実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉

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天使様と里帰り

Side: フレースヴェルグ

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 アぺニア山脈北側の切れ目からフォレスタに攻め込み、かの国を足掛かりに帝国を挟撃する企みはつぶれた。
 しかし、もっと北側の方から回り込んでいた本隊は、レグニツァで勝利をおさめ、帝国侵略の拠点を築きつつある。
 その少し後方、山間にある廃墟で、フレースヴェルグは星を見上げていた。

「やっと帰ってきた……」
 
 生い茂った草木の間から、白い石組がのぞいている。
 そこは、かつてシュレージエンと呼ばれた小さな国の跡地であった。
 何百年も前、シュレージエンは内紛により王族が全滅し、国は分裂して消えた。今は帝国の属州の一つになっている。
 滅亡のきっかけとなったのは、ほかならぬフレースヴェルグであった。
 彼は、シュレージエンの守護天使を担っていた。
 運命を変えたのは、一人の乙女。
 愛しい人、慈愛の巫女エイル。彼女を想うと、フレースヴェルグは怒りと憎しみで胸が張り裂けそうになる。
 天使と人間。許されぬ恋であった。
 フレースヴェルグは国よりも彼女を大切にしようとしたが、それを重荷に感じたのか、エイルは自分から離れようとした。そして、それを周囲も推奨した。フレースヴェルグに仕える司祭たちはこぞって二人の付き合いに反対し、王族も二人を引き離そうと介入する。王子がエイルをめとると言い出したのだ。
 エイルに説得されて一度は離縁を受け入れたフレースヴェルグだが、王子が他の女性にうつつを抜かし、エイルを不幸な目に合わせたため、我慢の緒が切れた。
 天使が絶対に侵してはならない禁忌―――エイルを救うため、フレースヴェルグは憎い王子を自らの手で殺した。
 そのことがきっかけで堕天し、シュレージエンは内部から瓦解したのだ。
 きっと多くの人々が傷つき、路頭に迷ったことだろう。しかし、フレースヴェルグは良い気味だとしか思わなかった。救ってくれと願う民衆たち、彼らは自分の頭で考えず、重要なことを全て天使に都合よく押し付けていた。自業自得としか言いようがない。

 この物語には、続きがある。
 王子を殺し、愛しいエイルを手に入れたフレースヴェルグは、彼女の寿命を自分と同等とするため、魔法の力で自分の命の半分を彼女に与えた。そのことによってエイルも魔物に近い性質となった。堕ちた二人で共に生きていければ、それもまたハッピーエンド……にはならなかったのだ。
 国が滅びたのを自らの罪だと考えたエイルは、自殺をしようとし、それができないと知ると、助けを求めて帝国の天使のもとに身を寄せた。
 帝国は、複数の天使が守っているため、フレースヴェルグも簡単に手を出せない。
 こうして、フレースヴェルグは彼女を取り戻すため、長い雌伏の時を迎えることになった。
 帝国に対抗するため、もう一つの帝国―――東の彼方の平原に住む人々を奮起させ、黄金鷲アルタイルを作り上げた。東の帝国アルタイルは周辺国を飲み込み、西に進軍を開始した。
 準備は整った。
 神海沿岸地域マーレ・ノストゥルムの諸国を統一しているオセアーノ帝国、天使の集う白銀梟ミスタリアを倒して、エイルを奪い返す。

「……」

 不退転の決意を固め、空を見上げていたフレースヴェルグは、不意にフォレスタの北で戦った隻翼の天使を思い出す。
 女王を守るため、前線に姿を見せた天使の姿を。
 どうしてだろう。あの天使の存在は、妙に気に障る。

「フレースヴェルグ様……」
「やれやれ。わざわざ私を探しにきたのですか」
 
 従者が迎えに来たので、フレースヴェルグは人のいない廃墟から引き上げることにした。
 ゆっくり星空を見上げるために、人間が少ない方が良い。二つの帝国がつぶしあって、互いに少し人口が減れば、ちょうどよいのではないだろうか。
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