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*二年前* 選択
76 甘やかされて
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ノクトは、カノン相手には嫉妬しない。どころか、リュンクスとカノンの交際を積極的に推奨する節さえある。
一旦、自分の部屋に戻り、荷物を整理しながら、リュンクスは先ほどのやり取りについて考えていた。
「だけど、キスは許さないって、言ったんだよな」
自分の唇をゆるくなぞる。
サナとのキスは駄目なのに、カノンとのキスは構わないのか。
どうやら先輩の中では、何か基準があるらしい。
「リュンクス」
「うわっ」
いつの間にか、ノクトが部屋の扉を開けていた。
「俺以外は入れないよう、カノンが結界を張ってるのに」
「よく出来ているが、私にとっては子供だましさ。ちゃんと元通りにしてあげるよ」
先輩が不法侵入したことは、カノンに黙っていようと、リュンクスは思った。カノンは激怒しそうだ。
「ミスト先生は、生徒に捕まって仕事が出来てしまったようだ。出発は明日の早朝になるそうだよ」
「そうなんだ」
「ひどい話だ。卒業した私には、もう部屋が無い。私が使っていた研究室だけはそのままだから、そこで泊まれと言われた」
ノクトはぶつぶつと文句をこぼした。
いつも大人っぽく振る舞う先輩が身近に感じられ、リュンクスはほのぼのする。
くすりと笑って、自分から提案した。
「じゃあ、俺も先輩のとこに泊まりに行く」
「無理しなくていいんだよ。自分の寝台の方が、よく眠れるだろう」
心配するノクトを笑い飛ばし、リュンクスは荷物を詰め直して立ち上がる。
「大丈夫。先輩のベッドを占領するから」
カノンのいない部屋で一人、安心して寝られる気がしなかった。
研究室と呼ばれている部屋は、塔の三階から十階まで、点々と存在している。これらの部屋は気の強いブラウニーの縄張りになっていて、ブラウニーの許可を得ないと使わせてもらえない。
塔の生徒は四年生になると、自分の研究室を探す。
ノクトの研究室は、三階にあった。
「塔の上の階になるほど、人気が高いんだよ。私は早く研究室が欲しかったから、妥協した。後から思えば、塔の上層は登るのも降りるのも大変だから、ちょうど良かったんだけどね」
低層だったせいで、ノクトが卒業した後も使う者がおらず、空室のままだったらしい。
リュンクスは、久しぶりに訪れたノクトの研究室を、懐かしく見回す。
私物は既に片付けられており、空の棚と机、寝台があるだけの空虚な部屋になっている。
埃が少ないのは、ブラウニーが掃除しているからだろう。
「自分の研究室をどこにするか、考えているかい?」
「まだそこまでは」
「私の研究室を使ってもいいよ」
部屋を管理するブラウニーも、リュンクスに気を許している。
ノクトに研究室を受け継ぐか聞かれ、大いに迷った。
しかし、少し考えてリュンクスは首を横に振る。
「……自分で何とかする」
先輩に頼ってばかりだと、駄目になりそうだ。
「君のプライドの高さは、魔術を極める上では重要だと思うよ。サーヴァントとしては、敬遠される性質かもしれないけどね」
ノクトは穏やかな声で、リュンクスの選択を肯定した。
「在学中に貴石級を取得する生徒は少ないが、君は大丈夫。この私が保証してあげよう」
保証を受けたリュンクスだが、基本的なことを失念していた。
「そっか。研究室って、貴石級を取るために魔術の研究をする部屋か……」
「今更、何を言ってるんだい」
ノクトは呆れたような、面白がっているような顔をした。
「研究と聞いて、何かイメージはあるかな?」
「うーん」
リュンクスは少し考え込む。
思い付いて、ローブの裏側のポケットから、竜の卵を取り出した。
「こいつを調べるとか?」
「……ローブに隠しポケットを作ったのかい。器用だね」
学生用のローブはポケットなどない。
リュンクスの手縫いだと気付き、ノクトは感心した。
「しかし、わざわざ持っていくことは無いだろうに。捨ててしまいなさい。川かどこかに」
