91 / 266
*二年前* 選択
78 進路のアドバイス
しおりを挟む
「……リュンクスが驚いてますよ」
ノクトが呆れたように声を上げた。
その台詞に大人二人は、冷静な表情に戻った。
「見苦しいところを見せたな」
「言い合っている場合じゃないね」
セイエルとミストは反省したようだ。
リュンクスは意を決して、セイエルに話しかける。
「セイエル先生、カノンはどこですか?」
「……場所を変えよう」
ここで話すのはまずい、とセイエルは慎重な態度を見せた。
三人は、塔の卒業生が営んでいるという魔道具店に行くことにした。落ち着いて話せる場所を提供してもらうためだ。
セイエルの教え子だという、魔道具店の店主は、快く家の中に入れてくれた。
「カノン・ブリストは、王城へ行った」
セイエルは難しい顔で言った。
「彼は、リーアン王子と旧知の仲らしい。挨拶をして、数日、城に泊まると言っていた」
「リーアン王子?」
「魔術王国アウレルムの王の長子ながら、魔術の使えない王子として有名な方だよ。例の、魔術の使えない一般人代表の新王候補だ」
ノクトが説明を添えた。
それでリュンクスもようやく状況が飲み込めた。
「もしかして、今まで先生とカノンは、魔術師の派閥の方に捕まってたんですか?」
「そうだ」
魔術師の派閥だけに手練が多く、なかなか抜け出せなかったのだと、セイエルは苦々しい表情だった。
「カノンは王城にいるのですか……会いに行けますか?」
カノンの無事をこの目で確認したい。その一心で、リュンクスは聞いてみた。
「リュンクス君、ここでカノン君を待てばいいじゃないか。わざわざ王城まで行くことはない」
ミストは苦笑してリュンクスをたしなめた。
しかし意外なことに、セイエルが「いや」と言った。
「リーアン王子を守るため、カノン・ブリストは退学してでも故郷に残ることを選択するかもしれん。塔で学ばなくても、アウレルムの魔術学校に編入する道もあるのだから」
「え?! カノンがそう言ってたんですか?」
「少し悩んでいたようだったからな。君が会いに行くのは悪くない案だ。塔に君を残して故郷に帰れないと思い直すだろう」
塔としては、カノンに残って欲しいのだ。
カノンは貴重なアウレルムの要人である。塔と魔術王国アウレルムを仲介してくれる人材だ。
セイエルは、リュンクスの応援をしてくれる雰囲気だった。
「明後日に王城へカノンを迎えに行く予定だったが、繰り上げて明日にする。リュンクスも同行できるよう話を通しておこう」
「よろしくお願いします」
リュンクスは、セイエルに頭を下げた。
すぐに王城訪問とはいかない。その日は、塔の卒業生で魔道具店の主の館に泊まらせてもらうことになった。
広い館には客室が二つあり、リュンクスとノクト、セイエルとミストの一部屋二人ずつの割当となった。
「私は用事があるから、君は先に休んでおくといい」
荷物を置くと、ノクトは忙しそうな様子で外出してしまった。
仕事かな。
踏み込んではいけない雰囲気を感じ、リュンクスは黙って先輩の後ろ姿を見送った。
「暇だ……」
外に出ると、またナンパされるかもしれない。
だからといって部屋に一人きりなのも退屈だ。
リュンクスは、隣の先生の部屋に突撃することにした。
「セイエル先生。ミスト先生は?」
「ミストは買い物に行った」
部屋には、セイエルしかいなかった。
一人きりのリュンクスを放っておけないと感じたのだろう。部屋に招き入れてくれる。
リュンクスは教師と何を話そうかと悩み、無難に進路関係について聞いてみようと考えた。
「先生。四年生になったら、皆、貴石級の資格を取るために、研究をすると聞きました。研究って、どうやって課題を決めるんですか?」
と、真面目に聞く。
するとセイエルは少し不思議そうな顔をした。
「君はサーヴァントだろう。マスターの研究の手伝いをするか、共同研究という形をとってもいいんだぞ。単独で貴石級を取るつもりか」
「え?」
思っていたのとは違う話の成り行きに、リュンクスは驚いた。
「サーヴァント属性の魔術師は、貴石級を取らないんですか?」
聞き返すと、セイエルは眉をしかめた。
「無い訳ではない。ミストなどは、その筆頭だ。しかしサーヴァントはマスターに干渉されやすい。魔術の研究は、余人に内容を明かさないものだ。サーヴァント属性の魔術師が、自分独自の研究をするのなら、マスターと距離を置く必要がある」
悪意が無くても、マスターはサーヴァントを管理したがるので、サーヴァントの研究内容にも口を出したりしてしまう。そうすると研究がマスターの魔術師のものになってしまう。
だから通常は、サーヴァントはマスターの研究の手伝いをする役割に収まるのだと、セイエルは説明した。
「君もミストのように、マスターとの境界線をきっちり引けるか?」
「それは……」
「マスターとしては、少し寂しいのだがな」
セイエルは複雑そうな微笑を見せた。
リュンクスはそれを見て、胸が熱くなる。
ここに来るまでの空の旅で、ミストは「セイエルは僕に気付かないかもしれない」と漏らしていた。だが実際はそんな事はなかった。セイエルはきちんとミストを見ている。
大人の二人は、互いの距離を測るのに苦心しているだけで、仲が悪い訳ではないのだ。
「リュンクス、君に覚悟があるなら、研究課題を用意しよう」
「少し考えさせて下さい」
塔に残って、自分は何を為すのだろう。
しっかり考えなければ、カノンにもノクトにも、置いていかれる気がする。
