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08、さあ舞台の国へ

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 怒涛の1週間。執筆作業は締め切り含めて予定を繰り上げました。昨夜は記憶が曖昧です。

「ソフィー?えーっと、その、だいぶ疲れてるようだけど、昨日は眠れた?」

 眠れておりません。締め切りに追われ、次の予告しているプロットを昨夜は殴り書きで仕上げて、旅行の準備をしているのです。朝にさっと湯浴みをしただけですので今は全力で眠いところです。ああ、やっぱり昨夜のあれは書き直しですわね。編集長もさすがに読めないかもしれないわ。

 出発の朝、ますは互いの呼び方、敬語はなし、婚約者としてサポートするとの説明がありました。相手には彼女をひとりで行かせたくないということで、一緒に行く説明をしているそうです。

「別に一人でも行けるわよ」

 と言いましたが

「何ヶ国も翻訳されたアレンドール王国シリーズの作家だって知られた上での招待。レックスフィット国からは真犯人を知りたいから連れてこいとのことだけど、もしかすると囲い込みをするかもしれない。自国の利益になるから。そうなるとこちらも困るわけ。あ、言質、契約書関係は気をつけてね」

 もちろん私が作家であることは今は・・トップシークレットとして扱ってくれるように手配してくれたそうです。秘密は秘密のままのほうが売れますから、秘匿を条件に宰相と父が動いてくれたようです。だからあくまで設定は商会の娘が隣の国へ遊びに行ってたら面白い人物として呼び出しされたということだそうです。父の奔放さが役に立つ日がきました。せっかくですから取材しましょう。

「…あぁ、もう、見てらんない」

 話を聞きながら「わかった」と返事をするのも面倒でうなずいてたのが、こっくりこっくりと首が揺れるだけになっていたようね。ちょっと怒ってるみたい。ちゃんと聞いてます。ただ、もう限界かもしれません。お昼を食べたとこですでに満腹です。くらくらします。向かい側に座っていたクラフトは立ち上がり私の隣へ座り肩を寄せました。そこで私の意識は途切れました。



 ◆ ◇ ◆



「…ソフィー、起きて、宿についたよ」

「…んー。もうちょっとだけー」

 久しぶりの熟睡です。もぞもぞと寝心地のいいところを探します。少し硬めのいい枕よね。ん?私の頭を撫でているのは誰かしら。目を開けるとスーッと状況がわかりました。

「よく眠っていたよ。ふふっ」

「ごごごめんなさい」

 慌てて起き上がり全力で離れます。馬車の端で小さくなり、まで引き下がります。穴があったら入りたい。よだれとかでてなかったわよね!?爆睡してた。恥ずかしいわ。

「…く。かわいい」

 何か言ったかしら。それにしても、美形は下から見ても美形なのね。さっき目覚めた時に目があって、胸がキュンとときめいてしまったわ。しかも膝枕してくれていたのよね。宿に付くまでって長時間よね。足、しびれてないかしら。

「ごめん…足、大丈夫?」

「大丈夫だよ。よく眠れたようで良かった。明日にはレックスフィット国へ入る。そこから呼び出されるまで2日はある。せっかくだから少し観光もしよう。どこ行きたい?」

「それなら街の本屋と自由の塔にいきたいわ。あと願いの叶う泉かしら」

 宿は貴族御用達のしっかりしたところです。理由を聞かれると面倒ですから極力お忍びスタイルです。

 ただ、彼、クラフトは目立ちすぎます。隠しきれないイケメンオーラ。一緒にいる私が地味系女子すぎて、ここでも射止めようと自分に自信がある女性陣が声をかけてきます。その度に凍りつくような鋭い視線を向けて冷たくお断りするのです。私は苦笑いをしてしまいます。そして、クラフトは私にだけ友人のように接して穏やかに笑ってくれます。旅の同士として、彼のパーソナルスペースの中にいるようです。たまに笑みが直撃すると、ときめきで胸がくるしくなりますが、期間限定の婚約者ですものね。婚約解消するまで取材にもなるので存分に楽しみましょう。

 私・に・だ・け・微笑んでくれるとわかると、優越感が否めない。正直に嬉しい。

 観光を楽しみ、いよいよ呼び出しです。王族のみが利用する謁見室にて陛下に形式の挨拶をして、客間へ通されます。クラフトが隣に立ちエスコートしてくれます。



「はじめまして。ナルート先生。まさかご令嬢とは。わざわざ来訪いただきまして、ありがとうございます。観光はお済みでしょうか。ああ、婚約者とご一緒でしたな。レックスフィット国の筆頭補佐官、ナルクト・ミーナルと申します。最初に確認ですが、本当に第2王子の毒殺未遂事件に関与していないですよね?」

「もちろんです。私の書いた作品と酷似していると話しておりましたが、相違点がありますよね?」

「酷似しておりますので、現在発売の時期から模倣犯の可能性もあるとして調査しています。今回お呼び立てしましたのは、事件の真犯人が小説と似た人物になるのかというところです。実行犯は毒で自害しました。毒の種類は異なりますが、状況は書かれた内容と同じです。小説と同じで実行犯は自害したのです。あなたの3巻は毒殺を図った真犯人は出てこない、仄めかしての次回へ持ち越しでした。ナルート先生はもちろんすでに書かれておりますよね?情報提供いただけないでしょうか。もちろん謝礼はいたします」

 現実に起こったと聞くと背筋が伸びる気がしました。犯人は模倣したかもしれません。小説通りならもうひとり犠牲者がでてから真犯人が明らかになるのです。

「…わかりました。4巻について事件に関係しそうなことだけお話いたします。第2王子には婚約者は?心を許す近しい人はいらっしゃいますか?」

「婚約者はおりません。近しい人ですか。まさかその人が真犯人?」
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