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07、発売前の本の行方
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男女共有の休憩室。前回はここに来ると思っていたのよね。広めの部屋に談話ができるソファーセットが3箇所に分けられております。迷わず奥のスペースへと父が座りました。
「は、はじめましてこの度は」
あ、緊張で噛んだわね。
「はじめまして。君たちの婚約の件は聞いているよ。驚いたな。ファーストダンス、お似合いじゃないか」
「この度は、急な婚約となり、申し訳ございません」
「いやぁ。こちらとしては正直何ならこのまま本当にもらってもらってもいいと思ってるんだが」
「…あっと、えっと、えー、その」
「お父様」
動揺する様子が不憫で思わずお父様をたしなめます。これくらいは冷ややかな氷鉄の表情ででごまかしてくれそうなものなのに。あ、それならファーストダンスであんなことにはならないわよね。
まあ、仕事では冷静沈着、有能な補佐官と宰相殿から覚えもよい、優良な婿候補と私がなんて、おこがましいわね。本人も特に私に対して謝るくらいですから。べつに、希望もないですし、何より目立つのよね。目立たないでいるほうが取材もできますし。二人でいる注目はい済い経験として今後に活かすわ。今は毎回“なんであの子が?”って見られているもの。
「コホン。では、事件の内容を…事前に連絡した通り」
仕切り直して話し出そうとすると
「…ああ。宰相殿からも連絡もらったよ」
ここに来て新しい攻撃。お父様?有利に進める交渉ではないのよ?何のつもりかしら。
「もうすぐ来ると思うけど!ほら!」
ノックとともに宰相の来訪が告げられ、お父様は立ち上がり迎えにいきます。
「久しぶり!よっちゃん。まさかよっちゃんの娘だとは。びっくりだよ。ああ。うちの部下が勢いで面白いことになったんだ。世話になるよ」
「まったくだ~。驚いたぜー!しげちゃん、この後飲みにいこう!あ、もちろん君も一緒になー」
お父様は軽くウインクしてクラフト様を誘います。
「…よっちゃん、…しげちゃん」
クラフト様は小さく呟きました。私も同意です。まさかこの国の宰相と名前で呼び合うほどの仲とは…父の交際関係は海のように深いことは知っていますが、まさかよっちゃん、しげちゃん。もう気にしないでおきましょう。
私達の衝撃も冷めやらぬまま二人はリストを確認していきます。
「初版で発売前に渡したのは全部で5人か」
父が真面目な顔で話し出すと
「うち、すでに3名は聞き取り済みだ」
と、宰相が3名の説明を始めます。
3名は私達、自国の方々で、すでに隣国との関わりなしということが確認されております。
「他2名は事件と関係がありそうか?」
「うち、1名が例の国の貴族とつながるようです」
父が渡した発売前の本が事件のきっかけになったかもしれない。偶然にも模倣されるほど状況が似ていたのは恐ろしいわね。
「あの話は?」
「まだ話せておりません」
宰相様はクラフト様へ確認すると私を見て突然、
「婚約者になったのはちょうどいいよな。お嬢さん、ちょっと隣の国へ婚約者とデートにいってくれないかい?私としては彼自身が君を誘ってくれるはずだったんだが、ほら、彼こう見えて恋愛ことにはヘタレだからな。少なからず君のことは好いているんだ。この間なんて無自覚に「あー!!わかりました。私がちゃんと説明して話しますので、いったん、二人にさせてもらいます」」
そう言いながら私へ手を差し伸べます。無意識に手を出したら掴まれそのまま彼の腕の中におりました。この様相覚えております。腰に回され連行スタイルです。
「ここでは話せないだろう?さ、いこう」
「ちょっと」
「あぁ、久しぶりの両親の再会なのに私達を置いていくのかい?」
父がわざと大きめの声で話します。周りに聞かせておりますね。
