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*四年前* 入学
18 先輩に相談
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魔術師は何も手を加えないまっさらな状態では、マスターもサーヴァントもなく未分化な状態らしい。
リュンクスは、生来は両方の素質を持っていたが、ノクトの魔術によってサーヴァント属性に決定されてしまったのだ。
「ひどい……」
「そりゃあ君、何も知らない田舎から出てきた子は、良い鴨だよ。鍋にしてくれと言っているようなものさ」
ノクトは飄々とうそぶいた。
正式に主従関係を結んで以来、リュンクスは定期的に食堂で先輩とお昼ご飯を食べるようになっていた。
セイエル教室に内定したことを先輩に報告し、ついでに文句も言ったところ、糠に釘をさすような返事がかえってきたのだ。
「ふふっ、しかし、これで私達は正真正銘の兄弟弟子、セイエル教室の先輩後輩の関係な訳だ」
上機嫌で笑うノクト。
実は、この先輩はセイエル教室所属らしい。
カノンが教室選びで、複雑な表情をしていた理由が分かった。
「セイエル先生は真面目で潔白そうな人なのに、先輩みたいな生徒がいるのが納得いかない……」
「それよりも、カノン・ブリストと上手くいっているのかい? せっかく私が譲ってあげたんだから、喧嘩をしてはいけないよ」
この先輩は悪党だが、後輩への配慮は申し分なかった。
勉強や魔術だけでなく人間関係についてまで、相談すれば何でも答えてくれる。
リュンクスは話すか迷ったが、結局、誰かにこぼしたい気持ちを抑えきれず、口を割った。
「……カノンが、同級生のシラユキって子を狙ってるんですよ」
「ほう? ああ、東洋から来たという、白い髪に赤い瞳の子だね」
ノクトは、目立つ下級生の情報を頭に入れているらしい。
うんうんと頷いた。
シラユキは東の島国の血を引くという少年で、その白髪と赤瞳、要はアルビノなのだが、魔術師が集まる塔でも珍しい見た目で注意を引いている。
例の歓迎会で、彼もサーヴァントの素質があると分かったそうだが、リュンクスより更に血気盛んなシラユキは、故郷から持参した小刀で襲撃した上級生を返り討ちにしてしまった。
手付かずで残っているシラユキを、マスター属性の魔術師たちは、興味津々で観察している最中だ。
「同級生の俺なら、そう警戒されないだろう」
カノンは冷たい瞳で、淡々とリュンクスに語った。
「彼は狙い目だ。今の内に堕としておきたい」
そんなことを自分に打ち明けられても、とリュンクスは困惑している。
話を聞いたノクトは、腹を抱えて大笑いだ。
「ははは。ブリストも頑張ってるねえ」
「笑い事じゃないですよ。あー、苛々する!」
リュンクスは、フォークで行儀悪くトマトを切り刻んだ。
カノンが複数のサーヴァントと関係を持つのは、仕方ないと割りきっている。だが感情は別で、リュンクスは複雑な気持ちを持てあましていた。
「君とカノン・ブリストの関係は、初々しくて実に微笑ましい。そういう面白い話はもっとしてくれていいんだよ」
「先輩!」
「ブリストが構ってくれない間は、私のところに来ればいいじゃないか。可愛がってあげるよ」
ノクトは嘘くさい笑顔で勧誘する。
下手に付いていったら、弄《もてあそ》ばれそうだな、とリュンクスは思った。
話題を変える。
「……先輩はシラユキに興味ないんですか?」
シラユキは、魔力も強く、魔術の使い方も上手い。
カノンが狙うのも分かる気がするのだが。
「私ならシラユキはキープしないね」
ノクトは優雅にカップを持ち上げて茶を飲んだ。
「シラユキは直情的で頭の固い子だ。将来伸びるのは、リュンクス、君の方だと思うよ。何事も素直に柔軟に受け入れる子は、大成するからね」
思わぬ高評価を受け、意表を突かれてリュンクスは黙りこんだ。
ノクトは手を伸ばして、リュンクスの喉元を軽くくすぐってくる。
「リュンクス、つらくなったら、私のところに来なさい。けして悪いようにはしないから」
その声は予想外の優しい響きを含んでいて、身構えていたリュンクスの心をさざ波のように揺らした。
リュンクスは、生来は両方の素質を持っていたが、ノクトの魔術によってサーヴァント属性に決定されてしまったのだ。
「ひどい……」
「そりゃあ君、何も知らない田舎から出てきた子は、良い鴨だよ。鍋にしてくれと言っているようなものさ」
ノクトは飄々とうそぶいた。
正式に主従関係を結んで以来、リュンクスは定期的に食堂で先輩とお昼ご飯を食べるようになっていた。
セイエル教室に内定したことを先輩に報告し、ついでに文句も言ったところ、糠に釘をさすような返事がかえってきたのだ。
「ふふっ、しかし、これで私達は正真正銘の兄弟弟子、セイエル教室の先輩後輩の関係な訳だ」
上機嫌で笑うノクト。
実は、この先輩はセイエル教室所属らしい。
カノンが教室選びで、複雑な表情をしていた理由が分かった。
「セイエル先生は真面目で潔白そうな人なのに、先輩みたいな生徒がいるのが納得いかない……」
「それよりも、カノン・ブリストと上手くいっているのかい? せっかく私が譲ってあげたんだから、喧嘩をしてはいけないよ」
この先輩は悪党だが、後輩への配慮は申し分なかった。
勉強や魔術だけでなく人間関係についてまで、相談すれば何でも答えてくれる。
リュンクスは話すか迷ったが、結局、誰かにこぼしたい気持ちを抑えきれず、口を割った。
「……カノンが、同級生のシラユキって子を狙ってるんですよ」
「ほう? ああ、東洋から来たという、白い髪に赤い瞳の子だね」
ノクトは、目立つ下級生の情報を頭に入れているらしい。
うんうんと頷いた。
シラユキは東の島国の血を引くという少年で、その白髪と赤瞳、要はアルビノなのだが、魔術師が集まる塔でも珍しい見た目で注意を引いている。
例の歓迎会で、彼もサーヴァントの素質があると分かったそうだが、リュンクスより更に血気盛んなシラユキは、故郷から持参した小刀で襲撃した上級生を返り討ちにしてしまった。
手付かずで残っているシラユキを、マスター属性の魔術師たちは、興味津々で観察している最中だ。
「同級生の俺なら、そう警戒されないだろう」
カノンは冷たい瞳で、淡々とリュンクスに語った。
「彼は狙い目だ。今の内に堕としておきたい」
そんなことを自分に打ち明けられても、とリュンクスは困惑している。
話を聞いたノクトは、腹を抱えて大笑いだ。
「ははは。ブリストも頑張ってるねえ」
「笑い事じゃないですよ。あー、苛々する!」
リュンクスは、フォークで行儀悪くトマトを切り刻んだ。
カノンが複数のサーヴァントと関係を持つのは、仕方ないと割りきっている。だが感情は別で、リュンクスは複雑な気持ちを持てあましていた。
「君とカノン・ブリストの関係は、初々しくて実に微笑ましい。そういう面白い話はもっとしてくれていいんだよ」
「先輩!」
「ブリストが構ってくれない間は、私のところに来ればいいじゃないか。可愛がってあげるよ」
ノクトは嘘くさい笑顔で勧誘する。
下手に付いていったら、弄《もてあそ》ばれそうだな、とリュンクスは思った。
話題を変える。
「……先輩はシラユキに興味ないんですか?」
シラユキは、魔力も強く、魔術の使い方も上手い。
カノンが狙うのも分かる気がするのだが。
「私ならシラユキはキープしないね」
ノクトは優雅にカップを持ち上げて茶を飲んだ。
「シラユキは直情的で頭の固い子だ。将来伸びるのは、リュンクス、君の方だと思うよ。何事も素直に柔軟に受け入れる子は、大成するからね」
思わぬ高評価を受け、意表を突かれてリュンクスは黙りこんだ。
ノクトは手を伸ばして、リュンクスの喉元を軽くくすぐってくる。
「リュンクス、つらくなったら、私のところに来なさい。けして悪いようにはしないから」
その声は予想外の優しい響きを含んでいて、身構えていたリュンクスの心をさざ波のように揺らした。
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