山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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*四年前* 入学

12 挑発と交渉

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 警戒するリュンクスに配慮したのか、ノクトは食堂の他の学生達と同じように、見晴らしのよい丸テーブルの席についた。
 食事の載ったトレーを前に置き、緊張しているリュンクスに「ぼうっとしてないで食べたらどうだい? 昼休みは短いよ」と勧める。
 先に食事を済ませた後、ノクトは本題を切り出した。
 
「カノン・ブリストを味方に付けるとは、驚いたよ。新入生の中では、一番優秀な子だ。ブリストが見ている前では、さすがの私も手を出すのは迷ったよ。良いボディーガードを手に入れたね」

 開口一番、ノクトは、リュンクスの選択を褒めた。

「右も左も分からない仔猫ちゃんだと思っていたのに、もう爪を研いでいる。そういう賢い子、嫌いじゃないよ」
 
 リュンクスは、友人のカノンが誇らしいが、素直にノクトの称賛を受けるのも抵抗感があり、複雑な気持ちになった。
 
「少し試して、他の魔術師に譲るつもりだったんだけどね、気が変わった。リュンクス、君は確保しておくべきサーヴァントだ」
「……」
 
 この先輩は、障害が多いほど燃え上がるタイプだったらしい。
 評価が上がっているのは嬉しいが、標的にされるのは頂けないと、リュンクスはげんなりした。
 
「……それで、先輩は俺に何をしてくれるんですか」
「おや? 私と交渉するつもりなのかい」
「先輩の中で俺は価値のある人材なら、それなりに扱って下さいよ。俺は安くないですよ」
 
 挑発すると、ノクトは愉快そうに笑った。
 
「駄目だよ、リュンクス。交渉するつもりなら、具体的な希望を言わないと。だが君と話すのは面白い。たまには可愛い後輩の面倒をみるのも悪くないな」
 
 アイスブルーの瞳を細め、ノクトは少し思案する表情になる。
 
「……そうだ、次の休みは空いているかい? 私の研究室に招待しよう。授業のメモを書き込んだ参考書や、魔術の資料がたくさんある。好きな書物を貸してあげるよ」
「!!」
 
 リュンクスが希望を言う前に、ノクトの方から譲歩してきた。
 しかし、研究室とは。
 リュンクスの脳裏に、無理矢理、監禁され薬を盛られて強姦された記憶がよみがえる。
 
「研究室って、この前、俺を捕まえた……変なことしませんよね?」
「するよ」

 ノクトは意味深に笑った。

「するに決まっているだろう。私はマスターで、君はサーヴァントなんだから。興味ないかい? 自分が何をされるか」
「興味なんか」

 僅かにトーンを落とし、他の生徒に聞こえないように声をひそめながら、ノクトは妖しい笑みを浮かべささやいた。

「素直になっていいんだよ。そうしたら、もっと気持ち良いことをしてあげよう」
 
 彼の言葉はまるで麻薬のようで、リュンクスはくらくらした。
 言葉で体の裏側をするりと撫でられているようだ。
 仄暗い期待が胸の奥から沸き上がってくる。
 この先輩に犯されたい。
 汚されて、とことんまで堕ちてみたい。
 そんな欲望が触発されるようだった。
 黙りこんだリュンクスの表情から、何を考えているか察したらしい。
 
「ふふ、私の言葉に感じてるね。良い子だ」
 
 ノクトは満足そうに言って、手を伸ばして軽くリュンクスの頭を撫でた。
 されるがままになっていたリュンクスは、ハッと我に返る。
 これでは先輩の思う壺だ。
 
「では次の休みに一緒に遊ぼうね」
「約束してません! カノンが何て言うか分からないし!」
「彼に正面きって反対する気はないよ。独占したいなら、君にも言うはずだ。違うかい?」
 
 ぐうの音も出なかった。
 カノンは「先輩とも親交を深めたらどうか」とさえ言っていた。
 紳士的なカノンとの間の、適度過ぎる距離感が今は恨めしい。
 
「マスターとサーヴァントの間には恋愛関係が育つこともあるけど、君達もそうなのかな?」
「……考えたこともないです」
「そうか。では少し考えてみるといい。そろそろブリストも、君以外のサーヴァントに手を出す頃だ」
 
 学生時代に、多くの魔術師と人脈を築くことが大切だからね。
 そう言うノクトに、リュンクスは何と返したらいいか分からなくなった。
 カノンはリュンクス以外のサーヴァントも抱くかもしれない。そう思った時、彼と交わした接吻が脳裏をよぎった。上の空で唇をなぞりながら考える。カノンとは友達のつもりなのに、このモヤモヤは何だろうか。
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