「先輩、カノンには嫉妬しないのに、なんで竜には嫉妬するのさ」
卵を取られそうになって、リュンクスは慌ててしまいこむ。
ノクトは眉をしかめた。
「カノン・ブリストは行儀が良いから、君の意志を無視して連れて行くことはないだろう。だが、獣は別だ。奴らは理を無視して行動する」
「先輩」
「私は自分のサーヴァントを手放すつもりはないよ」
冷たい指先が顎に絡み、上向かせられる。
ノクトのアイスブルーの瞳で射抜かれ、リュンクスは息を飲んだ。
「私はずるい大人だから、嘘も付くし卑怯な真似もする。お気に入りの後輩を繋ぎ止めておくために、快楽で体から堕として、飴と鞭で夢中にさせたり、ね」
「それが先輩の戦略なんだろ」
リュンクスは、正面からノクトを見つめ返した。
「でも、ちょっと面倒くさいよ。もっと単純にはいかないの?」
「例えば?」
「好きだから、ずっと一緒にいよう。その方がシンプルだろ」
顎を捕らえている手を、逆に掴んだ。
リュンクスから唇を寄せる。
おそるおそる伸ばした舌先は迎え入れられ、絡め取られた。同時に後頭部をつかんで抱き寄せられる。途中から意趣返しのように翻弄された。
激しいディープキスの後、息を乱しているリュンクスとは対照的に、ノクトは涼しい顔で「よく分かった」と呟く。
「可愛いいからって、少し甘やかし過ぎたな」
「結論それ?!」
「明日は早いから、もう休もう。お預けだよ」
体に熱を灯されたリュンクスは、がっかりして「えぇー」と嘆いた。
「今夜を逃したら、次はいつになるのさ!」
「さあね。でも物足りないくらいの方が、次に期待できるだろう」
ノクトは飄々と返して、身を離した。
「それに君は、カノン・ブリストの行方が気になって集中できないんじゃないか」
「!」
カノンのいない寂しさを先輩で紛らわせようとした内心は、見抜かれていたらしい。
すねて寝台に転がるリュンクスを見て、ノクトは微笑む。
「寝なさい。無事に君の友達が帰ってくるように、私も全力を尽くすよ」
背中に掛けられた言葉は温かくて、リュンクスは迂闊にも泣きそうになった。
一旦、自分の部屋に戻り、荷物を整理しながら、リュンクスは先ほどのやり取りについて考えていた。
「だけど、キスは許さないって、言ったんだよな」
自分の唇をゆるくなぞる。
サナとのキスは駄目なのに、カノンとのキスは構わないのか。
どうやら先輩の中では、何か基準があるらしい。
「リュンクス」
「うわっ」
いつの間にか、ノクトが部屋の扉を開けていた。
「俺以外は入れないよう、カノンが結界を張ってるのに」
「よく出来ているが、私にとっては子供だましさ。ちゃんと元通りにしてあげるよ」
先輩が不法侵入したことは、カノンに黙っていようと、リュンクスは思った。カノンは激怒しそうだ。
「ミスト先生は、生徒に捕まって仕事が出来てしまったようだ。出発は明日の早朝になるそうだよ」
「そうなんだ」
「ひどい話だ。卒業した私には、もう部屋が無い。私が使っていた研究室だけはそのままだから、そこで泊まれと言われた」
ノクトはぶつぶつと文句をこぼした。
いつも大人っぽく振る舞う先輩が身近に感じられ、リュンクスはほのぼのする。
くすりと笑って、自分から提案した。
「じゃあ、俺も先輩のとこに泊まりに行く」
「無理しなくていいんだよ。自分の寝台の方が、よく眠れるだろう」
心配するノクトを笑い飛ばし、リュンクスは荷物を詰め直して立ち上がる。
「大丈夫。先輩のベッドを占領するから」
カノンのいない部屋で一人、安心して寝られる気がしなかった。
研究室と呼ばれている部屋は、塔の三階から十階まで、点々と存在している。これらの部屋は気の強いブラウニーの縄張りになっていて、ブラウニーの許可を得ないと使わせてもらえない。
塔の生徒は四年生になると、自分の研究室を探す。
ノクトの研究室は、三階にあった。
「塔の上の階になるほど、人気が高いんだよ。私は早く研究室が欲しかったから、妥協した。後から思えば、塔の上層は登るのも降りるのも大変だから、ちょうど良かったんだけどね」
低層だったせいで、ノクトが卒業した後も使う者がおらず、空室のままだったらしい。
