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魔術と天使様
第32話 仲直り
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シエロ様と、どう仲直りしようかしら。
言い争いとも言えない、気まずいやり取りをしてしまった。
彼の痛いところを突いた自覚はあるため、謝りたい気持ちがあるが、謝ってどうする? とも思う。
天使と人間は、寿命が違う。見えている世界も違う。
ネーヴェの指摘は、単なる事実で、謝罪して解決するような問題ではなかった。
話し合いをしなければならない。
だが、どう切り出せば良いのだろう。
「陛下。今日は礼拝堂に、聖下がいらしてますよ」
「……」
「陛下?」
シルヴィアがせっかく報告してくれているのに、自分からシエロと話しに行くのが、ためらわれた。
「今日は忙しいから、また今度にします」
そう言って、会いに行かなかった。
ネーヴェのためらいを、シエロも察したらしい。
翌日、侍女がシエロからの贈り物を持ってきた。
「聖堂の庭園の花を陛下に、との事です」
それは、真っ白なエルダーフラワーの花束だった。
ネーヴェは侍女に命じて、その花を花瓶に活けさせる。マスカットの果実のようなエルダーフラワーの香りが、執務室に広がった。
花の配達は、その日だけでなく、翌日以降も続いた。
次の日は、ラベンダー。
その次の日は、ヒナギク。
カーネーション、薔薇、カサブランカ……
花瓶ひとつでは活けられなくなってきた。
「あらあら。今日は何の花でしょうね?」
侍女頭のディアマンテは楽しそうだ。
「ネーヴェちゃん、聖下と仲直りしたら?」
「……」
ある日から突然、花の配達攻撃?が始まったのだ。
ネーヴェがシエロを避けているので、勘の良い者なら、二人の間に何かあったと気付く。そして、毎日の花の配達は、あからさまに女性のご機嫌取りだ。
「喧嘩など、していません」
「仲の良い男女は、皆そう言うのよ。こんなに毎日、お花をくれる男なんて、なかなかいないわよ」
いつの間にか叔母は、すっかりシエロの味方だ。
あの男は尊大な外面の癖に、下手に出るのが上手い。小娘相手に、プライドが傷付いたりしないのかしら。
そして、なぜネーヴェが悪いみたいな雰囲気になっているのか。
解せないわ……。
「分かりました。会いに行けば良いんでしょう!」
ネーヴェは意を決して、王城内の礼拝堂へ向かった。
礼拝堂の前には例によって長蛇の列が出来ているが、やけになった女王陛下の迫力に押され、蜘蛛の子を散らすように皆いなくなる。
重い扉を兵士に開けさせると、内部では司祭アドルフとシエロが何やら作業をしている。
「……ここに鉢を設置しろ」
「聖下が育てると、屋根を突き破るほど成長しそうで怖いですね」
部外者立ち入り禁止の内陣の隅っこに、植物の鉢を設置しようとしているところだった。
「何をやっているんですの?」
ネーヴェが聞くと、壇上に立っていたシエロが振り返る。
「ああ、来たのか。お前が来るきっかけになればと、礼拝堂にオリーブの木を設置しようとしていたところだ」
オリーブの木を育てることに興味があるネーヴェの気を引こうとしていたらしい。
恥ずかしげもなく宣うシエロに、ネーヴェは呆れた。
「もう来ましたので、不要なのでは?」
「いや。この礼拝堂の緑化推進のため、このオリーブはここで育ててみようと思う」
緑化推進とは何ぞやと色々突っ込みどころが多いが、ネーヴェはシエロと話せて安堵している自分に気付いた。断じて叔母のようにイケメン好きな訳ではないが、シエロの顔を見ると落ち着くのだ。
一方のシエロは、先日の気まずい会話が無かったかのように、穏やかに微笑む。
「お前の来訪を心待ちにしていたぞ、ネーヴェ」
「!」
