実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉

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心を預ける相手

第65話 アップルパイを作りましょう

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 正直、ルシエルには良い印象がない。
 突然ネーヴェをさらい、シエロと別れるよう勧めてきた。ネーヴェが拒否すると今度はシエロを返さないと、二人の邪魔をする。無事シエロと再会できたから良いものの、ことと場合によっては許さなかったところだ。
 しかし、仮にも最高位の天使がすることなので、何か意味があるのかもしれない。意味ないのかもしれないが、もし意味があったら困るので、ネーヴェは最低限の敬意をもってルシエルに接することにした。

「お久しぶりです、ルシエル様。お話が途中だったので、こちらから参上しました」
「うん、覚えてるよ。君はすごいな、私に二度会う人間は、ほぼいないのに」

 意外にもルシエルは友好的な雰囲気で、ネーヴェは拍子抜けする。
 一方、シエロの方はネーヴェほど敬意を持てないようだ。

「その無駄に長く生きているせいで話が通じない奴は放っておけ、ネーヴェ。それよりも、どうやって邪竜を捕まえて吐かせるかだ」

 ルシエルを無視して話を続けようとする。
 天使同士の上下関係は、どうなってるのだろうか。
 戸惑っているとルシエルが笑って「フリーダムなのは、この子くらいだよ」とネーヴェに教えてくれた。一応上下関係は、あるらしい。
 気を取り直して、邪竜の話に戻る。

「私、以前この生命樹でお世話になったとき、やたら苦くて吐きそうになる不味い草を見つけましたの」
『ああ、あれね! 鳥的には、必要なんだけど』

 火の精霊鳥ブリストルが、羽繕いしながら会話に参加した。
 生命樹のルシエルの屋敷に世話になっていたとき、鳥たちが食べられるものを持ってきてくれたのだが、人間的には食べられないものも混じっていたのだ。

「邪竜をおびき寄せ、私の作った嘔吐をもよおす薬を飲ませるのですわ。問題は、何なら薬と一緒に飲んでくれるか、ですが」

 邪竜が罠に飛び込んでも食べたいと思うものを用意し、それに薬を仕込む作戦だ。

『それは、やっぱり生命の実でしょうね。魔物がここに来る理由だもの』

 ブリストルが助言をしてくれる。
 確かに、生命の実なら、邪竜も食いついてくれるかもしれない。
 しかし⋯⋯

「生命の実は、魔物をパワーアップさせてしまう。それを食べさせるつもりかい?」

 ルシエルが突っ込んだ。
 密かに抱いていた懸念を肯定され、ネーヴェは他の案も考えた方が良いかと思う。しかし、邪竜が罠に掛かっても求めるものとして、生命の実以上のものは思い浮かばない。

「ネーヴェ、気にせず生命の実を使え。邪竜がパワーアップしても、俺が斬り捨てる」
「シエロ様」

 しかしシエロは、その作戦で進めろと言った。
 ルシエルが眉をしかめる。

「邪竜がいくらパワーアップしても、ラルクシエル、確かにお前なら関係ないだろうさ。ところで聞きたいんだけど、さっき上で神託を仰いで何をしたのかい?」

 途中で話が変わった。
 ルシエルの言葉の後半が分からず、ネーヴェは二人の天使を見比べる。
 シエロは淡々と答えた。

「懸念事項を減らしただけだ」
「また自分の身を削ってないだろうね?! まったく、お前は本当に危なっかしい子だよ」
「⋯⋯」

 心配と呆れの両方を滲ませるルシエルは、この瞬間とても頼りがいのある年長の天使に見えた。バツが悪そうに黙るシエロが子供のようで。
 やはり、ルシエルは何か理由があって、シエロとネーヴェの邪魔をしたのではないだろうか。
 
「ルシエル様、生命の実を使ってもよろしいのですか」

 様子を見守っていたネーヴェは、念のため聞いた方が良いだろうと思い、静かに質問する。
 するとルシエルは微笑んで頷いた。

「うん、君の作戦で進めて良いよ。私も空間を操り、邪竜を追い詰めるのに協力しよう。あれに私の庭を荒らされる訳にはいかないからね」

 生命の実を使っても問題ないらしい。どれだけ邪竜が強くなっても、シエロが倒せるという。
 ルシエルが承認のもと、作戦決行が決まった。
 ネーヴェは浮き浮きとした気分になり、パンと両手を打ち鳴らす。

「そうと決まったら、薬草を集めなければ! 生命の実でアップルパイを作りましょう!」
  
 そう言うと、ネーヴェ以外の全員が「え?!」と言って固まった。
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