山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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*二年前* 選択

64 再会

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 リュンクスは、近所に住んでいるハンナおばさんに挨拶に行き、卵と牛乳を分けてもらった。ハンナは久しぶりに会ったからか、マジマジと凝視してくる。居心地悪くなったリュンクスは、早急にお暇することにした。
 
「もう先生と父さんの話は終わったかな」
 
 帰るタイミングが難しい。
 念のため、近くの森で木苺を摘んでから戻ろうと、リュンクスは考えた。
 森に入って苺を探していると、不意に魔術の気配を感じた。
 立ち止まって周囲を見回す。
 
「……出口が見えない」
 
 あの時と同じだ。
 ノクトに攫われてサーヴァントにされた時の、自分を捕らえた空間をループさせる魔術。
 しかし、知識と経験を積んだ今のリュンクスには、この魔術の正体が分かる。
 空間をねじ曲げるなど大魔術は、大掛かりな準備が必要だ。ねじ曲げられているのは己の視覚や聴覚、認識の方。
 あの時にノクトが使ったのは、単なる幻惑の魔術だったのだ。
 
「幻想の霧を晴らす……ディスペル!」
 
 冷静に、幻惑を打ち消す魔術を使う。
 続いてセイエルを呼ぶため、光と煙を上げる魔術を唱え掛けたところで、唐突に人の気配が現れた。
 誰かが木の枝から飛び降りて、リュンクスの背後に立った。
 その誰かは、後ろから手を伸ばして口を塞ぐ。
 一瞬、危機感を覚えたリュンクスだが、背中に感じた懐かしい気配に、抵抗を止める。

「正解だ、リュンクス。きちんとカウンターの魔術を使えるようになったね。人を呼ぶという判断も上出来だ」
 
 悪ふざけも大概にしてほしい。
 そう文句を言いたいところだが、彼と会うのは一年以上ぶりで、リュンクスは腹が立つよりも先に嬉しくなってしまった。
 口元をおおう手が外れる。
 
「……先輩」
「久しぶりだね」
 
 見上げた先には、ノクトが悪戯っぽい笑みを浮かべて立っていた。
 
「どうして俺の故郷に? 先輩、仕事クビになったの?」
「君は背が伸びて綺麗になったけど、口の方は悪くなったようだね」
「ふぉはっ、ごめんなさい先輩」
 
 つい余計な事を言ってしまった。
 ノクトに頬をつねられて、リュンクスは平謝りする。
 上目遣いに見上げたノクトは、昔よりも髪が伸びて顔の稜線がシャープになっている。漆黒のローブの下は動きやすそうな軍服を着ていた。帝国の制服らしい。いかにも仕事ができる若手といった雰囲気で、格好良かった。
 
「休みが取れたんだよ。セイエル先生の代わりに、塔まで送っていってあげよう」
「マジで?! やった!」
 
 リュンクスは、はしゃいで万歳した。
 素直に喜びを表現する後輩に、ノクトは頬を緩ませる。
 
「今夜は、久しぶりの実家にゆっくり泊まるといい。明日、この先の街で待ちあわせよう」
「え?! 先輩、うちに泊まっていかないの?」
「え?」
 
 ノクトは想定外の事を聞いたように、またたきした。
 一瞬遅れてリュンクスは、考えてみれば他人の家に泊まるのは窮屈だよな、と反省する。久しぶりに会えたノクトと、少しでも一緒にいたくて、衝動的に誘ったが、間違いだっただろうか。
 
「……ご両親と積もる話もあるだろう。旧交を暖めておいで。私は待っているから」
 
 少し困った顔をして、ノクトは答えた。
 彼は内心、可愛すぎる後輩に悶絶していた。
 
「うちは父さんしかいないよ。父さんと一晩中なんの話をするのさ」
「色々あるだろう。リュンクスの父上は、塔の話を聞きたいんじゃないか」
「そんなの、ノクト先輩と一緒だって話せるし!」
 
 ノクトは遠慮しているだけだと気付いたリュンクスは、強引に彼の腕を引っ張った。振り払うか、気分を害するかもしれない、と一瞬懸念したが、見上げたノクトの顔は穏やかだった。
 リュンクスは「仕方ないな」と呟くノクトを引っ張って、家に戻った。
 
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