実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉

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綺麗好きの野望

第3話 またのお越しをお待ちしていますわ

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 シエロと浴室で引退談義をした数日後。
 ネーヴェは、関係者だけを集めた謁見の間で、別れを告げるアウラの使節を見送っていた。
 
「我が国への技術協力に感謝いたしますわ。魔術の国アウラの技術は、素晴らしいですね」
「いえいえ。建築や道具を作る技術は、フォレスタの方が上です。我が国も学生を派遣して、フォレスタの技術を学びたいと思います」
 
 ルイはそう謙遜する。
 アウラの王子が臣下を連れてフォレスタを訪れてから、既に半年以上が経過している。結局、水道と魔道ポンプ連結の技術協力のため、ルイは秋冬をフォレスタで過ごした。さすがにもう祖国に帰らないといけない。
 長く逗留させられたアウラの使節団だが、特に不満は感じていないようだ。

「はぁ。フォレスタは食事が美味しいし、葡萄酒は飲み放題だし、温泉も素晴らしい。ずっとフォレスタにいたいくらいです」
 
 ルイの嘆きに、配下の使節団の人々もうなずいている。
 帰国したい気持ちと、居心地のよいフォレスタから出たくない気持ちが半々らしい。

「我らは国に帰りますが、交代で訪れた使節を、どうか我ら以上にもてなして下さい」

 交換留学や魔道具輸入のため、アウラの大使がフォレスタに常駐することが決まっている。ルイ達が帰ることになったのも、交代要員が到着したからだった。
 アウラとフォレスタの関係は順調に発展している。
 アウラから魔術に関する技術提供、フォレスタからは建築土木など各種技術提供することで、話がまとまった。フォレスタは初代国王が葡萄栽培を促進していたため、他の国よりも農業技術が優れている。その農業に付随して、実は建築土木技術も目を見張るものがあった。
 ルイ王子と使節団は、半年以上の長きに渡る滞在で、フォレスタの生活レベルが高いことに驚き、魔術と既存の技術を組み合わせて新しいものを作ることができることに展望を見出した。本国もルイの要請で重い腰を上げ、二国にとって有意義な方向で交渉が進んでいる。
 
「また、いつでもフォレスタにお越しください。歓迎いたしますわ」
 
 ネーヴェはうっすら笑みを浮かべ、鷹揚《おうよう》に言う。
 アウラの使節団は女王に繰り返し礼を述べ、謁見の間を辞した。
 次の予定まで時間がある。
 見送りに参加していたフォレスタ高官は、謁見の間を出ていく。
 その中で宰相ラニエリは、流れに逆らうよう、ネーヴェに向き直った。

「交換留学の件、順調に進んでおりますね。例の件について、陛下からも聖下にご注進願います」

 宰相ラニエリは陰気な笑いを浮かべ、一礼する。
 ネーヴェは無表情に「検討します」と答えた。
 例の件……フォレスタの守護天使と、アウラの守護天使の見合いだ。
 ラニエリはネーヴェに歪んだ恋慕を抱いており、アウラの天使とフォレスタの天使シエロを見合いさせることで、ネーヴェとシエロの仲を裂こうと画策している。
 非常に陰険なことに、当人のネーヴェに見合いの仲介をさせようとしていた。
 なぜ自分の婚約者であるシエロを、他の女と見合いさせなければいけないのか、ネーヴェは腹立たしい気持ちで一杯だ。
 握りつぶしたい気持ちは山々だが、仮にもアウラの王族から届いた親書を燃やす訳にはいかない。向こうは、ネーヴェとシエロの間柄を知らないのだ。
 よって、ひとまずアウラの親書を受け取って、どう断るか考えなければいけない事態に陥っている。
 一応、事前にシエロと打ち合わせ済みではあるが、だからといって腹立たしさが収まるかというと、それは話が別だ。
 ネーヴェから発散される冷気を和らげるためだろうか。

「……使節の皆様の、帰り道は大丈夫でしょうか。帝国は戦争をしているという話ですし」
 
 場に残っていた軍務補佐官がためらいがちに発言した。
 その言葉に、ラニエリの横槍に苛立っていたネーヴェは、思考を切り替える。

「戦争の状況は、分からないのですか」
 
 ネーヴェが聞くと、外交官が「ただいま情報の収集中です」と答える。
 フォレスタの隣、広大な領地を有する帝国は、東からやってきた蛮族たちとの戦争の真っただ中らしい。
 すぐに終わると思われた戦争だが、蛮族たちの猛攻に手を焼いているらしく、いまだ戦争が終わったという知らせは聞かなかった。
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