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*二年前* 選択
77 大人の関係
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まだ暗い内にノクトに起こされ、リュンクスは荷物を持って塔の屋上に登った。
屋上では、準備万端のミストが待っていた。
「リュンクス君は、僕とペガサスに乗ろう」
「え? 先輩とじゃねーの?」
ノクトと一緒では無いことに戸惑ったリュンクスだが、真っ白いペガサスが気になったので大人しくミストに従う。
ミストは、体格の小さいリュンクスを自分の前に乗せた。
ペガサスは優美に翼を広げ、空に舞い上がる。
しばし沈黙が続いた。
あまり親密ではない先生と二人きりの状況に耐えきれなくなり、リュンクスは雑談をすることにした。
「……ミスト先生。セイエル先生と契約してるんですか?」
セイエルと連絡が取れない時、すぐに動くあたり、よほど親密な関係なのだろうと思う。
質問すると、ミストは顔を引きつらせた。
「僕に直接、そんな事を聞く猛者がいるとはね。ふふふ」
目が笑っていない。
「き、聞いちゃいけない事でした?」
「いや。僕とセイエルは、正式に組んではいないんだ。サーヴァント属性の魔術師が貴石級を持ってると、いろいろ厄介でね」
「はあ」
何やら大人の関係は複雑そうだ。
リュンクスは「サーヴァント属性の魔術師が貴石級を持っていると厄介」という下りが気になった。
しかしミストは話題を変えたくなったらしい。
「これから行く魔術王国アウレルムの事について、どのくらい知ってる?」
と聞いてきた。
「どこにある国か、地図に書いてある事くらいしか知りません」
リュンクスは、真面目に回答した。
これでも教師の間では品行方正な生徒として通っているのだ。ノクトやカノンの前では弾けているが、表向き行儀良くしている。
「魔術王国アウレルムは、国民の半数が魔術師の国だ」
「え、すごい!」
「国内に魔術学校があり、国民は塔よりもそっちに入学する。カノン・ブリストは、なぜ塔に来たんだろうね。地元の魔術学校に入れば、知り合いが沢山いただろうに」
「確かに」
そういえばカノンの出自について、あまり知らない。
密かにショックを受けているリュンクスに気付かず、ミストは話を続ける。
「今、アウレルムは新王の選出で争いが起こっている。魔術師至上主義の新王候補と、魔術を使えない一般人を代表する新王候補、どちらが王位に付くかで揉めているんだ」
「カノンは、それに巻き込まれたんですか」
「おそらくね。ブリストの家は、数少ない中立派だ。貴石級の魔術師として名高いセイエルと共に、取り込みたいと考える勢力に拘束されている可能性がある」
話を聞く限り、命の危険は無さそうだと、リュンクスは胸を撫で下ろす。
「先生は、セイエル先生がカノンを連れて脱出できるよう、手伝うためにアウレルムに行くんですね」
「そうだ」
ミストはきっぱりと返事したが、表情は曇って雨が降りそうに憂鬱だった。
「マスターはサーヴァントの居場所が分かる。セイエルが、僕が近くに来た事に気付いて行動を起こしてくれるといいが……気付かないだろうな……」
頭上で重い溜め息。
リュンクスは、先生達の関係がますます気になってきた。
丸一日かけて海を越え、港街に一泊し、さらに数時間の空の旅を経て、リュンクス達は魔術王国アウレルムに辿り着いた。
アウレルムでは、国民の半数が魔術師というだけあり、街のあちこちに魔術の明かりが灯されている。煉瓦造りの重厚な建物のあちこちに小さな魔法陣が刻まれ、花壇には薬草が植えられていた。
洒脱なデザインのローブをまとった若者が往来を行き来し、鮮やかな果物や野菜が店頭に盛られている。
アウレルムは賑やかな国だった。