ノクトが呆れたように声を上げた。
その台詞に大人二人は、冷静な表情に戻った。
「見苦しいところを見せたな」
「言い合っている場合じゃないね」
セイエルとミストは反省したようだ。
リュンクスは意を決して、セイエルに話しかける。
「セイエル先生、カノンはどこですか?」
「……場所を変えよう」
ここで話すのはまずい、とセイエルは慎重な態度を見せた。
三人は、塔の卒業生が営んでいるという魔道具店に行くことにした。落ち着いて話せる場所を提供してもらうためだ。
セイエルの教え子だという、魔道具店の店主は、快く家の中に入れてくれた。
「カノン・ブリストは、王城へ行った」
セイエルは難しい顔で言った。
「彼は、リーアン王子と旧知の仲らしい。挨拶をして、数日、城に泊まると言っていた」
「リーアン王子?」
「魔術王国アウレルムの王の長子ながら、魔術の使えない王子として有名な方だよ。例の、魔術の使えない一般人代表の新王候補だ」
ノクトが説明を添えた。
それでリュンクスもようやく状況が飲み込めた。
「もしかして、今まで先生とカノンは、魔術師の派閥の方に捕まってたんですか?」
「そうだ」
魔術師の派閥だけに手練が多く、なかなか抜け出せなかったのだと、セイエルは苦々しい表情だった。
「カノンは王城にいるのですか……会いに行けますか?」
カノンの無事をこの目で確認したい。その一心で、リュンクスは聞いてみた。
「リュンクス君、ここでカノン君を待てばいいじゃないか。わざわざ王城まで行くことはない」
ミストは苦笑してリュンクスをたしなめた。
しかし意外なことに、セイエルが「いや」と言った。
「リーアン王子を守るため、カノン・ブリストは退学してでも故郷に残ることを選択するかもしれん。塔で学ばなくても、アウレルムの魔術学校に編入する道もあるのだから」
「え?! カノンがそう言ってたんですか?」
「少し悩んでいたようだったからな。君が会いに行くのは悪くない案だ。塔に君を残して故郷に帰れないと思い直すだろう」
塔としては、カノンに残って欲しいのだ。
カノンは貴重なアウレルムの要人である。塔と魔術王国アウレルムを仲介してくれる人材だ。
セイエルは、リュンクスの応援をしてくれる雰囲気だった。
「明後日に王城へカノンを迎えに行く予定だったが、繰り上げて明日にする。リュンクスも同行できるよう話を通しておこう」
「よろしくお願いします」
リュンクスは、セイエルに頭を下げた。
すぐに王城訪問とはいかない。その日は、塔の卒業生で魔道具店の主の館に泊まらせてもらうことになった。
広い館には客室が二つあり、リュンクスとノクト、セイエルとミストの一部屋二人ずつの割当となった。
「私は用事があるから、君は先に休んでおくといい」
荷物を置くと、ノクトは忙しそうな様子で外出してしまった。
仕事かな。
踏み込んではいけない雰囲気を感じ、リュンクスは黙って先輩の後ろ姿を見送った。
「暇だ……」
外に出ると、またナンパされるかもしれない。
だからといって部屋に一人きりなのも退屈だ。
リュンクスは、隣の先生の部屋に突撃することにした。
「セイエル先生。ミスト先生は?」
「ミストは買い物に行った」
部屋には、セイエルしかいなかった。
一人きりのリュンクスを放っておけないと感じたのだろう。部屋に招き入れてくれる。
リュンクスは教師と何を話そうかと悩み、無難に進路関係について聞いてみようと考えた。
「先生。四年生になったら、皆、貴石級の資格を取るために、研究をすると聞きました。研究って、どうやって課題を決めるんですか?」
と、真面目に聞く。
するとセイエルは少し不思議そうな顔をした。
「君はサーヴァントだろう。マスターの研究の手伝いをするか、共同研究という形をとってもいいんだぞ。単独で貴石級を取るつもりか」
「え?」
思っていたのとは違う話の成り行きに、リュンクスは驚いた。
「サーヴァント属性の魔術師は、貴石級を取らないんですか?」
聞き返すと、セイエルは眉をしかめた。
「無い訳ではない。ミストなどは、その筆頭だ。しかしサーヴァントはマスターに干渉されやすい。魔術の研究は、余人に内容を明かさないものだ。サーヴァント属性の魔術師が、自分独自の研究をするのなら、マスターと距離を置く必要がある」
悪意が無くても、マスターはサーヴァントを管理したがるので、サーヴァントの研究内容にも口を出したりしてしまう。そうすると研究がマスターの魔術師のものになってしまう。
だから通常は、サーヴァントはマスターの研究の手伝いをする役割に収まるのだと、セイエルは説明した。
「君もミストのように、マスターとの境界線をきっちり引けるか?」
「それは……」
「マスターとしては、少し寂しいのだがな」
セイエルは複雑そうな微笑を見せた。
リュンクスはそれを見て、胸が熱くなる。
ここに来るまでの空の旅で、ミストは「セイエルは僕に気付かないかもしれない」と漏らしていた。だが実際はそんな事はなかった。セイエルはきちんとミストを見ている。
大人の二人は、互いの距離を測るのに苦心しているだけで、仲が悪い訳ではないのだ。
「リュンクス、君に覚悟があるなら、研究課題を用意しよう」
「少し考えさせて下さい」
塔に残って、自分は何を為すのだろう。
しっかり考えなければ、カノンにもノクトにも、置いていかれる気がする。
30
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる