実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉

文字の大きさ
126 / 278
魔術と天使様

第32話 仲直り

しおりを挟む
 シエロ様と、どう仲直りしようかしら。
 言い争いとも言えない、気まずいやり取りをしてしまった。
 彼の痛いところを突いた自覚はあるため、謝りたい気持ちがあるが、謝ってどうする? とも思う。
 天使と人間は、寿命が違う。見えている世界も違う。
 ネーヴェの指摘は、単なる事実で、謝罪して解決するような問題ではなかった。
 話し合いをしなければならない。
 だが、どう切り出せば良いのだろう。

「陛下。今日は礼拝堂に、聖下がいらしてますよ」
「……」
「陛下?」
 
 シルヴィアがせっかく報告してくれているのに、自分からシエロと話しに行くのが、ためらわれた。
 
「今日は忙しいから、また今度にします」
 
 そう言って、会いに行かなかった。
 ネーヴェのためらいを、シエロも察したらしい。
 翌日、侍女がシエロからの贈り物を持ってきた。

「聖堂の庭園の花を陛下に、との事です」
 
 それは、真っ白なエルダーフラワーの花束だった。
 ネーヴェは侍女に命じて、その花を花瓶に活けさせる。マスカットの果実のようなエルダーフラワーの香りが、執務室に広がった。
 花の配達は、その日だけでなく、翌日以降も続いた。
 次の日は、ラベンダー。
 その次の日は、ヒナギク。
 カーネーション、薔薇、カサブランカ……
 花瓶ひとつでは活けられなくなってきた。
 
「あらあら。今日は何の花でしょうね?」
 
 侍女頭のディアマンテは楽しそうだ。

「ネーヴェちゃん、聖下と仲直りしたら?」
「……」
 
 ある日から突然、花の配達攻撃?が始まったのだ。
 ネーヴェがシエロを避けているので、勘の良い者なら、二人の間に何かあったと気付く。そして、毎日の花の配達は、あからさまに女性のご機嫌取りだ。

「喧嘩など、していません」
「仲の良い男女は、皆そう言うのよ。こんなに毎日、お花をくれる男なんて、なかなかいないわよ」
 
 いつの間にか叔母は、すっかりシエロの味方だ。
 あの男は尊大な外面の癖に、下手に出るのが上手い。小娘相手に、プライドが傷付いたりしないのかしら。
 そして、なぜネーヴェが悪いみたいな雰囲気になっているのか。
 解せないわ……。
 
「分かりました。会いに行けば良いんでしょう!」
 
 ネーヴェは意を決して、王城内の礼拝堂へ向かった。
 礼拝堂の前には例によって長蛇の列が出来ているが、やけになった女王陛下の迫力に押され、蜘蛛の子を散らすように皆いなくなる。
 重い扉を兵士に開けさせると、内部では司祭アドルフとシエロが何やら作業をしている。
 
「……ここに鉢を設置しろ」
「聖下が育てると、屋根を突き破るほど成長しそうで怖いですね」
 
 部外者立ち入り禁止の内陣の隅っこに、植物の鉢を設置しようとしているところだった。
 
「何をやっているんですの?」
 
 ネーヴェが聞くと、壇上に立っていたシエロが振り返る。

「ああ、来たのか。お前が来るきっかけになればと、礼拝堂にオリーブの木を設置しようとしていたところだ」
 
 オリーブの木を育てることに興味があるネーヴェの気を引こうとしていたらしい。
 恥ずかしげもなくのたまうシエロに、ネーヴェは呆れた。

「もう来ましたので、不要なのでは?」
「いや。この礼拝堂の緑化推進のため、このオリーブはここで育ててみようと思う」
 
 緑化推進とは何ぞやと色々突っ込みどころが多いが、ネーヴェはシエロと話せて安堵している自分に気付いた。断じて叔母のようにイケメン好きな訳ではないが、シエロの顔を見ると落ち着くのだ。
 一方のシエロは、先日の気まずい会話が無かったかのように、穏やかに微笑む。

「お前の来訪を心待ちにしていたぞ、ネーヴェ」
「!」

 臆面もなく言われて、これでは意地を張っていた自分の方が子供っぽいと思いながら、ネーヴェは嬉しくなってしまった。


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

処理中です...