71 / 266
*三年前* その背中を追いかけて
58 和解
しおりを挟む
今晩は、カノンは帰って来ないかもしれない。
魔力が回復したばかりシラユキの付き添いで、カノンは彼の部屋に行ったきり、まだ戻って来なかった。
リュンクスは寝台に仰向けで、天井を眺めた。
部屋を連結してから毎日、夜はカノンと顔を合わせていた。当たり前のように側にいる日々。だが、カノンは他のサーヴァントのもとへ行ってしまった。
「シラユキは病み上がりなんだ。俺が遠慮しないと」
寂しい。
リュンクスはぎゅっと枕を抱えて溜め息を吐いた。
こんな気持ちになると知らなかった。部屋を連結しなければ、帰って来ないカノンにやきもきしなくて済んだのに。
うとうと微睡んでいると、扉の開く音がした。
「ただいま……まだ寝ていなかったのか」
「カノン?!」
リュンクスは飛び起きた。
「今日は帰って来ないかと思ってた。シラユキと一緒にいてあげなくていいの?」
「君の気にする事じゃない」
カノンはローブを脱いで椅子に掛けた。
寝台に歩み寄ると、リュンクスを見下ろすように腰掛ける。
「それよりも……シラユキよりずっと頻繁に抱いてるのに、君の方が俺の指示に従わないのは、何故だろうな」
リュンクスはぎくりと体をこわばらせた。
先走って魔獣の庭に行った事自体は、カノンは大して問題にしていないようだ。それよりもマスターとして、サーヴァントが指示に従わないのを気にしているらしい。
「えーと、あー、具体的に止められてなかったから?」
「賢い君なら遠回しでも、一人で魔獣の庭に行くな、と俺が命じたと理解したはずだが」
「……」
「よく分かった。支配が足りてないんだな」
慌てて身を起こそうとするリュンクスを、カノンは腕を伸ばして寝台に縫いとめた。
「足りてる、足りてるよご主人様! そういえば、カノンは剣を使えるんだ? 格好良かったなあ!」
「あの剣は、杖の代わりになる物だ。ブリスト家では、護身も兼ねて持たされている。話を逸らそうとしても無駄だ」
「んっ」
キスで言葉を封じられて、リュンクスは呻いた。
普通のサーヴァントは、マスターの機嫌を損なう事を恐れる。支配を受けると快感を覚え、逆らえば不安になるものだ。
しかしリュンクスは、もともとマスター適性も持っていたため、マスターの機嫌を伺うという発想に欠けていた。
「じっくり躾けないとな……」
カノンの呟きに、リュンクスは恐れおののいた。
翌日、授業の合間を見計らって、シラユキが声を掛けてきた。
「カノンに聞きました。あなたは裏切った振りをして、私のために危険な調査をしていたのだと。大変申し訳なく……リュンクス?」
「だるくて仕方ないよー。早く放課後にならないかなー」
リュンクスは机の上に伸びていた。
昨夜のカノンの「躾」で腰が痛い。
その自由な猫のような動作に、シラユキは戸惑っている様子だ。
「よくオルフェに捕まらなかったですね」
「俺はサーヴァントらしくないんだって」
二人で話していると、他の同級生たちが近寄ってきた。
ノクトとの旅から帰ってきて以来、疎遠になっていた、カノンの友人や取り巻き達だ。
「カノンの奴、お前が自分のサーヴァントだって説明して回ってるぜ。それにしても単身オルフェに殴り込みを掛けるとか、信じられない度胸だな」
「リュンクスはすごい。上級生と対等にやりあうなんて」
事の真相を知った同級生達は興奮している。
リュンクスは裏切り者から一転、ヒーローのように喝采を浴びた。
その後の授業でも、同級生から頭ひとつ飛び出た技術を見せつけ、「すごい奴」という評価が定着してしまった。
「不思議だ。旅に出る前よりも、授業の内容が頭に入る……」
旅に出るまで、何のために勉強しているか分からなくて聞き流している授業もあった。しかし、ノクトが実際の仕事でどのように使うか旅の間に見せてくれたので、授業の背景が理解できるようになった。全体が見えると、勉強が一気に面白くなる。
三年生になる頃には、リュンクスはカノンと共に同年代で最優秀の学生の一人として、名前が挙がるまでになっていた。
魔力が回復したばかりシラユキの付き添いで、カノンは彼の部屋に行ったきり、まだ戻って来なかった。
リュンクスは寝台に仰向けで、天井を眺めた。
部屋を連結してから毎日、夜はカノンと顔を合わせていた。当たり前のように側にいる日々。だが、カノンは他のサーヴァントのもとへ行ってしまった。
「シラユキは病み上がりなんだ。俺が遠慮しないと」
寂しい。
リュンクスはぎゅっと枕を抱えて溜め息を吐いた。
こんな気持ちになると知らなかった。部屋を連結しなければ、帰って来ないカノンにやきもきしなくて済んだのに。
うとうと微睡んでいると、扉の開く音がした。
「ただいま……まだ寝ていなかったのか」
「カノン?!」
リュンクスは飛び起きた。
「今日は帰って来ないかと思ってた。シラユキと一緒にいてあげなくていいの?」
「君の気にする事じゃない」
カノンはローブを脱いで椅子に掛けた。
寝台に歩み寄ると、リュンクスを見下ろすように腰掛ける。
「それよりも……シラユキよりずっと頻繁に抱いてるのに、君の方が俺の指示に従わないのは、何故だろうな」
リュンクスはぎくりと体をこわばらせた。
先走って魔獣の庭に行った事自体は、カノンは大して問題にしていないようだ。それよりもマスターとして、サーヴァントが指示に従わないのを気にしているらしい。
「えーと、あー、具体的に止められてなかったから?」
「賢い君なら遠回しでも、一人で魔獣の庭に行くな、と俺が命じたと理解したはずだが」
「……」
「よく分かった。支配が足りてないんだな」
慌てて身を起こそうとするリュンクスを、カノンは腕を伸ばして寝台に縫いとめた。
「足りてる、足りてるよご主人様! そういえば、カノンは剣を使えるんだ? 格好良かったなあ!」
「あの剣は、杖の代わりになる物だ。ブリスト家では、護身も兼ねて持たされている。話を逸らそうとしても無駄だ」
「んっ」
キスで言葉を封じられて、リュンクスは呻いた。
普通のサーヴァントは、マスターの機嫌を損なう事を恐れる。支配を受けると快感を覚え、逆らえば不安になるものだ。
しかしリュンクスは、もともとマスター適性も持っていたため、マスターの機嫌を伺うという発想に欠けていた。
「じっくり躾けないとな……」
カノンの呟きに、リュンクスは恐れおののいた。
翌日、授業の合間を見計らって、シラユキが声を掛けてきた。
「カノンに聞きました。あなたは裏切った振りをして、私のために危険な調査をしていたのだと。大変申し訳なく……リュンクス?」
「だるくて仕方ないよー。早く放課後にならないかなー」
リュンクスは机の上に伸びていた。
昨夜のカノンの「躾」で腰が痛い。
その自由な猫のような動作に、シラユキは戸惑っている様子だ。
「よくオルフェに捕まらなかったですね」
「俺はサーヴァントらしくないんだって」
二人で話していると、他の同級生たちが近寄ってきた。
ノクトとの旅から帰ってきて以来、疎遠になっていた、カノンの友人や取り巻き達だ。
「カノンの奴、お前が自分のサーヴァントだって説明して回ってるぜ。それにしても単身オルフェに殴り込みを掛けるとか、信じられない度胸だな」
「リュンクスはすごい。上級生と対等にやりあうなんて」
事の真相を知った同級生達は興奮している。
リュンクスは裏切り者から一転、ヒーローのように喝采を浴びた。
その後の授業でも、同級生から頭ひとつ飛び出た技術を見せつけ、「すごい奴」という評価が定着してしまった。
「不思議だ。旅に出る前よりも、授業の内容が頭に入る……」
旅に出るまで、何のために勉強しているか分からなくて聞き流している授業もあった。しかし、ノクトが実際の仕事でどのように使うか旅の間に見せてくれたので、授業の背景が理解できるようになった。全体が見えると、勉強が一気に面白くなる。
三年生になる頃には、リュンクスはカノンと共に同年代で最優秀の学生の一人として、名前が挙がるまでになっていた。
41
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
【完結】最初で最後の恋をしましょう
関鷹親
BL
家族に搾取され続けたフェリチアーノはある日、搾取される事に疲れはて、ついに家族を捨てる決意をする。
そんな中訪れた夜会で、第四王子であるテオドールに出会い意気投合。
恋愛を知らない二人は、利害の一致から期間限定で恋人同士のふりをすることに。
交流をしていく中で、二人は本当の恋に落ちていく。
《ワンコ系王子×幸薄美人》
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる