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邪竜討伐
Side: シエロ 矢文
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ヴェルナの街から少し離れた小さな村の天翼教会で、ゼラキエルは匿われていた。
天翼教会の扉は、常と違って固く閉ざされている。
警戒している司祭に印籠代わりに翼を見せると、すぐ中に通された。
狭い礼拝堂は、薬草の匂いで満ちていた。それにもまして、強い血の匂いがする。それは急ごしらえの寝台に横たわった、ゼラキエルの体から漂う匂いだった。青ざめた男の肩からは、傷ついた白い翼が力なく広がっている。
翼を収納する気力もないほど、重傷なのか。
「手当はしたのですが、なにぶん天使様の体は、我々人間と違うので」
司祭が、強張った顔で説明する。
彼らはゼラキエルが死ぬのではないかと怯えているようだ。
「俺が癒す」
天使は自分の傷を癒せない。しかし、天使同士は癒しの力が通じる。
シエロは寝台に歩み寄り、傍らに腰を下ろした。あまり得意ではないのだがと思いながら、癒しの力をゼラキエルに注いだ。
「……う」
しばらくすると、ゼラキエルが薄目を開ける。
「……なんだ、誰が来たのかと思ったら、シエロ君じゃないか。久しぶりだねぇ」
「のんきに挨拶している場合ではなかろう、ゼラク」
シエロは彼を略称で呼ぶ。
実のところ、ゼラキエルの方が遥かに年上の天使だが、天使同士で年齢の話はご法度のため、年齢を気にせず名前で呼び合うことが多い。
昔、宝座の天使が「見た目は同じ若者なのに、おじいちゃん扱いされるのはショックだ」と言っていた。
「いや~、竜は手ごわいね、死ぬかと思った。シエロ君、ああいうのどうやって倒すんだい? 僕には無理だよ」
「だから俺が来た。回復してきたなら、翼をしまえ」
あんまり翼を無造作に投げ出しているのは、天使にとって恥ずかしい感覚なのだ。
シエロが促すと、ゼラキエルは翼を消し、上体を起こそうとした。
まだ動けないようなので、さりげなく肩を貸してやる。
その時、慌てた顔の司祭が駆けこんできた。
「天使様、外の壁に、矢文《やぶみ》が!」
手紙をくくりつけた矢が、教会の壁に刺さったらしい。
「俺に渡せ」
シエロは怯える司祭から矢文を奪うと、広げて内容を確認した。
こちらにもたれたまま、馴れ馴れしく肩に頭を載せて、ゼラキエルが手紙をのぞきこむ。
「なになに? 天使が人間と結ばれる方法を知りたくないか。シュレジエンの跡地にて待つ……すごい罠っぽい手紙だね」
ゼラキエルは勝手に、矢文を読み上げた。
「フレースヴェルグからだな」
「天使が人間と結ばれる方法って?」
「俺目当てだろう。どこかで、俺が人間に恋をしている噂でも聞いたのか」
冷静に分析していると、ゼラキエルがぱっと顔を輝かせた。
「何シエロ、君、恋してるの?!」
「……なんで、そう嬉しそうなんだ」
「他人の恋話、大好きだよ! 聞かせて聞かせて!」
「うるさい。寝てろ」
相手にするのが面倒になってきたので、シエロはゼラキエルを振り落とし、寝台に逆戻りさせた。
そのまま立ち上がり、教会を出て行こうとする。
寝台に転がったゼラキエルが、背中に声を掛けてきた。
「気を付けて。堕天なんて、しちゃ駄目だよ」
その言葉に、シエロは足を止めて振り返った。
「天使は清く正しくあらねばならないから、か?」
聞き返すと、ゼラキエルはふっと皮肉げな笑みを浮かべる。
「いいや。単なる損得の問題だ。堕天するデメリットの方が大きいだろう。まあ、君が堕天するような未来は思い浮かばないけれど」
「……」
「いってらっしゃい。僕も起きられるようになったら、すぐ飛んでいくよ」
ひらひら手を振るゼラキエルに見送られ、シエロは教会を後にする。
目指すは、シュレジエンの都の跡地。
そこでフレースヴェルグが待っている。
もしも代償なしに人間と円満な恋をする方法があったなら、話を聞いてみたい気持ちがなくもない。しかし、シエロはそんな楽な方法はないと、既に知っていた。
天翼教会の扉は、常と違って固く閉ざされている。
警戒している司祭に印籠代わりに翼を見せると、すぐ中に通された。
狭い礼拝堂は、薬草の匂いで満ちていた。それにもまして、強い血の匂いがする。それは急ごしらえの寝台に横たわった、ゼラキエルの体から漂う匂いだった。青ざめた男の肩からは、傷ついた白い翼が力なく広がっている。
翼を収納する気力もないほど、重傷なのか。
「手当はしたのですが、なにぶん天使様の体は、我々人間と違うので」
司祭が、強張った顔で説明する。
彼らはゼラキエルが死ぬのではないかと怯えているようだ。
「俺が癒す」
天使は自分の傷を癒せない。しかし、天使同士は癒しの力が通じる。
シエロは寝台に歩み寄り、傍らに腰を下ろした。あまり得意ではないのだがと思いながら、癒しの力をゼラキエルに注いだ。
「……う」
しばらくすると、ゼラキエルが薄目を開ける。
「……なんだ、誰が来たのかと思ったら、シエロ君じゃないか。久しぶりだねぇ」
「のんきに挨拶している場合ではなかろう、ゼラク」
シエロは彼を略称で呼ぶ。
実のところ、ゼラキエルの方が遥かに年上の天使だが、天使同士で年齢の話はご法度のため、年齢を気にせず名前で呼び合うことが多い。
昔、宝座の天使が「見た目は同じ若者なのに、おじいちゃん扱いされるのはショックだ」と言っていた。
「いや~、竜は手ごわいね、死ぬかと思った。シエロ君、ああいうのどうやって倒すんだい? 僕には無理だよ」
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あんまり翼を無造作に投げ出しているのは、天使にとって恥ずかしい感覚なのだ。
シエロが促すと、ゼラキエルは翼を消し、上体を起こそうとした。
まだ動けないようなので、さりげなく肩を貸してやる。
その時、慌てた顔の司祭が駆けこんできた。
「天使様、外の壁に、矢文《やぶみ》が!」
手紙をくくりつけた矢が、教会の壁に刺さったらしい。
「俺に渡せ」
シエロは怯える司祭から矢文を奪うと、広げて内容を確認した。
こちらにもたれたまま、馴れ馴れしく肩に頭を載せて、ゼラキエルが手紙をのぞきこむ。
「なになに? 天使が人間と結ばれる方法を知りたくないか。シュレジエンの跡地にて待つ……すごい罠っぽい手紙だね」
ゼラキエルは勝手に、矢文を読み上げた。
「フレースヴェルグからだな」
「天使が人間と結ばれる方法って?」
「俺目当てだろう。どこかで、俺が人間に恋をしている噂でも聞いたのか」
冷静に分析していると、ゼラキエルがぱっと顔を輝かせた。
「何シエロ、君、恋してるの?!」
「……なんで、そう嬉しそうなんだ」
「他人の恋話、大好きだよ! 聞かせて聞かせて!」
「うるさい。寝てろ」
相手にするのが面倒になってきたので、シエロはゼラキエルを振り落とし、寝台に逆戻りさせた。
そのまま立ち上がり、教会を出て行こうとする。
寝台に転がったゼラキエルが、背中に声を掛けてきた。
「気を付けて。堕天なんて、しちゃ駄目だよ」
その言葉に、シエロは足を止めて振り返った。
「天使は清く正しくあらねばならないから、か?」
聞き返すと、ゼラキエルはふっと皮肉げな笑みを浮かべる。
「いいや。単なる損得の問題だ。堕天するデメリットの方が大きいだろう。まあ、君が堕天するような未来は思い浮かばないけれど」
「……」
「いってらっしゃい。僕も起きられるようになったら、すぐ飛んでいくよ」
ひらひら手を振るゼラキエルに見送られ、シエロは教会を後にする。
目指すは、シュレジエンの都の跡地。
そこでフレースヴェルグが待っている。
もしも代償なしに人間と円満な恋をする方法があったなら、話を聞いてみたい気持ちがなくもない。しかし、シエロはそんな楽な方法はないと、既に知っていた。
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