「わっ」
キョロキョロ見回して、道行く人とぶつかりそうになる。
「おっと」
通行人の男性が、リュンクスを見て顔をほころばせた。
「おや、可愛いサーヴァントの子じゃないか。耳にピアスを付けてないということは、マスターはいないね。どうだい、叔父さんと」
「この子は予約済なので」
ノクトが強引に割って入った。
通行人の男性は、残念そうに「そうかー」と言って去っていく。
リュンクスは唖然とした。
「いったい何? 普通にナンパされたけど」
「アウレルムでは、マスターのいるサーヴァントは耳にピアスを付ける習慣があるんだよ。飾りでも付けておいた方が良かったかな」
ノクトは心配そうに、リュンクスの耳を触る。
くすぐったくてリュンクスは肩をすくめた。
「サーヴァントって、見ただけで分かるものなの?」
名札を付けて歩いている訳ではないのに。
リュンクスは首を傾げる。
「マスター属性の魔術師は、魔力の流れを目視できる者が多いんだよ」
「先輩も?」
「もちろん。見え方には、個人差があるらしいけどね」
ノクトは「はぐれないように」と手を握ってくれる。
小さな子供になったようで照れくさい。
それにしても、どこに行けばカノンとセイエルに会えるか、ミストはあてがあるのだろうか。
「ミスト先生、俺達はどこを目指してるの?」
「塔の卒業生が営む店があるから、そこで情報を収集しよう」
ミストの答えに、リュンクスは憂鬱になった。
先は長そうだ。
ところが、地道に情報収集する必要は無かった。
「ミスト、どうしてここに」
セイエルの方から探しに来てくれたからだ。
噴水広場の向こう側から歩いてくるセイエルは、たった一人だ。
怒っているように眉をしかめている。
「私は来てくれと頼んだ覚えはないが」
「僕の意志だ。どこに行こうが何をしようが僕の勝手だろう。正式に組んでる訳じゃないんだから」
教師二人の間に火花が散った。
え?! 仲が良いんじゃないの?!
リュンクスは冷や汗を流しながら、ノクトの手をギュッと握りしめた。
屋上では、準備万端のミストが待っていた。
「リュンクス君は、僕とペガサスに乗ろう」
「え? 先輩とじゃねーの?」
ノクトと一緒では無いことに戸惑ったリュンクスだが、真っ白いペガサスが気になったので大人しくミストに従う。
ミストは、体格の小さいリュンクスを自分の前に乗せた。
ペガサスは優美に翼を広げ、空に舞い上がる。
しばし沈黙が続いた。
あまり親密ではない先生と二人きりの状況に耐えきれなくなり、リュンクスは雑談をすることにした。
「……ミスト先生。セイエル先生と契約してるんですか?」
セイエルと連絡が取れない時、すぐに動くあたり、よほど親密な関係なのだろうと思う。
質問すると、ミストは顔を引きつらせた。
「僕に直接、そんな事を聞く猛者がいるとはね。ふふふ」
目が笑っていない。
「き、聞いちゃいけない事でした?」
「いや。僕とセイエルは、正式に組んではいないんだ。サーヴァント属性の魔術師が貴石級を持ってると、いろいろ厄介でね」
「はあ」
何やら大人の関係は複雑そうだ。
リュンクスは「サーヴァント属性の魔術師が貴石級を持っていると厄介」という下りが気になった。
しかしミストは話題を変えたくなったらしい。
「これから行く魔術王国アウレルムの事について、どのくらい知ってる?」
と聞いてきた。
「どこにある国か、地図に書いてある事くらいしか知りません」
リュンクスは、真面目に回答した。
これでも教師の間では品行方正な生徒として通っているのだ。ノクトやカノンの前では弾けているが、表向き行儀良くしている。
「魔術王国アウレルムは、国民の半数が魔術師の国だ」
「え、すごい!」
「国内に魔術学校があり、国民は塔よりもそっちに入学する。カノン・ブリストは、なぜ塔に来たんだろうね。地元の魔術学校に入れば、知り合いが沢山いただろうに」
「確かに」
そういえばカノンの出自について、あまり知らない。
密かにショックを受けているリュンクスに気付かず、ミストは話を続ける。
「今、アウレルムは新王の選出で争いが起こっている。魔術師至上主義の新王候補と、魔術を使えない一般人を代表する新王候補、どちらが王位に付くかで揉めているんだ」
「カノンは、それに巻き込まれたんですか」
「おそらくね。ブリストの家は、数少ない中立派だ。貴石級の魔術師として名高いセイエルと共に、取り込みたいと考える勢力に拘束されている可能性がある」
話を聞く限り、命の危険は無さそうだと、リュンクスは胸を撫で下ろす。
「先生は、セイエル先生がカノンを連れて脱出できるよう、手伝うためにアウレルムに行くんですね」
「そうだ」
ミストはきっぱりと返事したが、表情は曇って雨が降りそうに憂鬱だった。
「マスターはサーヴァントの居場所が分かる。セイエルが、僕が近くに来た事に気付いて行動を起こしてくれるといいが……気付かないだろうな……」
頭上で重い溜め息。
リュンクスは、先生達の関係がますます気になってきた。
丸一日かけて海を越え、港街に一泊し、さらに数時間の空の旅を経て、リュンクス達は魔術王国アウレルムに辿り着いた。
アウレルムでは、国民の半数が魔術師というだけあり、街のあちこちに魔術の明かりが灯されている。煉瓦造りの重厚な建物のあちこちに小さな魔法陣が刻まれ、花壇には薬草が植えられていた。
洒脱なデザインのローブをまとった若者が往来を行き来し、鮮やかな果物や野菜が店頭に盛られている。
アウレルムは賑やかな国だった。
「わっ」
キョロキョロ見回して、道行く人とぶつかりそうになる。
「おっと」
通行人の男性が、リュンクスを見て顔をほころばせた。
「おや、可愛いサーヴァントの子じゃないか。耳にピアスを付けてないということは、マスターはいないね。どうだい、叔父さんと」
「この子は予約済なので」
ノクトが強引に割って入った。
通行人の男性は、残念そうに「そうかー」と言って去っていく。
リュンクスは唖然とした。
「いったい何? 普通にナンパされたけど」
「アウレルムでは、マスターのいるサーヴァントは耳にピアスを付ける習慣があるんだよ。飾りでも付けておいた方が良かったかな」
ノクトは心配そうに、リュンクスの耳を触る。
くすぐったくてリュンクスは肩をすくめた。
「サーヴァントって、見ただけで分かるものなの?」
名札を付けて歩いている訳ではないのに。
リュンクスは首を傾げる。
「マスター属性の魔術師は、魔力の流れを目視できる者が多いんだよ」
「先輩も?」
「もちろん。見え方には、個人差があるらしいけどね」
ノクトは「はぐれないように」と手を握ってくれる。
小さな子供になったようで照れくさい。
それにしても、どこに行けばカノンとセイエルに会えるか、ミストはあてがあるのだろうか。
「ミスト先生、俺達はどこを目指してるの?」
「塔の卒業生が営む店があるから、そこで情報を収集しよう」
ミストの答えに、リュンクスは憂鬱になった。
先は長そうだ。
ところが、地道に情報収集する必要は無かった。
「ミスト、どうしてここに」
セイエルの方から探しに来てくれたからだ。
噴水広場の向こう側から歩いてくるセイエルは、たった一人だ。
怒っているように眉をしかめている。
「私は来てくれと頼んだ覚えはないが」
「僕の意志だ。どこに行こうが何をしようが僕の勝手だろう。正式に組んでる訳じゃないんだから」
教師二人の間に火花が散った。
え?! 仲が良いんじゃないの?!
リュンクスは冷や汗を流しながら、ノクトの手をギュッと握りしめた。
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