のもとへ行って色のない世界から抜け出したかった。もうひとりじゃ寒くて寂しくて耐えられなかった。
以前どっかの新聞で読んだ記事がある。一度人間に飼われた生き物は二度と自然界では生きられない。
僕もきっとこの状態なのだろう。美しい世界を陸稲に出会い家族ごっこという幸せな時間を過ごした結果本来の生きるべきだった世界には戻れなくなっていた。
陸稲がだんだんと近くなる。もっと走る。もう戻らない。きっともう僕は駄目だ。これから行く場所には不安がない。陸稲が待っててくれるから。






「け、、、、、、ー」
















遠くの上の方から声がする。陸稲の声。
「け、、ぞぅ」と言う僕の大好きな人の声がする。僕は止まる。その声はどんどん大きくなる。「死ぬ   じゃ   ねぇ!」
「置いてくな!」「許さないから!」とか自責の念もきこえる。
なんで陸稲は自分を責めているんだろうか?
悪いのはすべて僕なのに。

さっきまで目指していた陸稲はもうあと少しで会える。それなのに歩けない。上から聞こえる声がどうしても無視できない。僕は上を見上げる。だんだんと激しくなる陸稲の言葉。次の瞬間視界がぐらっと歪む
「建造!俺はお前が 好きだ!」
ゆっくりと光が降り注ぐ。景色が音を立てながら崩れてゆく。俺は思わず光に向かって手をのばす。
しおりを挟む

処理中です...