山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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*四年前* 入学

17 教室選び

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 塔に入って数か月が過ぎた。
 一年生は皆で同じ授業を受け、基礎を学ぶ。だが、塔に入って数ヶ月後から、だんだん専門の講義を選択できるようになる。
 専門の講義は、それ専門の教師が教える。例えば、生物学はヒュンケル先生。呪文学は、シルフィール先生。攻撃魔術学は、セイエル先生。
 二年生になるまでに、生徒達は専門学の講義を通じて、自分が師事する教師を選び、教室を決める。
 
「俺は、薬草学が良いなぁ」
 
 父親が薬師だったし、やりやすいだろうと考えていたところ、カノンに却下された。
 
「駄目だ」
「なんで?!」
「リュンクスは、俺と一緒の教室に入れ」
 
 命令だった。
 カノンは、基本的に命令しない主義だったが、この教室決めだけは、がんとして譲らなかった。
 リュンクスは少し腹がたったが、一応、カノンの言い分も聞かなければと思う。
 
「カノンは、どこの教室希望なのさ」
「俺は、貴石級三位、青色玉《サファイア》のセイエル先生一択だ」
「攻撃魔術が学びたいの?」
「違う。リュンクス、教室えらびは、将来に直結する。出来るだけ、位階の高い先生に師事した方が有利なんだ」
 
 そう言われても、リュンクスはピンと来ない。
 カノンは溜め息を吐きながら、ゆっくり説明した。
 
「リュンクス、俺の実家は、代々アウレルムの宮廷魔術師を輩出すると知っているな」
「うん。有名だよね」
「俺も当然、期待を掛けられていた。父は、アウレルム国内で有名な魔術師のもとに俺を送り込もうとしたが、俺は塔で他国の魔術を知りたかったから、父を説得して家を出た。塔で絶対に、貴石級を取得してくると言ってな」
「わぁ」
 
 父親に見栄を張って、貴石級を取ると宣言するカノンの姿が、目に見えるようだ。
 
「貴石級を取得したいなら、セイエル先生に師事するのが、近道だ。セイエル先生の弟子は、過半数が貴石級取得者だからな」
 
 ここまで説明されて、ようやくリュンクスはカノンの理由が呑み込めた。それに自分が引っ張られるのは、納得出来ないけれど。
 
「……ひとつだけ。セイエル先生を選びたくない理由があるが」
「?」
「仕方ない。大事の前の些事だ。我慢せねば……リュンクス、セイエル先生の試験は、火の魔術だそうだ。特訓するぞ」
「えぇぇぇぇ」
 
 心の準備が足りない、と拒否するリュンクスを、カノンは半ば強引に共連れで試験を受けさせた。
 セイエル教室に所属するための試験は、魔術で蝋燭の灯りを操作するという、地味だがテクニックの要るものだった。
 
「蝋燭の灯を、二倍の明るさにしてごらん」

 セイエルは、鷹のような厳しい面差しをした壮年の男だ。
 ダークブラウンの髪は魔術師にしては短く襟足でまとめ、深海色の瞳は叡智が宿っているよう。笑顔を知らないような硬質な雰囲気で、肝の座った者でなければ、正面に立って愛想笑いも出来ないだろう。
 リュンクスも、セイエルの視線にさらされ、怯えていた。
 指示どおり蝋燭の火を操作したが、焦って火を消しそうになる。
 
「うぁっ!」
「落ち着きなさい」
  
 どっしりとした声で諭《さと》され、リュンクスは教師を見返す。
 セイエルは静謐な表情をしていて、怒っていないようだった。
 リュンクスは少し落ち着き、せっかくなので、この塔の賢者と呼ばれる偉大な先生に、自分の魔術を見てもらう良い機会だと開き直る。

「君のベストを尽くしなさい。一年生に完璧を求めていない」
「はい」
 
 蝋燭の火に、全力で集中する。
 セイエルは何とか二倍の明るさに戻して状態を維持しているリュンクスを観察した。
 
「君の属性はサーヴァントだね?」
「は、はい」
「それにしては制御が綺麗だ。おそらく元々マスター適性もあったのだろうな。珍しいが例が無い訳ではない。優秀な魔術師は、マスターとサーヴァント両方の資質を持つものだ」

 合格。とセイエルは言って、ぽかんとするリュンクスを部屋から追い出した。
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