山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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*現在* 天空の城

211 遅い受け(※)

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 湯で温もれと、カノンが背中を押してくる。
 リュンクスは服を脱いで、湯の中に飛び込んだ。
 
「まだ冷たいな。魔力不足だからか?」
 
 自分も服を脱ぎ、カノンはリュンクスの前に屈んだ。リュンクスの顎を指先で持ち上げ、顔色を観察する。
 
「カノン……んっ」
 
 容赦なく唇を奪われて、リュンクスは呻いた。
 火のように熱い魔力が喉を通り過ぎる。
 一気に体が熱くなった。
 いや、熱くなり過ぎだ。これでは発情してしまう。
 
「か、加減して……!」
「何故だ?」
 
 カノンは怒っているように聞こえる、淡々とした口調で言った。
 
「リュンクスは放っておいたら、どこに行くか分からない。寝込んでいた方が逆に安心する」
「さっきは急にいなくなって、びっくりしたからね」
 
 ノクトも同意するように続けた。
 そういえば、彼らに心配を掛けた事実を失念していた。
 焦るリュンクスから視線を逸らし、カノンは斜め向かいに座っている先輩を見る。
 
「先輩、どちらが先にリュンクスをいかせられるか、勝負しないか?」
「いいね」
 
 リュンクスはさっと青ざめた。
 
「あのさ、ほら、こういうのは別々にした方がじっくりできると思わない?」
「ふふふ」
 
 しどろもどろの抗議に、ノクトは不気味に笑った。
 
「君を苛める時は、二人掛かりの方が愉しいね」

 こんなに楽しそうなノクトは何年ぶりかな、とリュンクスは気が遠くなる。出会った頃は、こんな感じでリュンクスを苛める事を愉しんでいた。
 しかしリュンクスが上手く立ち回るようになり、抵抗しなくなったので「苛めがいがない」とすねていたのが二年くらい前だろうか。
 近頃は穏やかで、優しいノクトしか見ていなかったから、油断していた。

「効率が良い事は確かだ」
「カノン!」
 
 理不尽な言い分にカノンも同意する。
 彼は顎をとらえたまま、人差し指でリュンクスの頬をするりと撫でる。
 
「仕置がまだだったな。待たされた分、高くつくぞ……?」

 カノンは圧倒的な支配者の空気を漂わせ「四つん這いになれ」と命じる。尾てい骨に響くような低い声音だった。
 抵抗しなくては、と思っても、先に体が歓んでしまう。
 リュンクスは岩に手をつき、カノンに背中を見せる。膝小僧が温水につかり、水滴が白い肌の上をしたたっていく。
 
「もう負けを認めるのかい? 面白くないなぁ」
 
 ノクトは、犬のように這っているリュンクスの喉元をくすぐった。そして「ずいぶんカノンに調教されてるんだね」と一瞬、冷たく瞳を細める。
 
「カノン、一回目はカウントしない事にしないかい?」
「!!」
「そうだな。最初は、どちらがやっても変わらない」
 
 言いながらカノンは、リュンクスの背後に立ち、背中から腰にかけて確かめるように撫でた。
 
「アウレルムから取り寄せた花石鹸で毎日洗って、髪を乾かす時には俺の調合した香油を使っている。俺のリュンクスは、抱き心地が良いだろう……?」
 
 あからさまな独占欲を含んだ言葉に、リュンクスはびくりとする。
 ノクトと会うのは年に数回に過ぎない。
 毎日、カノンに管理され、彼の手にすっかり慣らされてしまった。別にノクトに忠誠を捧げている訳ではないのに、この微妙な後ろめたさは何だろう。

「どうもありがとう。君に預けているのだから、しっかり管理してくれないとね」
 
 後輩の挑発を、ノクトはするりとかわして優雅に笑む。

「じゃあ、君の調教の成果を味あわせてもらおうか」
 
 そう言うなり、リュンクスの腕を引いて上体を起こさせ、唇を合わせる。リュンクスは欲望に負けて、先輩にしがみつき、キスをねだった。
 自らノクトの膝に乗り上げる。
 どうしてだろう。ノクトに触れられると、彼が欲しくてたまらなくなる。カノンに染められた体を、強引に奪って欲しいと、心のどこかで思った。
 ノクトは、そんなことをしないのに。
 肝心なところで、ひどく優しい先輩だ。そして残酷なマスターだった。
 
「んっ……せんぱぃ」
「そんなに私が欲しいのかい? カノンの目の前だというのに」
 
 いけない子だ、と彼は耳元でささやく。
 ノクトは、冷たい笑みを浮かべ愛撫を最小限にとどめてくる。リュンクスは踏み込んで来ない先輩に焦れ、彼の剛直を自分の尻にあてがった。腰を落としてくわえこむ。
 
「…くそっ」
 
 悪態をつき、先輩を押し倒していた。
 カノンが目を丸くしているのを感じながら、リュンクスは腰を動かしてノクトを煽った。
 先輩が自分のものになれば良いのに、と思いながら。

「……はぁ」
 
 興奮しているせいか、リュンクスはすぐに達してしまう。
 荒い息を吐くリュンクスを見下ろし、カノンは渋い顔だ。
 
「今のは誰の勝ちなんだ?」
「うーん、あえて言うならリュンクスなんじゃないかい」
 
 ノクトは笑ってリュンクスの頬に手をあてる。
 
「可愛いよ、リュンクス。今すぐ、めちゃくちゃにしてあげたいけど」
 
 リュンクスの努力にも関わらず、ノクトはまだ達していない。
 彼は熱い息をこぼしたが「交代の時間だね」と、思い切りよく体を離す。
 
「先輩!」
「リュンクス、先輩が我慢したんだから、君も我慢しろ」
 
 後ろに立ったカノンが、リュンクスの体を引き寄せ、己のものを柔らかい後穴に埋め込んだ。
 
「!」
「先輩の元にはいかせない。ずっと俺の下にいろ」
 
 カノンの瞳の奥に金焔がけぶる。
 傍若無人な言葉と共に、四つん這いで揺すぶられて、リュンクスは甘い悲鳴を上げる。
 良いところを知り尽くしているカノンは、的確にリュンクスの弱い場所を突いた。

「あぁ、ん!」
「嫌だと言っても逃さない。お前は俺のものだ」
 
 項に強く噛みつかれる。その甘美な痛みに、リュンクスは恍惚とした。獲物を捕えた肉食獣のように、カノンは噛み跡を舐めあげる。
 体はカノンに慣らされている。
 やがて、きっちり、カノンの意図したタイミングで絶頂させられ、リュンクスは岩にしがみついて身を震わせた。
 達した衝撃で、瞬間、意識が飛ぶ。
 
「……っ、あ!」
 
 白みかけた視界に色が戻ると、困ったように笑うノクトが見えた。
 
「遊びのつもりが、すっかり本気だね。どうしたものか」
「……」
「おいで」
 
 広げられた腕の中に、よろめきながら飛び込む。
 今度こそ、最後までノクトを味わおうと、必死に体を繋げた。
 
「リュンクス、無理はするな」
「だって、今じゃないと、次はいつになるか、分からないし」
 
 カノンがいたわるように、横からリュンクスの背中を撫でる。先輩の首元に額をこすりつけながら「カノンが怒ってないのは、何故だろう」とふと疑問に思う。
 
「大丈夫だ。お前の望みは、俺が叶える」
 
 カノンの優しい声を聞きながら、リュンクスはもどかしい気持ちで体をひねる。既に二回絶頂したからか、次の頂上が見えない。正気に戻れば後悔すると分かっていても、このままずっと、揺さぶられていたい気分だった。 

 
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