臆面もなく言われて、これでは意地を張っていた自分の方が子供っぽいと思いながら、ネーヴェは嬉しくなってしまった。
言い争いとも言えない、気まずいやり取りをしてしまった。
彼の痛いところを突いた自覚はあるため、謝りたい気持ちがあるが、謝ってどうする? とも思う。
天使と人間は、寿命が違う。見えている世界も違う。
ネーヴェの指摘は、単なる事実で、謝罪して解決するような問題ではなかった。
話し合いをしなければならない。
だが、どう切り出せば良いのだろう。
「陛下。今日は礼拝堂に、聖下がいらしてますよ」
「……」
「陛下?」
シルヴィアがせっかく報告してくれているのに、自分からシエロと話しに行くのが、ためらわれた。
「今日は忙しいから、また今度にします」
そう言って、会いに行かなかった。
ネーヴェのためらいを、シエロも察したらしい。
翌日、侍女がシエロからの贈り物を持ってきた。
「聖堂の庭園の花を陛下に、との事です」
それは、真っ白なエルダーフラワーの花束だった。
ネーヴェは侍女に命じて、その花を花瓶に活けさせる。マスカットの果実のようなエルダーフラワーの香りが、執務室に広がった。
花の配達は、その日だけでなく、翌日以降も続いた。
次の日は、ラベンダー。
その次の日は、ヒナギク。
カーネーション、薔薇、カサブランカ……
花瓶ひとつでは活けられなくなってきた。
「あらあら。今日は何の花でしょうね?」
侍女頭のディアマンテは楽しそうだ。
「ネーヴェちゃん、聖下と仲直りしたら?」
「……」
ある日から突然、花の配達攻撃?が始まったのだ。
ネーヴェがシエロを避けているので、勘の良い者なら、二人の間に何かあったと気付く。そして、毎日の花の配達は、あからさまに女性のご機嫌取りだ。
「喧嘩など、していません」
「仲の良い男女は、皆そう言うのよ。こんなに毎日、お花をくれる男なんて、なかなかいないわよ」
いつの間にか叔母は、すっかりシエロの味方だ。
あの男は尊大な外面の癖に、下手に出るのが上手い。小娘相手に、プライドが傷付いたりしないのかしら。
そして、なぜネーヴェが悪いみたいな雰囲気になっているのか。
解せないわ……。
「分かりました。会いに行けば良いんでしょう!」
ネーヴェは意を決して、王城内の礼拝堂へ向かった。
礼拝堂の前には例によって長蛇の列が出来ているが、やけになった女王陛下の迫力に押され、蜘蛛の子を散らすように皆いなくなる。
重い扉を兵士に開けさせると、内部では司祭アドルフとシエロが何やら作業をしている。
「……ここに鉢を設置しろ」
「聖下が育てると、屋根を突き破るほど成長しそうで怖いですね」
部外者立ち入り禁止の内陣の隅っこに、植物の鉢を設置しようとしているところだった。
「何をやっているんですの?」
ネーヴェが聞くと、壇上に立っていたシエロが振り返る。
「ああ、来たのか。お前が来るきっかけになればと、礼拝堂にオリーブの木を設置しようとしていたところだ」
オリーブの木を育てることに興味があるネーヴェの気を引こうとしていたらしい。
恥ずかしげもなく宣うシエロに、ネーヴェは呆れた。
「もう来ましたので、不要なのでは?」
「いや。この礼拝堂の緑化推進のため、このオリーブはここで育ててみようと思う」
緑化推進とは何ぞやと色々突っ込みどころが多いが、ネーヴェはシエロと話せて安堵している自分に気付いた。断じて叔母のようにイケメン好きな訳ではないが、シエロの顔を見ると落ち着くのだ。
一方のシエロは、先日の気まずい会話が無かったかのように、穏やかに微笑む。
「お前の来訪を心待ちにしていたぞ、ネーヴェ」
「!」
臆面もなく言われて、これでは意地を張っていた自分の方が子供っぽいと思いながら、ネーヴェは嬉しくなってしまった。
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