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227 ノクトの上司
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『おのれ、シルヴィーのいぬ間に、雲の壁を越えてくるとは、侵入者どもめ!』
蒼竜テンペストは、ご立腹だ。
「母さんがいる時は来なかったの?」
『む。そういえばシルヴィーは、天空城サジタリウスを、人里から離れて飛行させていたのだ。地上から人が来ないのは道理か』
「じゃあ、そろそろ人里から遠ざけないと……ていうか、なんで天空城サジタリウスとリーブラは、帝国に接近してたんだ?」
リュンクスは竜の背中で首を傾げる。
その会話は、遠く離れたべフレートの竜の背にいるカノンも聞いていた。先ほどリュンクスが渡した腕輪による通信を、情報共有のため繋げっぱなしにしているのだ。
「吸血鬼達によると、嵐の魔女がさらわれてすぐ、天空城サジタリウスはリーブラに牽引され、移動を開始したそうだ」
カノンは、天空城サジタリウスを巡って情報を集めていた。
リュンクス達の会話に補足を入れる。
「人里に近付こうとしたのは、翼人達ってことか」
リュンクスは、ノクトとピスケスの会話を思い出した。
天空城リーブラの翼人達は、神力不足による食糧難に瀕しているという。人里に近付いたのは、食糧を得るためだろうか。
「雑談は後だ。あれを見ろ」
カノンに促され、リュンクスは天空城に接近する、空飛ぶ魔獣を見つめた。
それは、骨だけで構成された奇妙な竜だ。
光を吸い込むような、滑らかな頭蓋骨。眼のあった場所は虚ろなくぼみがあるばかり。皮膜のない顎には鋭い牙の列が並び、手足には尖った爪がある。
「ボーンドラゴン……」
「非常に珍しい、高位の魔獣だな。竜種ではなく、アンデッドの一種だが、陽光に耐性がある」
近付いてくる骨竜の背には、何人か魔術師の姿が見える。どうやら協力して結界を張っていたらしい。
その中で、一際目立つ漆黒のローブを羽織った男がいた。
自信と貫禄を漂わせた、軍服の男性だ。
年齢はセイエルと同程度なのだが、野望を秘めた目付きと、活動的な物腰で、若く見える。癖の無いダークブラウンの髪は一房、白が混じっていた。
「あれは帝国の……先輩の上司のガウリル!」
「何だと?」
向こうもリュンクス達に気付いたようだ。
目が合った。
「おや。ノクトから連絡が無いので、気になって来てみたら……奇遇だね、リュンクス君。これは一体どういうことかな?」
ガウリルは風に声を乗せ、リュンクス達に話しかけてきた。
「もしかしてノクトは、またサボりなのかな。風の魔術師の気まぐれには困ったものだ。出張先で、可愛い後輩と駆け落ちとは」
「ぶっ」
リュンクスは思わず噴いて、咳き込んでしまった。
確かに第三者から見れば、仕事をサボってお気に入りのサーヴァントと楽しんでいたように見えるかもしれない。あながち、全く間違いでもなかった。
「誤解を解いて真面目な話をすると、母さんの話になるし……先輩には悪いけど、このままにしておこうか」
「そうだな、それがいい」
こういった冗談に普段のらないカノンが、珍しく賛成してくれた。
駆け落ちという事にしても良かったのだが、本人がいないことは、すぐにガウリルにばれた。
「ノクトがいないね。一緒にいると思ったんだが」
リュンクスは、ぎくりと体をこわばらせる。
「リュンクス君、ノクトはどこだね?」
「……」
どう答えたものか、リュンクスは悩んだ。
「可愛がっている後輩を放って、ノクトは何をやっているのかな。君の口から説明してくれてもいいが、学生の報告はあてにならない」
骨竜は、無理やり押し通ろうと、前進を始めた。
「この目で現地を見てから、判断しよう。どきたまえ」
ガウリルは、天空城サジタリウスに上陸しようとしている。
「駄目だ……!」
リュンクスは焦った。
彼が天空城に入れば、母が隠し続けてきた真実、闇の国クリムゾンを滅ぼすと偽って吸血鬼や獣人を保護していることが、明らかになってしまう。
それどころか、嵐の魔女が不在と知れば、ガウリルは天空城を支配して好き勝手するかもしれない。
ここで止めなければ。
蒼竜とべフレートの竜は、ガウリルの行く手を遮るように飛ぶ。
骨竜は、先に進めず棘でできた翼を上下させた。
「どうして邪魔をするのかな。何か疚しい事でもあるのか?」
ガウリルは剣呑に目を細めた。
「いったい誰の指示で、私を止める?」
「それは……」
その時、強風が吹いて、リュンクス達とガウリルの間に、誰かが割り込んだ。
空よりも濃い青色の巨鳥が現れる。
「私の指示だ」
「セイエル?!」
青い鳥の背には、セイエルが乗っていた。
彼とパートナーを組む同僚の教師、ミストの姿もある。
蒼竜テンペストは、ご立腹だ。
「母さんがいる時は来なかったの?」
『む。そういえばシルヴィーは、天空城サジタリウスを、人里から離れて飛行させていたのだ。地上から人が来ないのは道理か』
「じゃあ、そろそろ人里から遠ざけないと……ていうか、なんで天空城サジタリウスとリーブラは、帝国に接近してたんだ?」
リュンクスは竜の背中で首を傾げる。
その会話は、遠く離れたべフレートの竜の背にいるカノンも聞いていた。先ほどリュンクスが渡した腕輪による通信を、情報共有のため繋げっぱなしにしているのだ。
「吸血鬼達によると、嵐の魔女がさらわれてすぐ、天空城サジタリウスはリーブラに牽引され、移動を開始したそうだ」
カノンは、天空城サジタリウスを巡って情報を集めていた。
リュンクス達の会話に補足を入れる。
「人里に近付こうとしたのは、翼人達ってことか」
リュンクスは、ノクトとピスケスの会話を思い出した。
天空城リーブラの翼人達は、神力不足による食糧難に瀕しているという。人里に近付いたのは、食糧を得るためだろうか。
「雑談は後だ。あれを見ろ」
カノンに促され、リュンクスは天空城に接近する、空飛ぶ魔獣を見つめた。
それは、骨だけで構成された奇妙な竜だ。
光を吸い込むような、滑らかな頭蓋骨。眼のあった場所は虚ろなくぼみがあるばかり。皮膜のない顎には鋭い牙の列が並び、手足には尖った爪がある。
「ボーンドラゴン……」
「非常に珍しい、高位の魔獣だな。竜種ではなく、アンデッドの一種だが、陽光に耐性がある」
近付いてくる骨竜の背には、何人か魔術師の姿が見える。どうやら協力して結界を張っていたらしい。
その中で、一際目立つ漆黒のローブを羽織った男がいた。
自信と貫禄を漂わせた、軍服の男性だ。
年齢はセイエルと同程度なのだが、野望を秘めた目付きと、活動的な物腰で、若く見える。癖の無いダークブラウンの髪は一房、白が混じっていた。
「あれは帝国の……先輩の上司のガウリル!」
「何だと?」
向こうもリュンクス達に気付いたようだ。
目が合った。
「おや。ノクトから連絡が無いので、気になって来てみたら……奇遇だね、リュンクス君。これは一体どういうことかな?」
ガウリルは風に声を乗せ、リュンクス達に話しかけてきた。
「もしかしてノクトは、またサボりなのかな。風の魔術師の気まぐれには困ったものだ。出張先で、可愛い後輩と駆け落ちとは」
「ぶっ」
リュンクスは思わず噴いて、咳き込んでしまった。
確かに第三者から見れば、仕事をサボってお気に入りのサーヴァントと楽しんでいたように見えるかもしれない。あながち、全く間違いでもなかった。
「誤解を解いて真面目な話をすると、母さんの話になるし……先輩には悪いけど、このままにしておこうか」
「そうだな、それがいい」
こういった冗談に普段のらないカノンが、珍しく賛成してくれた。
駆け落ちという事にしても良かったのだが、本人がいないことは、すぐにガウリルにばれた。
「ノクトがいないね。一緒にいると思ったんだが」
リュンクスは、ぎくりと体をこわばらせる。
「リュンクス君、ノクトはどこだね?」
「……」
どう答えたものか、リュンクスは悩んだ。
「可愛がっている後輩を放って、ノクトは何をやっているのかな。君の口から説明してくれてもいいが、学生の報告はあてにならない」
骨竜は、無理やり押し通ろうと、前進を始めた。
「この目で現地を見てから、判断しよう。どきたまえ」
ガウリルは、天空城サジタリウスに上陸しようとしている。
「駄目だ……!」
リュンクスは焦った。
彼が天空城に入れば、母が隠し続けてきた真実、闇の国クリムゾンを滅ぼすと偽って吸血鬼や獣人を保護していることが、明らかになってしまう。
それどころか、嵐の魔女が不在と知れば、ガウリルは天空城を支配して好き勝手するかもしれない。
ここで止めなければ。
蒼竜とべフレートの竜は、ガウリルの行く手を遮るように飛ぶ。
骨竜は、先に進めず棘でできた翼を上下させた。
「どうして邪魔をするのかな。何か疚しい事でもあるのか?」
ガウリルは剣呑に目を細めた。
「いったい誰の指示で、私を止める?」
「それは……」
その時、強風が吹いて、リュンクス達とガウリルの間に、誰かが割り込んだ。
空よりも濃い青色の巨鳥が現れる。
「私の指示だ」
「セイエル?!」
青い鳥の背には、セイエルが乗っていた。
彼とパートナーを組む同僚の教師、ミストの姿もある。
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