山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

文字の大きさ
90 / 266
*二年前* 選択

77 大人の関係

しおりを挟む
 まだ暗い内にノクトに起こされ、リュンクスは荷物を持って塔の屋上に登った。
 屋上では、準備万端のミストが待っていた。
 
「リュンクス君は、僕とペガサスに乗ろう」
「え? 先輩とじゃねーの?」
 
 ノクトと一緒では無いことに戸惑ったリュンクスだが、真っ白いペガサスが気になったので大人しくミストに従う。
 ミストは、体格の小さいリュンクスを自分の前に乗せた。
 ペガサスは優美に翼を広げ、空に舞い上がる。
 しばし沈黙が続いた。
 あまり親密ではない先生と二人きりの状況に耐えきれなくなり、リュンクスは雑談をすることにした。
 
「……ミスト先生。セイエル先生と契約してるんですか?」
 
 セイエルと連絡が取れない時、すぐに動くあたり、よほど親密な関係なのだろうと思う。
 質問すると、ミストは顔を引きつらせた。
 
「僕に直接、そんな事を聞く猛者もさがいるとはね。ふふふ」
 
 目が笑っていない。
 
「き、聞いちゃいけない事でした?」
「いや。僕とセイエルは、正式に組んではいないんだ。サーヴァント属性の魔術師が貴石級を持ってると、いろいろ厄介でね」
「はあ」
 
 何やら大人の関係は複雑そうだ。
 リュンクスは「サーヴァント属性の魔術師が貴石級を持っていると厄介」という下りが気になった。
 しかしミストは話題を変えたくなったらしい。
 
「これから行く魔術王国アウレルムの事について、どのくらい知ってる?」
 
 と聞いてきた。
 
「どこにある国か、地図に書いてある事くらいしか知りません」
 
 リュンクスは、真面目に回答した。
 これでも教師の間では品行方正な生徒として通っているのだ。ノクトやカノンの前では弾けているが、表向き行儀良くしている。
 
「魔術王国アウレルムは、国民の半数が魔術師の国だ」
「え、すごい!」
「国内に魔術学校があり、国民は塔よりもそっちに入学する。カノン・ブリストは、なぜ塔に来たんだろうね。地元の魔術学校に入れば、知り合いが沢山いただろうに」
「確かに」
 
 そういえばカノンの出自について、あまり知らない。
 密かにショックを受けているリュンクスに気付かず、ミストは話を続ける。
 
「今、アウレルムは新王の選出で争いが起こっている。魔術師至上主義の新王候補と、魔術を使えない一般人を代表する新王候補、どちらが王位に付くかで揉めているんだ」
「カノンは、それに巻き込まれたんですか」
「おそらくね。ブリストの家は、数少ない中立派だ。貴石級の魔術師として名高いセイエルと共に、取り込みたいと考える勢力に拘束されている可能性がある」
 
 話を聞く限り、命の危険は無さそうだと、リュンクスは胸を撫で下ろす。
 
「先生は、セイエル先生がカノンを連れて脱出できるよう、手伝うためにアウレルムに行くんですね」
「そうだ」
 
 ミストはきっぱりと返事したが、表情は曇って雨が降りそうに憂鬱だった。
 
「マスターはサーヴァントの居場所が分かる。セイエルが、僕が近くに来た事に気付いて行動を起こしてくれるといいが……気付かないだろうな……」
 
 頭上で重い溜め息。
 リュンクスは、先生達の関係がますます気になってきた。
 



 丸一日かけて海を越え、港街に一泊し、さらに数時間の空の旅を経て、リュンクス達は魔術王国アウレルムに辿り着いた。
 アウレルムでは、国民の半数が魔術師というだけあり、街のあちこちに魔術の明かりが灯されている。煉瓦造りの重厚な建物のあちこちに小さな魔法陣が刻まれ、花壇には薬草が植えられていた。
 洒脱なデザインのローブをまとった若者が往来を行き来し、鮮やかな果物や野菜が店頭に盛られている。
 アウレルムは賑やかな国だった。
 
「わっ」
 
 キョロキョロ見回して、道行く人とぶつかりそうになる。
 
「おっと」
 
 通行人の男性が、リュンクスを見て顔をほころばせた。
 
「おや、可愛いサーヴァントの子じゃないか。耳にピアスを付けてないということは、マスターはいないね。どうだい、叔父さんと」
「この子は予約済なので」
 
 ノクトが強引に割って入った。
 通行人の男性は、残念そうに「そうかー」と言って去っていく。
 リュンクスは唖然とした。
 
「いったい何? 普通にナンパされたけど」
「アウレルムでは、マスターのいるサーヴァントは耳にピアスを付ける習慣があるんだよ。飾りでも付けておいた方が良かったかな」
 
 ノクトは心配そうに、リュンクスの耳を触る。
 くすぐったくてリュンクスは肩をすくめた。

「サーヴァントって、見ただけで分かるものなの?」
 
 名札を付けて歩いている訳ではないのに。
 リュンクスは首を傾げる。
 
「マスター属性の魔術師は、魔力の流れを目視できる者が多いんだよ」
「先輩も?」
「もちろん。見え方には、個人差があるらしいけどね」
 
 ノクトは「はぐれないように」と手を握ってくれる。
 小さな子供になったようで照れくさい。
 それにしても、どこに行けばカノンとセイエルに会えるか、ミストはあてがあるのだろうか。
 
「ミスト先生、俺達はどこを目指してるの?」
「塔の卒業生がいとなむ店があるから、そこで情報を収集しよう」
 
 ミストの答えに、リュンクスは憂鬱になった。
 先は長そうだ。
 ところが、地道に情報収集する必要は無かった。
 
「ミスト、どうしてここに」
 
 セイエルの方から探しに来てくれたからだ。
 噴水広場の向こう側から歩いてくるセイエルは、たった一人だ。
 怒っているように眉をしかめている。
 
「私は来てくれと頼んだ覚えはないが」
「僕の意志だ。どこに行こうが何をしようが僕の勝手だろう。正式に組んでる訳じゃないんだから」
 
 教師二人の間に火花が散った。
 え?! 仲が良いんじゃないの?!
 リュンクスは冷や汗を流しながら、ノクトの手をギュッと握りしめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...