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番外編(~ノクト卒業まで)
仔猫と相棒 ②
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来週の講義は、どうしようか。
ペアを組むマスター属性の魔術師を探せ、ということだったが。
寮に戻ったリュンクスは、一人の友人を思い浮かべた。
「カノン、だよな。やっぱり」
リュンクスのマスターである、同級生のカノン。
黄金の髪と瞳、威風堂々とした雰囲気の彼は、リュンクス達一年生のリーダー的な存在になりつつある。
問題は、彼が人気者過ぎるということだ。
「シラユキもいるし……」
カノンには、他のサーヴァントもいる。
いろんなサーヴァントから、組んでくれと言われるだろう。
「でも、他に、あてなんかない」
今から他のマスターを探すのは無理だ。リュンクスは、カノンと契約した時に交わした熱を思い出し、布団をぎゅっと抱え込む。
あんな恥ずかしいことを、カノン以外の人間に許すのは、考えられなかった。
魔術師は、複数の相手と交わることも、平気で行う。
リュンクスは、そこまで思い切れない。厳密に言えば、既にもう一人、交わっているマスターがいるのだが……銀髪の幻影が、脳裏をよぎる。あの先輩は綺麗過ぎて、淫猥な交わりも、なんだか魔術を掛けられているようだった。現実感に乏しいノクトとの性交を思い浮かべ、リュンクスはぼうっと天井を見上げた。
「明日の放課後、研究室だっけ」
先輩とは、定期的に昼食を共にしたり、研究室に呼ばれたりしている。
悩んでいる間に、睡魔に負け、リュンクスはカノンに声を掛けるか決められないまま眠ってしまった。
翌朝、教室に入ると、カノンはサーヴァント属性の生徒達に取り囲まれていた。
「昨日のサーヴァント向け講義で」
さっそくペアを組んで欲しいと頼まれているようだ。
カノンはいつも通り動揺を見せず、冷静に同級生の訴えに耳を傾けている。
しかし、リュンクスが離れた席に座ると、視線だけこちらに向け、焦った顔を見せた。
「リュンクス」
同級生達と会話した後、ゆったりとした足取りで、リュンクスの座った席まで歩いてくる。カノンがどう答えたか、リュンクスは耳をふさいで聞いていなかった。
「俺に、頼みたいことはないか」
「……ない」
への字口で答えると、カノンは困った表情になった。
軽く溜め息を吐き、リュンクスの斜め後ろに座る。その左右に、シラユキや他の取り巻きの同級生が座った。
「良いの?」
友人のオナーが、耳打ちしてくる。
リュンクスは失敗したと思いながら「良いんだよ」と答えた。
本当は、良くないのだけれど。
カノンのじっとりした視線から逃げるように、教室を出た。
階段を登って、先輩の研究室に逃げ込むことにする。
ところが、研究室は鍵が掛かっていた。
「あれ?」
今日は、約束の日ではなかったか。
「……ああ、リュンクス。先に来ていたのかい」
約束の相手、五年生のノクト・クラブスが階段を降りて、こちらに歩いてくる。どうやら訪問のタイミングが悪かったらしい。
ノクトは、青みがかった長い銀髪とアイスブルーの瞳が特徴の、涼やかな雰囲気の青年だ。
教師と同じ漆黒のローブは、彼が貴石級という上級魔術師の資格を持っていることの証明だった。この先輩は実力派として有名で、彼の研究室周りをうろつく勇者は、リュンクスくらいである。
「待ってね、すぐ開けるから」
しかし、ドアを開けると、凄まじい悲鳴が響き渡り、リュンクスはぎょっとして立ちすくんだ。
「ああ。マンドラゴラを預かっていたのを、忘れてたよ……凍れ」
後半は、ノクトの呪文。
研究室の床の上で、悲鳴を上げてのたうち回っていた生物は、文字通り凍りついて動きを止めた。
リュンクスは、恐る恐る、部屋に入って、それをのぞきこむ。
植物を根っこから引き抜いて、無造作に床に転がしている。ただし、その根っこは人間の赤ん坊のような形をしていて、まるまると太っていた。
「これ……」
「マンドラゴラ。植物の魔物の一種だね。同級生が課題で収穫したのだけど、余ったから私に押し付けたんだ。薬の素材に使えるらしいけど、私は薬剤調合に興味なくてね」
魔物、という言葉を裏付けるように、マンドラゴラは、先日見た鳥籠に巻かれていた、呪印入り包帯にくるまれていた。
ただし、呪印入り包帯は、ところどころ千切れていた。そのせいで、マンドラゴラは封印が解けかけて暴れていたようだ。
ノクトは綺麗な笑顔を浮かべ、言った。
「興味あるかい? あげるよ」
「は?」
「大丈夫、大丈夫。さっきの氷の魔術で死んだから、サーヴァントの君に被害を及ぼすこともない。煮込んでシチューにするなり、鶏肉と一緒に串に刺して焼くなり、好きにするといい」
「そういう料理方法があるの……?」
一見、親切な申し出だが、実質は面倒なゴミ処理を後輩に押し付けただけだった。リュンクスは仕方なく、マンドラゴラを床から拾い上げる。動き出して、鳴いたりしないか、ドキドキしながら。
なんだか畑に植わった野菜、ダイコンかカブを引き抜いた時みたいだ。重さと手に持った感触が、そっくりだった。
その時、研究室の扉が軽くノックされる。
「失礼する」
「!」
扉越しに響いたのは、カノンの声だった。
ペアを組むマスター属性の魔術師を探せ、ということだったが。
寮に戻ったリュンクスは、一人の友人を思い浮かべた。
「カノン、だよな。やっぱり」
リュンクスのマスターである、同級生のカノン。
黄金の髪と瞳、威風堂々とした雰囲気の彼は、リュンクス達一年生のリーダー的な存在になりつつある。
問題は、彼が人気者過ぎるということだ。
「シラユキもいるし……」
カノンには、他のサーヴァントもいる。
いろんなサーヴァントから、組んでくれと言われるだろう。
「でも、他に、あてなんかない」
今から他のマスターを探すのは無理だ。リュンクスは、カノンと契約した時に交わした熱を思い出し、布団をぎゅっと抱え込む。
あんな恥ずかしいことを、カノン以外の人間に許すのは、考えられなかった。
魔術師は、複数の相手と交わることも、平気で行う。
リュンクスは、そこまで思い切れない。厳密に言えば、既にもう一人、交わっているマスターがいるのだが……銀髪の幻影が、脳裏をよぎる。あの先輩は綺麗過ぎて、淫猥な交わりも、なんだか魔術を掛けられているようだった。現実感に乏しいノクトとの性交を思い浮かべ、リュンクスはぼうっと天井を見上げた。
「明日の放課後、研究室だっけ」
先輩とは、定期的に昼食を共にしたり、研究室に呼ばれたりしている。
悩んでいる間に、睡魔に負け、リュンクスはカノンに声を掛けるか決められないまま眠ってしまった。
翌朝、教室に入ると、カノンはサーヴァント属性の生徒達に取り囲まれていた。
「昨日のサーヴァント向け講義で」
さっそくペアを組んで欲しいと頼まれているようだ。
カノンはいつも通り動揺を見せず、冷静に同級生の訴えに耳を傾けている。
しかし、リュンクスが離れた席に座ると、視線だけこちらに向け、焦った顔を見せた。
「リュンクス」
同級生達と会話した後、ゆったりとした足取りで、リュンクスの座った席まで歩いてくる。カノンがどう答えたか、リュンクスは耳をふさいで聞いていなかった。
「俺に、頼みたいことはないか」
「……ない」
への字口で答えると、カノンは困った表情になった。
軽く溜め息を吐き、リュンクスの斜め後ろに座る。その左右に、シラユキや他の取り巻きの同級生が座った。
「良いの?」
友人のオナーが、耳打ちしてくる。
リュンクスは失敗したと思いながら「良いんだよ」と答えた。
本当は、良くないのだけれど。
カノンのじっとりした視線から逃げるように、教室を出た。
階段を登って、先輩の研究室に逃げ込むことにする。
ところが、研究室は鍵が掛かっていた。
「あれ?」
今日は、約束の日ではなかったか。
「……ああ、リュンクス。先に来ていたのかい」
約束の相手、五年生のノクト・クラブスが階段を降りて、こちらに歩いてくる。どうやら訪問のタイミングが悪かったらしい。
ノクトは、青みがかった長い銀髪とアイスブルーの瞳が特徴の、涼やかな雰囲気の青年だ。
教師と同じ漆黒のローブは、彼が貴石級という上級魔術師の資格を持っていることの証明だった。この先輩は実力派として有名で、彼の研究室周りをうろつく勇者は、リュンクスくらいである。
「待ってね、すぐ開けるから」
しかし、ドアを開けると、凄まじい悲鳴が響き渡り、リュンクスはぎょっとして立ちすくんだ。
「ああ。マンドラゴラを預かっていたのを、忘れてたよ……凍れ」
後半は、ノクトの呪文。
研究室の床の上で、悲鳴を上げてのたうち回っていた生物は、文字通り凍りついて動きを止めた。
リュンクスは、恐る恐る、部屋に入って、それをのぞきこむ。
植物を根っこから引き抜いて、無造作に床に転がしている。ただし、その根っこは人間の赤ん坊のような形をしていて、まるまると太っていた。
「これ……」
「マンドラゴラ。植物の魔物の一種だね。同級生が課題で収穫したのだけど、余ったから私に押し付けたんだ。薬の素材に使えるらしいけど、私は薬剤調合に興味なくてね」
魔物、という言葉を裏付けるように、マンドラゴラは、先日見た鳥籠に巻かれていた、呪印入り包帯にくるまれていた。
ただし、呪印入り包帯は、ところどころ千切れていた。そのせいで、マンドラゴラは封印が解けかけて暴れていたようだ。
ノクトは綺麗な笑顔を浮かべ、言った。
「興味あるかい? あげるよ」
「は?」
「大丈夫、大丈夫。さっきの氷の魔術で死んだから、サーヴァントの君に被害を及ぼすこともない。煮込んでシチューにするなり、鶏肉と一緒に串に刺して焼くなり、好きにするといい」
「そういう料理方法があるの……?」
一見、親切な申し出だが、実質は面倒なゴミ処理を後輩に押し付けただけだった。リュンクスは仕方なく、マンドラゴラを床から拾い上げる。動き出して、鳴いたりしないか、ドキドキしながら。
なんだか畑に植わった野菜、ダイコンかカブを引き抜いた時みたいだ。重さと手に持った感触が、そっくりだった。
その時、研究室の扉が軽くノックされる。
「失礼する」
「!」
扉越しに響いたのは、カノンの声だった。
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