実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉

文字の大きさ
110 / 278
【第二幕開始】天使様の嫉妬

第16話 お前も鳥類だろ!

しおりを挟む
『綺麗なお姫様、あんた、俺っちの言葉が分かるのかい?』

 雄鶏は、状況を理解したのか、ネーヴェを見上げて鳴く。

『それなら、俺っちをペットにしてくれ! 毎朝、夜明けと共に起こしてやるから!』
「騒音公害になりますわ……」
 
 食材にされたくないのか、雄鶏は命乞いを始めた。
 ネーヴェは、王城の畜舎に入るかしらと思いながら、横目でシエロを見る。

「聖堂で飼う訳にはいかないのですか?」
 
 シエロは腕組みした。

「俺はニワトリの世話はしない。飼うには飼えるだろうが、こいつの面倒を見る修道士が、食材にしようと思っても止められんな。ある日の食卓の皿にこいつが乗ってても、俺は気にせず食う」
『止めろよ! お前も鳥類だろ!』
「一緒にするな! 鳥頭のニワトリ風情が!」
 
 今すぐ食材にしてやろうかと、シエロは雄鶏の首根っこを掴んで揺さぶる。

「……というか、シエロ様はニワトリの言葉がお分かりですのね」
 
 さっきから自然に会話している。
 そして、雄鶏の方もシエロの正体に気付いているようだ。

「天使は、動物のみならず、自然に宿る意思の言葉を理解できる能力を持っている。まあ、普段はうるさいから意識して聞かないようにしているがな」
 
 シエロは雄鶏をぶら下げながら言った。
 確かに、いちいち食材になる動物の声を拾っていたら、ストレスになりそうだ。

「仕方ないですわね。王城に連れて帰りましょう」
 
 ネーヴェは、これも何かの縁だと、あっさり決断した。

「王城の畜舎に入れてもらって……私もニワトリの世話は出来ないので、料理人がうっかり食材にしても、分からないかもしれませんが」

 雄鶏は『どうあっても俺っちは食材になる運命なのか』と悲しみに沈んでいるが、逃げ出そうとしない。逃げ出しても、ネーヴェとシエロ以外の人間に見つかったら、即食材にされると分かっているようだ。
 ネーヴェは、雄鶏と露天で買った品々を、布袋に入れた。
 ちょうど、時を告げる鐘が鳴る。
 聖堂の敷地に、街の中で一番高い鐘楼があるため、鐘の音は王城で聞くよりも大きく鼓膜に響く。

「……もうそろそろ、時間だな」
「ええ」
 
 護衛と合流する約束の時間が迫っている。
 シエロは「ちょっと待て」とネーヴェを引き留め、地面に向かって手をかざす。

「シエロ様、何を―――」
 
 次の瞬間、庭の地面に変化が起き、ネーヴェは息を飲む。
 シエロの手をかざした先にある草むらから、ウズラの卵のような蕾を付けた茎がするすると立ち上がる。蕾はみるみるうちに割れて、中から半透明のレースのような真っ赤な花びらが幾重にも広がった。雛罌粟ポピーの花だ。

「一輪くらいなら、花の負担にならないからな。花祭りの土産だ。持って帰れ」
 
 奇跡を目の当たりにし、驚いているネーヴェに、シエロは花を摘むよう促す。
 ネーヴェは花を傷つけないよう注意しながら、みずみずしい茎を手折たおる。
 胸元に雛罌粟ポピーを持ち上げ、花より鮮やかに微笑んだ。

「ありがとうございます。とても嬉しいですわ」
 
 たとえ一輪でも、彼が自分のためだけに、わざわざ咲かせてくれたのだ。花畑以上に、価値がある奇跡だった。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

【完結】記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

処理中です...