リュンクスは、久しぶりに訪れたノクトの研究室を、懐かしく見回す。
私物は既に片付けられており、空の棚と机、寝台があるだけの空虚な部屋になっている。
埃が少ないのは、ブラウニーが掃除しているからだろう。
「自分の研究室をどこにするか、考えているかい?」
「まだそこまでは」
「私の研究室を使ってもいいよ」
部屋を管理するブラウニーも、リュンクスに気を許している。
ノクトに研究室を受け継ぐか聞かれ、大いに迷った。
しかし、少し考えてリュンクスは首を横に振る。
「……自分で何とかする」
先輩に頼ってばかりだと、駄目になりそうだ。
「君のプライドの高さは、魔術を極める上では重要だと思うよ。サーヴァントとしては、敬遠される性質かもしれないけどね」
ノクトは穏やかな声で、リュンクスの選択を肯定した。
「在学中に貴石級を取得する生徒は少ないが、君は大丈夫。この私が保証してあげよう」
保証を受けたリュンクスだが、基本的なことを失念していた。
「そっか。研究室って、貴石級を取るために魔術の研究をする部屋か……」
「今更、何を言ってるんだい」
ノクトは呆れたような、面白がっているような顔をした。
「研究と聞いて、何かイメージはあるかな?」
「うーん」
リュンクスは少し考え込む。
思い付いて、ローブの裏側のポケットから、竜の卵を取り出した。
「こいつを調べるとか?」
「……ローブに隠しポケットを作ったのかい。器用だね」
学生用のローブはポケットなどない。
リュンクスの手縫いだと気付き、ノクトは感心した。
「しかし、わざわざ持っていくことは無いだろうに。捨ててしまいなさい。川かどこかに」
「先輩、カノンには嫉妬しないのに、なんで竜には嫉妬するのさ」
卵を取られそうになって、リュンクスは慌ててしまいこむ。
ノクトは眉をしかめた。
「カノン・ブリストは行儀が良いから、君の意志を無視して連れて行くことはないだろう。だが、獣は別だ。奴らは理を無視して行動する」
「先輩」
「私は自分のサーヴァントを手放すつもりはないよ」
冷たい指先が顎に絡み、上向かせられる。
ノクトのアイスブルーの瞳で射抜かれ、リュンクスは息を飲んだ。
「私はずるい大人だから、嘘も付くし卑怯な真似もする。お気に入りの後輩を繋ぎ止めておくために、快楽で体から堕として、飴と鞭で夢中にさせたり、ね」
「それが先輩の戦略なんだろ」
リュンクスは、正面からノクトを見つめ返した。
「でも、ちょっと面倒くさいよ。もっと単純にはいかないの?」
「例えば?」
「好きだから、ずっと一緒にいよう。その方がシンプルだろ」
顎を捕らえている手を、逆に掴んだ。
リュンクスから唇を寄せる。
おそるおそる伸ばした舌先は迎え入れられ、絡め取られた。同時に後頭部をつかんで抱き寄せられる。途中から意趣返しのように翻弄された。
激しいディープキスの後、息を乱しているリュンクスとは対照的に、ノクトは涼しい顔で「よく分かった」と呟く。
「可愛いいからって、少し甘やかし過ぎたな」
「結論それ?!」
「明日は早いから、もう休もう。お預けだよ」
体に熱を灯されたリュンクスは、がっかりして「えぇー」と嘆いた。
「今夜を逃したら、次はいつになるのさ!」
「さあね。でも物足りないくらいの方が、次に期待できるだろう」
ノクトは飄々と返して、身を離した。
「それに君は、カノン・ブリストの行方が気になって集中できないんじゃないか」
「!」
カノンのいない寂しさを先輩で紛らわせようとした内心は、見抜かれていたらしい。
すねて寝台に転がるリュンクスを見て、ノクトは微笑む。
「寝なさい。無事に君の友達が帰ってくるように、私も全力を尽くすよ」
背中に掛けられた言葉は温かくて、リュンクスは迂闊にも泣きそうになった。
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いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
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