山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

文字の大きさ
236 / 266
*現在* 天空の城

212 束の間の休息

しおりを挟む
 それからまた交互に二人に突っ込まれ……リュンクスは狼の群れに放り込まれた肉の気分だった。二匹の狼によってたかって骨までしゃぶられた。
 
「だるー」
 
 リュンクスは、魔術師の隠れ宿まで戻ってきた後、一階の客間のソファーを独り占めにした。
 今日はもう動きたくない。
 
「そんなに不細工な顔をして。魔力は満タンになっただろう?」
 
 ノクトはソファーの向かいに椅子を持ってきて座り、人差し指でむっつりしているリュンクスの眉間をつついた。
 
「確かに回復したけど」
 
 二人のマスターにたっぷり魔力を注がれたので、蒼竜に癒やしの術を使った分は戻っていた。
 体が重いし眠たいが、実はそれほど疲れてもいない。魔力の回復と共に、体力も回復している。マスターとサーヴァントの魔術師は、セックスで傷を治す事ができる。交わる事により、魔力が回復すると同時に、自動で治癒の力が働くのだ。

「……」
 
 勝敗はどうなったのだろう、とリュンクスは考える。
 どちらが先にリュンクスをいかせるか、二人のマスターは競争していたはずだ。しかし、途中からもう、どうでもいいような雰囲気になっていた。
 勢いで先輩に乗っかったリュンクスは、少し恥ずかしい。カノンは大胆に挑発する言葉を吐き、それに刺激されたのか、ノクトも少し棘があった。しかし滅多に独占欲を表に出さないノクトなので、リュンクスは得をした気分である。
 自分の心がどちらのマスターに向いているか、改めてはっきりした。
 ノクトが好きだと、長い間、認められなかった。それに、カノンに対する「好き」も嘘ではない。
 どちらか選べないというのは本当だが、絶対に必要なのはノクトの方だった。
 カノンの前で、それを明らかにしてしまったも同然だが、なぜかカノンはその事に触れない。彼はいつも通り落ち着いていた。
 二人のマスターは冷静で、性交中のお互いの発言を掘り返したりはしなかった。
 リュンクスも藪蛇になるので、気になっているが口には出せない。
 カノンは、暖炉の火に竜の子を放り込むと、リュンクスの寝そべるソファーの肘掛けに腰掛けた。

「念のため、今日は休みとする。明日はいよいよ、吸血鬼や獣人達と協力して、首都ヌンキを奪還する」

 もう予定は決めているらしい。
 淡々と話すカノンを、リュンクスは視線だけで見上げる。
 
「この湖の反対側には、プリオルという街がある。そのプリオルの領主は、双子の吸血鬼だ。先輩は情報交換でそそのかされて、そいつらに自分の血をやったらしいぞ」
「え?!」
 
 リュンクスは跳ね起きた。
 
「血を? 先輩は俺のなのに!」
 
 性交の後だからか、ノクトの体液は全部自分に入れて欲しいと、一瞬きわどい発想をしてしまった。
 
「その通りだ」
 
 何故か、カノンは深々と同意する。
 
「先輩はリュンクスにのみ、奉仕すべきだ。例外は認めん」
 
 後輩たちに責められたノクトは、珍しく困惑した様子になる。
 
「君達……さては私が大好きだな」
「好きか嫌いかで言うと好きだけど、薬師の観点から言わせてもらうと、血液は情報の宝庫だから渡さないで」
「自分の体を切り売りするような交渉は下策だ」
 
 リュンクスは、ここぞとばかりカノンと連携して、ノクトに集中砲火した。いつも余裕の先輩をやり込める良い機会だ。




 夜までは、まだ時間があった。
 カノンは一人で、湖畔の反対側にある都市プリオルに出掛けていった。先に市長に会って、話を進めておくつもりらしい。
 ノクトは魚釣りをするという。リュンクスは、湖に自家製釣り竿を垂れるノクトにもたれて、日が沈むまでうつらうつらしていた。
 
 空が群青になった頃、カノンが戻ってきた。
 リュンクスは先輩の釣り上げた魚を料理し、お手伝い妖精と一緒に夕ご飯を作った。小魚は、竜の子にあげた。
 湖で釣れた白身魚は、意外に油が乗っていて美味だった。
 
「今夜の部屋割だけどさー」
 
 リュンクスは皿を片付けながら提案する。
 
「俺が一人部屋じゃ駄目?」
 
 腰が重い上に、二人に追加で苛められないか、リュンクスは戦々恐々としていた。
 カノンとノクトは視線を交わす。
 
「……二つのベッドを繋げれば、ぎりぎり三人で寝られるのでは?」
「私は雑魚寝に慣れているけど、お坊ちゃん育ちのカノンは眠れないんじゃないかい」
「……」
「そこ、喧嘩しない!」
 
 一日目にカノンが譲って一人部屋になった時、三人のうち誰が一人になっても気まずいという事が判明したからだろうか。
 結局、三人一緒に寝るということになった。
 くっつけて並べたベッドに追加で敷布を広げ、リュンクスを中央にして三人は寝転んだ。
 明日は早い時間に宿を出る予定だ。「疲れたから早く寝よう」と言ったノクトに「先輩は釣りしかしてないだろ」とリュンクスは突っ込む。
 こうして就寝時間になった訳だが、素直に寝ようとしたのはカノンだけだった。

「先輩、寝る前に魔術の打ち消しゲームしようぜ!」
 
 塔の学生は魔術の練習も兼ねたゲームを作り、仲間内で遊ぶ文化がある。打ち消しゲームは、対抗する魔術で相手の魔術を打ち消していくゲームで、重ねるほど難易度が上がるのだ。

「遊びとは言え、私に勝負を挑んで来るとはね」
 
 リュンクスの逆襲が大好きな先輩は、喜んで勝負を受けた。
 二人は火花やシャボン玉を作って、小さな魔術をぶつけ合う。

「リュンクスも魔術の腕が上がったねぇ」
「だろ。まずは先輩に一勝する!」

 ノクトはもちろん、リュンクスも今では並の魔術師ではないので、寝そべりながら最小限の魔術を組み立てるのは、そう難しいことではない。
 面白がりなノクトと、遊びが好きなリュンクスは、打ち消しゲームに熱中した。
 カノンは我慢していたようだが、とうとう途中で声を上げた。
 
「先輩も、リュンクスも、そろそろ寝ろ! セイエル先生に言い付けるぞ」
「!!」
「やれやれ。割り込んでこないと思ったら、勝つ自信が無かったからか」
「何を?! 途中からでも、俺は勝てる」
「カノン、落ち着いて!」
 
 まるで子供みたいに三人ではしゃいで……それでも、いつの間にか眠っていて、気が付くと朝だった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

処理中です...