山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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*四年前* 入学

15 仲直り

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 ことが終わって熱が冷めた後、ノクトは魔術書を出してきて、攻撃魔術の使い方について、レクチャーしてくれた。
 先輩として面倒を見てくれる気があるらしい。
 
「今日は楽しかったよ、リュンクス」
「前半はともかく、後半の魔術のご指導はありがとうございました」
 
 リュンクスは彼なりに素直に礼を述べた。
 
「君も前半は楽しんでいたと思うけど」
「たぶん楽しむの意味が違う……」
「ふふっ。それで、どうだった? 私とは仲良くやっていけそうかな?」
 
 ノクトは研究室を片付けて、部屋を出るように促しながら、聞いてきた。
 強姦から始まった関係を終わらせるか、続けるべきか、リュンクスが悩んでいたことを見透かしているようだ。
 
「私のサーヴァントになるかい?」
「先輩は、俺をサーヴァントにするつもりだと思ってましたが」
「一応そのつもりだけど、初回はともかく、嫌がっている相手を毎回手間暇かけて組み敷く気はないよ。面倒だし時間の無駄だ。君が嫌なら、接触は最低限にしよう」
 
 リュンクスが拒否すれば、ノクトはこれ以上、積極的に関わってくる気はないようだ。
 今日のような「遊び」も、リュンクスが断ればもう無い。
 それはそれで……寂しい気持ちがする。
 ノクトは、今までリュンクスが出会ったことのないタイプの人間だった。
 強引にことを進めてくると思えば、さっと引く。
 距離の取り方が絶妙だ。
 それに彼は魅力的だった。美貌にくわえ、実力派として有名な上級生。たとえ、とんでもない悪党だとしても、一本筋が通っているような、無視できない何かを感じる。
 リュンクスは既に、自分を強姦した相手として、ノクトのことを簡単に憎めなくなっていた。
 
「……分かりました。先輩のサーヴァントになります」
 
 少し黙考した後、出た結論は、自分でも予想外だった。
 何故だろう。ノクトとの関係をここで終わらせたくないと、そう感じたのだ。
 しかし、懸念は他にもある。
 
「あ、でもカノンと既に契約を結んでいて」
「大丈夫だよ。サーヴァントが複数のマスターに所有されるのは、よくあることだ。バッティングしないように調整するのはマスター側の仕事だよ」
 
 ノクトはそう言ったが、あの不機嫌そうにしていたカノンが、調整に応じるのだろうか。不安で仕方ない。
 それに喧嘩をしたような雰囲気で、今日は勝手に寮を出て来たのだ。
 カノンは怒っているだろうか。
 
「そんな不安そうな顔をしなくていい。ほら……見てご覧」
 
 ノクトが軽くリュンクスの背を押す。
 リュンクスは目を見張った。
 夕闇に沈む寮の建物の前。玄関の灯りの下に、カノンが立っている。
 彼は眉ねを寄せた固い表情で、リュンクスとノクトを待っていた。
 
「良い友達じゃないか。若いっていいねえ」
 
 ノクトは場違いなほど朗らかなコメントをした。
 一方のリュンクスは叱られる前の子供の気分だった。
 ただでさえ気まずいのに、ノクトと楽しい時間を過ごしてしまったから、なおさらだ。
 何も言わないカノンの前に、おずおずと歩み出る。
 
「カノン……あの」
 
 どう言えばいいか迷っている内に、手を伸ばしてきたカノンが、無言でリュンクスの手首を握った。
 熱い魔力の波動が伝わってくる。
 
「カノン・ブリスト」
 
 後ろから、ノクトが声を上げた。
 
「今日は悪かったね。次からは、君に一声掛けてから、リュンクスを借りるよ」
「……心遣い、ありがとうございます。先輩」
 
 カノンが硬質な響きの声で返答する。
 握られている手首を通じ、その瞬間、カノンが緊張を緩め安心したことに、リュンクスは気付いた。
 
 ノクトは「またね」と言って去っていく。
 リュンクスを真ん中にした二人のマスターのやり取りは、特に荒立つこともなく、平穏に終わった。
  
 リュンクスは手を引っ張られながら、必死に考え、理解する。
 ノクトは「リュンクスを借りる」と表現した。リュンクスがカノンの持ち物であると、後輩にマスターの権利を譲ったのだ。だからカノンは安心した。先輩との衝突を避けられて、なおかつリュンクスとの関係を邪魔されないと分かったからだ。
 
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