山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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*二年前* 選択

78 進路のアドバイス

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「……リュンクスが驚いてますよ」
 
 ノクトが呆れたように声を上げた。
 その台詞に大人二人は、冷静な表情に戻った。
 
「見苦しいところを見せたな」
「言い合っている場合じゃないね」
 
 セイエルとミストは反省したようだ。
 リュンクスは意を決して、セイエルに話しかける。
 
「セイエル先生、カノンはどこですか?」
「……場所を変えよう」
 
 ここで話すのはまずい、とセイエルは慎重な態度を見せた。
 三人は、塔の卒業生が営んでいるという魔道具店に行くことにした。落ち着いて話せる場所を提供してもらうためだ。
 セイエルの教え子だという、魔道具店の店主は、快く家の中に入れてくれた。
 
「カノン・ブリストは、王城へ行った」
 
 セイエルは難しい顔で言った。
 
「彼は、リーアン王子と旧知の仲らしい。挨拶をして、数日、城に泊まると言っていた」
「リーアン王子?」
「魔術王国アウレルムの王の長子ながら、魔術の使えない王子として有名な方だよ。例の、魔術の使えない一般人代表の新王候補だ」
 
 ノクトが説明を添えた。
 それでリュンクスもようやく状況が飲み込めた。
 
「もしかして、今まで先生とカノンは、魔術師の派閥の方に捕まってたんですか?」
「そうだ」
 
 魔術師の派閥だけに手練てだれが多く、なかなか抜け出せなかったのだと、セイエルは苦々しい表情だった。

「カノンは王城にいるのですか……会いに行けますか?」
 
 カノンの無事をこの目で確認したい。その一心で、リュンクスは聞いてみた。
 
「リュンクス君、ここでカノン君を待てばいいじゃないか。わざわざ王城まで行くことはない」
 
 ミストは苦笑してリュンクスをたしなめた。
 しかし意外なことに、セイエルが「いや」と言った。
 
「リーアン王子を守るため、カノン・ブリストは退学してでも故郷に残ることを選択するかもしれん。塔で学ばなくても、アウレルムの魔術学校に編入する道もあるのだから」
「え?! カノンがそう言ってたんですか?」
「少し悩んでいたようだったからな。君が会いに行くのは悪くない案だ。塔に君を残して故郷に帰れないと思い直すだろう」
 
 塔としては、カノンに残って欲しいのだ。
 カノンは貴重なアウレルムの要人である。塔と魔術王国アウレルムを仲介してくれる人材だ。
 セイエルは、リュンクスの応援をしてくれる雰囲気だった。
 
「明後日に王城へカノンを迎えに行く予定だったが、繰り上げて明日にする。リュンクスも同行できるよう話を通しておこう」
「よろしくお願いします」
 
 リュンクスは、セイエルに頭を下げた。
 すぐに王城訪問とはいかない。その日は、塔の卒業生で魔道具店の主の館に泊まらせてもらうことになった。
 



 広い館には客室が二つあり、リュンクスとノクト、セイエルとミストの一部屋二人ずつの割当となった。

「私は用事があるから、君は先に休んでおくといい」
 
 荷物を置くと、ノクトは忙しそうな様子で外出してしまった。
 仕事かな。
 踏み込んではいけない雰囲気を感じ、リュンクスは黙って先輩の後ろ姿を見送った。
 
「暇だ……」 
 
 外に出ると、またナンパされるかもしれない。
 だからといって部屋に一人きりなのも退屈だ。
 リュンクスは、隣の先生の部屋に突撃することにした。
 
「セイエル先生。ミスト先生は?」
「ミストは買い物に行った」 
 
 部屋には、セイエルしかいなかった。
 一人きりのリュンクスを放っておけないと感じたのだろう。部屋に招き入れてくれる。
 リュンクスは教師と何を話そうかと悩み、無難に進路関係について聞いてみようと考えた。
 
「先生。四年生になったら、皆、貴石級の資格を取るために、研究をすると聞きました。研究って、どうやって課題を決めるんですか?」

 と、真面目に聞く。
 するとセイエルは少し不思議そうな顔をした。
 
「君はサーヴァントだろう。マスターの研究の手伝いをするか、共同研究という形をとってもいいんだぞ。単独で貴石級を取るつもりか」
「え?」
 
 思っていたのとは違う話の成り行きに、リュンクスは驚いた。

「サーヴァント属性の魔術師は、貴石級を取らないんですか?」
 
 聞き返すと、セイエルは眉をしかめた。
 
「無い訳ではない。ミストなどは、その筆頭だ。しかしサーヴァントはマスターに干渉されやすい。魔術の研究は、余人に内容を明かさないものだ。サーヴァント属性の魔術師が、自分独自の研究をするのなら、マスターと距離を置く必要がある」
 
 悪意が無くても、マスターはサーヴァントを管理したがるので、サーヴァントの研究内容にも口を出したりしてしまう。そうすると研究がマスターの魔術師のものになってしまう。
 だから通常は、サーヴァントはマスターの研究の手伝いをする役割に収まるのだと、セイエルは説明した。
 
「君もミストのように、マスターとの境界線をきっちり引けるか?」
「それは……」
「マスターとしては、少し寂しいのだがな」
 
 セイエルは複雑そうな微笑を見せた。
 リュンクスはそれを見て、胸が熱くなる。
 ここに来るまでの空の旅で、ミストは「セイエルは僕に気付かないかもしれない」と漏らしていた。だが実際はそんな事はなかった。セイエルはきちんとミストを見ている。
 大人の二人は、互いの距離を測るのに苦心しているだけで、仲が悪い訳ではないのだ。
 
「リュンクス、君に覚悟があるなら、研究課題を用意しよう」
「少し考えさせて下さい」
 
 塔に残って、自分は何を為すのだろう。
 しっかり考えなければ、カノンにもノクトにも、置いていかれる気がする。
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