「若い二人の邪魔をするのはやぼってもんだよ、ヨローナ、今夜は私が付き合おう。奥様もうちの嫁が会いたがっていた。ぜひ家へ」
にこやかに宰相様が話題を逸らし、その間に私達は部屋を出ます。
今回は会場へ戻り挨拶をしていくことになっておりましたが、どうなんでしょうか。
「歩きながら手短に話す。もっと近づいて」
聞かれたくない話をするために近づくのはわかります。でもこの距離は、時々かすれた息遣いが、匂いが、服の擦れる音が、鮮やかに彩り、私に内容を理解させてくれません。
「―で、君と一緒に行くことがいいんじゃないかってことで。王族の呼び出しだから、出発は急いだほうがいいんだけど、伝えるの遅くなってしまって、えーっと、来週でいい?」
こくこく。このイケメンがハスキーボイスで迫ってくるドキドキ感に耐えられなくてうなずきます。私も乙女でしたわ。もしかして声にこだわりがあるのかしら。
「え?来週?」
たしか、短編の締め切りが来週よね。最後の校正がまだ残っているわ。
「解決すればすぐ戻ってこれるから」
と、ここでタイムオーバーです。
会場につき、彼の同僚や父や兄の関係者に挨拶していきます。突然の婚約ですが、彼が私を連行した結果(もちろん今回も連行スタイルでの来場)概ね了承されている雰囲気ではありました。もちろん強者のチャレンジャーもおりましたが、今夜のエスコートの責任感からか、しっかり氷鉄のクールな表情でお断りされておりました。クールな表情を眺めていると、突然
「こんなに断るのに慣れているのに、私はどうして君をファーストダンスに誘ってしまったんだろうね。はは」
と私の耳に近づいて小さな声で私に囁くのです。もちろん「はは」と微笑付き。
近くにいる御婦人達は頬を染めましたわ。見えておりませんが、私はその声が、息が、胸に響いてときめきを隠せません。
なぜレックスフィット国にいくのか、話すこともできずに曖昧に微笑み続けて夜会を終えました。
「…こんなに疲れた夜会は初めてよ」
「ソフィー、来週の締め切りは大丈夫かい?」
帰りは兄夫婦と一緒です。ええ、間に合わないかもしれません。今日はもう帰宅して取材のネタを記録するのて精一杯ですわ。おやすみなさい。
「は、はじめましてこの度は」
あ、緊張で噛んだわね。
「はじめまして。君たちの婚約の件は聞いているよ。驚いたな。ファーストダンス、お似合いじゃないか」
「この度は、急な婚約となり、申し訳ございません」
「いやぁ。こちらとしては正直何ならこのまま本当にもらってもらってもいいと思ってるんだが」
「…あっと、えっと、えー、その」
「お父様」
動揺する様子が不憫で思わずお父様をたしなめます。これくらいは冷ややかな氷鉄の表情ででごまかしてくれそうなものなのに。あ、それならファーストダンスであんなことにはならないわよね。
まあ、仕事では冷静沈着、有能な補佐官と宰相殿から覚えもよい、優良な婿候補と私がなんて、おこがましいわね。本人も特に私に対して謝るくらいですから。べつに、希望もないですし、何より目立つのよね。目立たないでいるほうが取材もできますし。二人でいる注目はい済い経験として今後に活かすわ。今は毎回“なんであの子が?”って見られているもの。
「コホン。では、事件の内容を…事前に連絡した通り」
仕切り直して話し出そうとすると
「…ああ。宰相殿からも連絡もらったよ」
ここに来て新しい攻撃。お父様?有利に進める交渉ではないのよ?何のつもりかしら。
「もうすぐ来ると思うけど!ほら!」
ノックとともに宰相の来訪が告げられ、お父様は立ち上がり迎えにいきます。
「久しぶり!よっちゃん。まさかよっちゃんの娘だとは。びっくりだよ。ああ。うちの部下が勢いで面白いことになったんだ。世話になるよ」
「まったくだ~。驚いたぜー!しげちゃん、この後飲みにいこう!あ、もちろん君も一緒になー」
お父様は軽くウインクしてクラフト様を誘います。
「…よっちゃん、…しげちゃん」
クラフト様は小さく呟きました。私も同意です。まさかこの国の宰相と名前で呼び合うほどの仲とは…父の交際関係は海のように深いことは知っていますが、まさかよっちゃん、しげちゃん。もう気にしないでおきましょう。
私達の衝撃も冷めやらぬまま二人はリストを確認していきます。
「初版で発売前に渡したのは全部で5人か」
父が真面目な顔で話し出すと
「うち、すでに3名は聞き取り済みだ」
と、宰相が3名の説明を始めます。
3名は私達、自国の方々で、すでに隣国との関わりなしということが確認されております。
「他2名は事件と関係がありそうか?」
「うち、1名が例の国の貴族とつながるようです」
父が渡した発売前の本が事件のきっかけになったかもしれない。偶然にも模倣されるほど状況が似ていたのは恐ろしいわね。
「あの話は?」
「まだ話せておりません」
宰相様はクラフト様へ確認すると私を見て突然、
「婚約者になったのはちょうどいいよな。お嬢さん、ちょっと隣の国へ婚約者とデートにいってくれないかい?私としては彼自身が君を誘ってくれるはずだったんだが、ほら、彼こう見えて恋愛ことにはヘタレだからな。少なからず君のことは好いているんだ。この間なんて無自覚に「あー!!わかりました。私がちゃんと説明して話しますので、いったん、二人にさせてもらいます」」
そう言いながら私へ手を差し伸べます。無意識に手を出したら掴まれそのまま彼の腕の中におりました。この様相覚えております。腰に回され連行スタイルです。
「ここでは話せないだろう?さ、いこう」
「ちょっと」
「あぁ、久しぶりの両親の再会なのに私達を置いていくのかい?」
父がわざと大きめの声で話します。周りに聞かせておりますね。
「若い二人の邪魔をするのはやぼってもんだよ、ヨローナ、今夜は私が付き合おう。奥様もうちの嫁が会いたがっていた。ぜひ家へ」
にこやかに宰相様が話題を逸らし、その間に私達は部屋を出ます。
今回は会場へ戻り挨拶をしていくことになっておりましたが、どうなんでしょうか。
「歩きながら手短に話す。もっと近づいて」
聞かれたくない話をするために近づくのはわかります。でもこの距離は、時々かすれた息遣いが、匂いが、服の擦れる音が、鮮やかに彩り、私に内容を理解させてくれません。
「―で、君と一緒に行くことがいいんじゃないかってことで。王族の呼び出しだから、出発は急いだほうがいいんだけど、伝えるの遅くなってしまって、えーっと、来週でいい?」
こくこく。このイケメンがハスキーボイスで迫ってくるドキドキ感に耐えられなくてうなずきます。私も乙女でしたわ。もしかして声にこだわりがあるのかしら。
「え?来週?」
たしか、短編の締め切りが来週よね。最後の校正がまだ残っているわ。
「解決すればすぐ戻ってこれるから」
と、ここでタイムオーバーです。
会場につき、彼の同僚や父や兄の関係者に挨拶していきます。突然の婚約ですが、彼が私を連行した結果(もちろん今回も連行スタイルでの来場)概ね了承されている雰囲気ではありました。もちろん強者のチャレンジャーもおりましたが、今夜のエスコートの責任感からか、しっかり氷鉄のクールな表情でお断りされておりました。クールな表情を眺めていると、突然
「こんなに断るのに慣れているのに、私はどうして君をファーストダンスに誘ってしまったんだろうね。はは」
と私の耳に近づいて小さな声で私に囁くのです。もちろん「はは」と微笑付き。
近くにいる御婦人達は頬を染めましたわ。見えておりませんが、私はその声が、息が、胸に響いてときめきを隠せません。
なぜレックスフィット国にいくのか、話すこともできずに曖昧に微笑み続けて夜会を終えました。
「…こんなに疲れた夜会は初めてよ」
「ソフィー、来週の締め切りは大丈夫かい?」
帰りは兄夫婦と一緒です。ええ、間に合わないかもしれません。今日はもう帰宅して取材のネタを記録するのて精一杯ですわ。おやすみなさい。
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