山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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*四年前* 入学

11 先輩の誘い

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 友達がいると学校生活は楽しくなる。二人の友人を得たリュンクスは、塔で過ごすことに慣れつつあった。
 オナーは庶民派で、リュンクスと価値観や感覚が合っている。彼は情報収集が趣味らしく、幅広い人脈を持っていた。食堂でアルバイトを募集していることを教えてくれたのもオナーだ。授業に慣れてきたら、稼ぎに行こうとリュンクスは考えていた。
 カノンは貴族らしく、礼儀にうるさく上等なものにこだわる。しかし、身分は気にしない主義らしく、リュンクス達とも対等に接してくれた。彼は実家でさまざまな魔術を既に習得しているらしく、リュンクスに魔術の基礎を教えてくれる。

 その日は薬草学の授業があった。
 学生は各テーブルに分かれ、それぞれ薬を煎じている。 
 父親が薬草を売る仕事をしていたため、薬草学はリュンクスにとって楽勝の授業である。誰よりも先に課題を終わらせて暇を持て余していた。

「そういえばカノンと一緒じゃないな。あいつはどこに行ったんだ?」

 ぼんやりしているリュンクスに気付いて、同じテーブルの同級生が話しかけてくる。

「親戚が用事で塔にきているから、今日は一日それに付き合うんだとさ」
 
 リュンクスに「寄り道はしないで寮に戻れ」と念押しして、カノンは出掛けていった。
 だから今日はリュンクスは一人だ。
 
「じゃあ今日は俺と寝てみるか? カノンばかりと一緒にいないで、たまには俺達と遊ぼうぜ」

 性的な誘いを堂々と掛けてくる同級生に、リュンクスは呆れた。
 しかし、ほんの数日で、この塔ではこういったオープンな会話が当たり前なのだと、慣れてきた。
 それにしても、誰が誰と交わったか、魔術師は見れば分かるというのだから、驚きだ。
 なんでも、マスター属性の魔術師は「魔眼」というものを有しており、魔力の流れを見ることで、事後かどうかも分かるらしい。

「余計なお世話だ。枕でも抱いてろ」
 
 冗談半分で誘いを掛けてくる同級生に、リュンクスはそっけなく応じる。
 ただ内心では少し苛立ちを感じていた。
 カノンと寝たのは、片手の指に満たない程度だ。彼はリュンクスの体を配慮し、紳士的な態度を崩さない。もっと乱暴に扱ってくれても良いのに、と思う。
 リュンクスはサーヴァントとしての性質で、主に従属したい気持ちが芽生え始めていた。しかし、自分の欲求の正体を、まだ正確に把握していない。
 不明瞭な気持ちのまま、薬草学の時間は終わった。

「リュンクス、ご飯食べに行こうよ!」
「ああ」

 オナーが昼食に誘ってくれる。
 二人で歩き始めたが、食堂に入る手前で、上級生が声を掛けてきた。

「やあ、リュンクス」
 
 リュンクスは足を止めた。止めざるをえなかった。
 
「……ノクト先輩」
 
 ついに来た、と身構える。
 陽光の下で対面したノクトは、あの夜と同じく綺麗な銀髪と涼やかな容姿をしていた。道行く学生が、ちらちらとノクトを見ている。オナーの情報どおり、彼は有名人らしい。
 
「久しぶりだね。昼御飯はまだだろう。私と一緒においで」
 
 魔力を乗せた声ではないが、穏やかな口調は有無を言わせない強さを滲ませている。リュンクスの緊張した様子に、オナーが「大丈夫?」と聞いてきた。
 いつか、こういう日が来ると思っていた。
 リュンクスは覚悟を決めると、笑みを浮かべた。
 
「オナー、先輩と食べてくるよ。先に行ってて」
「う、うん。また後でね、リュンクス!」
 
 オナーは手を振って去って行く。
 手招きするノクトの後を追って、リュンクスは食堂を歩き始めた。
 このことを知らせたらカノンはどういう反応をするだろうか、と考えながら。
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