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魔術と天使様
第46話 告白
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勢いで唇を合わせに行き、すぐに身を離そうとしたが、その前に低く唸ったシエロが引き留めてくる。彼は眉ねを寄せ、怒っているような表情だった。
「まったく、お前はっ」
今度こそ、正面から抱きしめられ、彼に唇を奪われる。
思ったより彼の体温は高くて、ネーヴェは炎に炙られているように、体が熱くなった。
これ以上、息ができないと思ったところで、解放される。
「俺の自制を試しに来ているのか?」
「いつも余裕に見えますが」
「我慢しているだけだ」
苦々しい表情で、シエロは言う。
「天使は、人間を傷付けることが許されない。口付け以上の行為は禁に触れる。だから、遊び半分ならともかく、自分から俺に近付いてくるな。酷く、傷付けてやりたくなる」
守りたい、ではなく、傷付けたい、か。
矛盾しているが、とても人間的な感情だと思う。ネーヴェはその言葉に、彼の本心を感じた。
同時に、そんな制約を抱えて結婚はどうするつもりだったのか、疑問に思う。
「私と結婚するつもりなのですよね?」
「お前の人生を変えた責任は取るつもりだ」
シエロは苦し気に、眉ねを寄せた。
「お前の望みは何でも叶えるし、生涯、守り抜くと誓おう」
「天使を、引退されて?」
「……引退できればな。いくつか解決しなければならない事がある……俺と子供を作りたいのか?」
何となく、話が見えてきた。
彼と付き合って、行き着く未来について、今まで曖昧なままにしていた事を、ネーヴェは反省する。無理にでも、聞き出すべきだった。
男と女が付き合えば子供ができる。当たり前過ぎて、その当たり前が実現できないかもしれないと考えていなかった。初心《うぶ》なネーヴェは、シエロと結婚して二人でどうしたいのか、具体的に想像していた訳ではなかったのだ。
ただ、ぼんやりと、二人で引退して畑を耕すのだと思っていた。
しかし、畑を耕すだけなら、結婚しなくても出来る。
「子供までは、考えていませんでしたわ。けれど、シエロ様の子供なら、きっと土いじりが好きでしょうね」
「……」
ネーヴェは両腕を上げ、困っている風のシエロの頬に、手を伸ばす。
「どうすれば、天使を引退できるのですか」
「聞いてどうする?」
「一緒に、なるべく早く引退できる方法を考えますわ」
きっと只一人で孤独に戦ってきただろう、この男に、これからは一人ではないと伝えたい。
ネーヴェが微笑むと、シエロの深海色の瞳に、さざ波のような動揺が見えた。
「自分で言うのも何だが、俺はフォレスタの天使だぞ。国の安寧と平和を願うなら、なるべく永く天使でいて欲しいはずだ。お前の家族や友人を守るためにもな。俺が天使を辞めれば、国と大勢の民に影響が出る。それでも、お前は一緒に考えると言うのか」
考え直せ、とシエロは固い口調になって、やんわり距離を取ろうとする。
「俺が天使を辞めたいのは、俺個人の事情であって、そこにお前を巻き込むつもりはない……お前は女王だろう。一人と大勢を秤に掛けるな」
ああ、そうだったのか。だからシエロは、ネーヴェに自分の事情を詳しく話そうとしなかったのだ。
彼は、ひたすら真摯にネーヴェの身を案じている。
ネーヴェに重荷を背負わせまいと気を回し、自分がその分を背負いこんで、大切なものを守ろうとしていた。
込み上げてくる愛おしさをこらえ、ネーヴェはきっとシエロを睨んだ。
「シエロ様、私は女王ではなく、暫定女王ですのよ。いつまでも女王をやってるつもりはありません。一人の女に戻った時、一番大切な誰かを決めるのは、人として当然の事です。誰に文句を言われても、知った事ではありませんわ」
だから、そろそろ観念して下さいと迫れば、シエロは「参った」と白旗を上げる。
「お前に道理があると認めよう。ネーヴェ、お前は、俺には勿体ないほど良い女だ」
「まったく、お前はっ」
今度こそ、正面から抱きしめられ、彼に唇を奪われる。
思ったより彼の体温は高くて、ネーヴェは炎に炙られているように、体が熱くなった。
これ以上、息ができないと思ったところで、解放される。
「俺の自制を試しに来ているのか?」
「いつも余裕に見えますが」
「我慢しているだけだ」
苦々しい表情で、シエロは言う。
「天使は、人間を傷付けることが許されない。口付け以上の行為は禁に触れる。だから、遊び半分ならともかく、自分から俺に近付いてくるな。酷く、傷付けてやりたくなる」
守りたい、ではなく、傷付けたい、か。
矛盾しているが、とても人間的な感情だと思う。ネーヴェはその言葉に、彼の本心を感じた。
同時に、そんな制約を抱えて結婚はどうするつもりだったのか、疑問に思う。
「私と結婚するつもりなのですよね?」
「お前の人生を変えた責任は取るつもりだ」
シエロは苦し気に、眉ねを寄せた。
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「天使を、引退されて?」
「……引退できればな。いくつか解決しなければならない事がある……俺と子供を作りたいのか?」
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男と女が付き合えば子供ができる。当たり前過ぎて、その当たり前が実現できないかもしれないと考えていなかった。初心《うぶ》なネーヴェは、シエロと結婚して二人でどうしたいのか、具体的に想像していた訳ではなかったのだ。
ただ、ぼんやりと、二人で引退して畑を耕すのだと思っていた。
しかし、畑を耕すだけなら、結婚しなくても出来る。
「子供までは、考えていませんでしたわ。けれど、シエロ様の子供なら、きっと土いじりが好きでしょうね」
「……」
ネーヴェは両腕を上げ、困っている風のシエロの頬に、手を伸ばす。
「どうすれば、天使を引退できるのですか」
「聞いてどうする?」
「一緒に、なるべく早く引退できる方法を考えますわ」
きっと只一人で孤独に戦ってきただろう、この男に、これからは一人ではないと伝えたい。
ネーヴェが微笑むと、シエロの深海色の瞳に、さざ波のような動揺が見えた。
「自分で言うのも何だが、俺はフォレスタの天使だぞ。国の安寧と平和を願うなら、なるべく永く天使でいて欲しいはずだ。お前の家族や友人を守るためにもな。俺が天使を辞めれば、国と大勢の民に影響が出る。それでも、お前は一緒に考えると言うのか」
考え直せ、とシエロは固い口調になって、やんわり距離を取ろうとする。
「俺が天使を辞めたいのは、俺個人の事情であって、そこにお前を巻き込むつもりはない……お前は女王だろう。一人と大勢を秤に掛けるな」
ああ、そうだったのか。だからシエロは、ネーヴェに自分の事情を詳しく話そうとしなかったのだ。
彼は、ひたすら真摯にネーヴェの身を案じている。
ネーヴェに重荷を背負わせまいと気を回し、自分がその分を背負いこんで、大切なものを守ろうとしていた。
込み上げてくる愛おしさをこらえ、ネーヴェはきっとシエロを睨んだ。
「シエロ様、私は女王ではなく、暫定女王ですのよ。いつまでも女王をやってるつもりはありません。一人の女に戻った時、一番大切な誰かを決めるのは、人として当然の事です。誰に文句を言われても、知った事ではありませんわ」
だから、そろそろ観念して下さいと迫れば、シエロは「参った」と白旗を上げる。
「お前に道理があると認めよう。ネーヴェ、お前は、俺には勿体ないほど良い女だ」
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