山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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 ノクトは結局、明け方に戻ったようだ。
 いつの間にか隣のベッドに横たわっていた。少し疲れた様子で眠るノクトを眺める。今、起こしたら可哀想だ。ちょっとでも長く寝かせてあげたい。
 そっと物音を立てないように部屋を出て、朝食をトレーに乗せてもらい、部屋に持ち帰った。
 温かい薬草茶ハーブティーの、林檎と薄荷ミントをミックスした香りが部屋にふわっと広がる。
 その香りを感じたのか、ノクトが目を覚ました。
 
「おはよう、先輩」
「おはよう……わざわざ持ってきてくれたのか」
 
 リュンクスが用意した朝食を見て、ノクトは微笑む。
 
「先輩、仕事で忙しいんだろ。セイエル先生もいるし、俺に気を使わなくてもいいよ」
 
 リュンクスは、先手を切ることにした。
 ノクトが別れのタイミングを測っていると気付いていたからだ。そんなに長く仕事を休めないだろう。今までリュンクスに合わせてくれていたのだ。
 
「俺はカノンに会いに行く。いつまでも先輩とはいられないよ」
 
 自分から手を離す。
 チリチリと焼けるように胸が痛んだ。
 
「強がりだな」
 
 ノクトは、リュンクスの葛藤を見通しているようだ。
 くすりと笑ったが「分かった」と頷く。

「確かに、職場に戻らなければいけない頃合いだ。ここで別れよう」
 
 ノクトがそう言った途端、リュンクスは切なくなった。
 だが、しんみりした空気を打ち払うように、宣言する。
 
「次に会う時は、俺は先輩と同じくらい強くなる。足手まといにならないようにするから。今度は、どんなところにも一緒に連れていってくれよ」
 
 べフレート山に一人で行った事を、遠回しに悔しかったと伝える。
 
「ふふ、分かった。次は連れて行こう」 
 
 リュンクスが持ってきた朝食を食べ、身なりを整えて立ち上がったノクトは、部屋を出る前に振り返った。
 
「リュンクス」
「何?」
 
 腕をつかんで強く引き寄せられ、唇を奪われる。
 
「ん…っ」
 
 舌を吸い上げられ、リュンクスは震えた。
 短い時間だが濃厚なキスを施した後、ノクトは身を離した。
 
「じゃあ、行ってくるよ」
 
 何を要求されているか、リュンクスは敏感に察した。
 
「行ってらっしゃい」
 
 ドアがバタンと閉じる。
 口元を押さえ、リュンクスはへなへなと、閉じたドアの前に腰を落とした。
 
「ば、バッカじゃねーの……うぅ」
 
 ノクトは「さよなら」を言わせなかった。他人行儀な挨拶をしないことで、もっと踏み込んだ関係をリュンクスに求めたのだ。
 急に恥ずかしくなったリュンクスは、一人ドアの前でもだえた。
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