山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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*三年前* その背中を追いかけて

58 和解

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 今晩は、カノンは帰って来ないかもしれない。
 魔力が回復したばかりシラユキの付き添いで、カノンは彼の部屋に行ったきり、まだ戻って来なかった。
 リュンクスは寝台に仰向けで、天井を眺めた。
 部屋を連結してから毎日、夜はカノンと顔を合わせていた。当たり前のように側にいる日々。だが、カノンは他のサーヴァントのもとへ行ってしまった。
 
「シラユキは病み上がりなんだ。俺が遠慮しないと」
 
 寂しい。
 リュンクスはぎゅっと枕を抱えて溜め息を吐いた。
 こんな気持ちになると知らなかった。部屋を連結しなければ、帰って来ないカノンにやきもきしなくて済んだのに。
 うとうと微睡んでいると、扉の開く音がした。
 
「ただいま……まだ寝ていなかったのか」
「カノン?!」
 
 リュンクスは飛び起きた。

「今日は帰って来ないかと思ってた。シラユキと一緒にいてあげなくていいの?」
「君の気にする事じゃない」
 
 カノンはローブを脱いで椅子に掛けた。
 寝台に歩み寄ると、リュンクスを見下ろすように腰掛ける。
 
「それよりも……シラユキよりずっと頻繁に抱いてるのに、君の方が俺の指示に従わないのは、何故だろうな」
 
 リュンクスはぎくりと体をこわばらせた。
 先走って魔獣の庭に行った事自体は、カノンは大して問題にしていないようだ。それよりもマスターとして、サーヴァントが指示に従わないのを気にしているらしい。
 
「えーと、あー、具体的に止められてなかったから?」
「賢い君なら遠回しでも、一人で魔獣の庭に行くな、と俺が命じたと理解したはずだが」
「……」
「よく分かった。支配が足りてないんだな」

 慌てて身を起こそうとするリュンクスを、カノンは腕を伸ばして寝台に縫いとめた。
 
「足りてる、足りてるよご主人様! そういえば、カノンは剣を使えるんだ? 格好良かったなあ!」
「あの剣は、杖の代わりになる物だ。ブリスト家では、護身も兼ねて持たされている。話を逸らそうとしても無駄だ」
「んっ」 
 
 キスで言葉を封じられて、リュンクスは呻いた。
 普通のサーヴァントは、マスターの機嫌を損なう事を恐れる。支配を受けると快感を覚え、逆らえば不安になるものだ。
 しかしリュンクスは、もともとマスター適性も持っていたため、マスターの機嫌を伺うという発想に欠けていた。
 
「じっくり躾けないとな……」
 
 カノンの呟きに、リュンクスは恐れおののいた。




 翌日、授業の合間を見計らって、シラユキが声を掛けてきた。
 
「カノンに聞きました。あなたは裏切った振りをして、私のために危険な調査をしていたのだと。大変申し訳なく……リュンクス?」
「だるくて仕方ないよー。早く放課後にならないかなー」
 
 リュンクスは机の上に伸びていた。
 昨夜のカノンの「しつけ」で腰が痛い。
 その自由な猫のような動作に、シラユキは戸惑っている様子だ。
 
「よくオルフェに捕まらなかったですね」
「俺はサーヴァントらしくないんだって」
 
 二人で話していると、他の同級生たちが近寄ってきた。
 ノクトとの旅から帰ってきて以来、疎遠になっていた、カノンの友人や取り巻き達だ。
 
「カノンの奴、お前が自分のサーヴァントだって説明して回ってるぜ。それにしても単身オルフェに殴り込みを掛けるとか、信じられない度胸だな」
「リュンクスはすごい。上級生と対等にやりあうなんて」
 
 事の真相を知った同級生達は興奮している。
 リュンクスは裏切り者から一転、ヒーローのように喝采を浴びた。
 その後の授業でも、同級生から頭ひとつ飛び出た技術を見せつけ、「すごい奴」という評価が定着してしまった。
 
「不思議だ。旅に出る前よりも、授業の内容が頭に入る……」
 
 旅に出るまで、何のために勉強しているか分からなくて聞き流している授業もあった。しかし、ノクトが実際の仕事でどのように使うか旅の間に見せてくれたので、授業の背景が理解できるようになった。全体が見えると、勉強が一気に面白くなる。
 三年生になる頃には、リュンクスはカノンと共に同年代で最優秀の学生の一人として、名前が挙がるまでになっていた。
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