山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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*四年前* 入学

07 悔しさをバネにして

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 ノクトの研究室で過ごした時間は、長いようで短かった。
 一回念入りに抱いただけで、彼はリュンクスを解放した。呆然とするリュンクスの肌を手早く清め、元通りローブを着せて、学生寮に送り返したのだ。
 リュンクスは魂が抜けたようになっていた。言われるままに自室に戻り、寝台に横になると、朝までぐっすり眠った。
 日も高くなった時間帯に、リュンクスは目覚めた。
 故郷では早朝に起きて水汲みに出ていたのに、今日は一刻以上の遅刻だ。
 だが体がだるく、何もしたくない気分だった。
 昨夜あった事を考えると無理もない。
 天井に描かれた蔦の模様を眺めながら、とりとめもなく思考を巡らせる。
 
「……そうだ。カノンの奴」
 
 同じ新入生のカノンは「俺は歓迎会に出ない」「歓迎会に出るなら気を付けて」と言っていた。
 カノンは歓迎会の裏を知っていたのだ。
 急にふつふつと憤りが胸に込み上げてきた。
 
「これ以上、後手に回ってたまるかよ」
 
 ベッドカバーが皺になるくらい握りしめ、悔しさをぶつける。
 見知らぬ美貌の先輩に犯され、リュンクスに沸き上がったのは、怒りだった。
 ノクトのやり口があまりにも鮮やかで、手慣れた手管は苦痛を呼び起こさなかった。それゆえにリュンクスは、ふつう強姦されたら感じる「二度とされたくない」「思い出したくもない」という気持ちにならなかった。ただし、あの快楽をもう一度味わいたい、という訳でもない。それよりも先に、リュンクスは自分の失態が許せなかった。
 俺は攻撃魔術も、同じ魔術師に襲われた時の対処も、ろくに知らない田舎者だった。入学試験に受かったと単純に浮かれていた。他の魔術師の家の子供と大きな差がある事も知らずに。隣村の魔女の婆の言うことは、爪の先くらい当たりだった。
 今からだって遅くない。
 情報収集し、魔術を勉強して、自分を守る力を身に付けるのだ。
 
「よっしっ!!!」
 
 勢いを付けて起き上がり、自分の頬を叩く。 
 窓の外の鳥達が、びっくりしたように、飛び立った。



 どうやら本格的な魔術の授業は、まだ先のようだ。
 長々とした説明に終始する教師の言葉を我慢して聞き続け、やっと昼休みになった。
 
「カノン! 聞きたいことがある」
 
 食堂に行く前に、カノンを呼び止める。
 隣にいたオナーが不思議そうにした。
 カノンは常に冷静な顔で、動揺というものを知らないような雰囲気の少年だった。今も突然呼び止められて、仰天する様子もなく、ゆっくりとリュンクスを振り返る。
 
「分かった。場所を変えよう」
 
 二人は中庭に移動した。
 大きな木の根元に腰かけると、カノンは一言二言、呪文を唱えて指を空中に走らせる。
 
「誰かが近付いたら、すぐに察知できる魔術だ」
「すごい。後で俺にも教えてくれ」
「それが本題か?」
 
 魔術の勉強がしたいと考えていたから、つい後先考えずカノンに頼んでしまった。カノンは少し呆れているようだ。
 リュンクスは咳払いした。
 
「いや……お前は知ってたんだよな。その……歓迎会が、サーヴァントの洗いだしをしているって」
「ああ」
 
 カノンは頷いた。

「もっと強く引き留めた方が良かっただろうかと、あの後、後悔した。リュンクス、君の魔力の流れが変わっている。もうサーヴァントにされてしまったんだな」
 
 魔力の流れとはどういう事だろう。本当に自分は魔術師としての知識が足りないなと思いながら、カノンの表情を観察する。
 あまり激しい抑揚の声ではなく、表情も平坦だが、本気でリュンクスに申し訳ないと思っているようだ。
 
「カノン、俺は親からサーヴァントが何なのか、塔がどういうところなのか、教わらなかった。だから、何に気を付ければいいのか、どうすれば魔術師としてここで安全に過ごせるのか、分からないんだ。教えてくれないか?」
 
 率直に頼むと、カノンは微妙に眉を上げて驚きを表した。
 
「君からそう言ってくるとは思わなかった。君は、学ぶ事に貪欲なんだな」
 
 こちらを見据える黄金の瞳に、かすかな賞賛がよぎった。
 
「リュンクス、俺と契約しないか?」
「契約?」
 
 そういえば教師が言っていた。

……マスター属性の魔術師と、サーヴァント属性の魔術師は、契約を交わして一緒に行動するんだ。お互いの長所短所を補いあって、二人で強力な魔術を行使できるからね。だからマスター属性の魔術師は、相性のいいサーヴァント属性の魔術師を探している……

 カノンは真剣な表情をしている。
 契約を持ちかけるということは、彼はマスター属性の魔術師なのか。
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