山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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*一年前* 海神の子

144 妖精竜でひとっ飛び

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 魔物は川をさかのぼる事に集中しており、海辺のグラキアスに被害は出ていない。よってグラキアス側としては、大掛かりな作戦を敢行し、市民をいたずらに不安にしたくない。
 入国は許可するが人数は絞ってくれというのが、グラキアス側の要望だった。
 帝国からグラキアスに入るメンバーは、ノクトとリュンクスとレナールの三人だけだ。
 
「グラキアスまで、使い魔で飛んでいこう。三人なら、虹蛇エインガナで運べるだろう」
 
 ノクトの使い魔で、レナールもリュンクスも乗せていってくれるそうだ。レナールは自分が楽を出来るので異論はない。駄目な大人だ。
 しかしリュンクスは異を唱えた。
 
「俺は自分の使い魔に乗りたい!」
 
 リュンクスは、最近得たばかりの妖精竜に乗りたかった。何しろ初めての使い魔だ。使いたくてうずうずしていた。
 
「リュンクス君、ノクトの使い魔は、竜種の虹蛇エインガナなんだよ。グリフィンやそこらの使い魔じゃ、付いていけない。自分の使い魔に乗りたい気持ちは分かるけど、これは遊びじゃないんだ」
 
 レナールは、もっともらしくさとした。
 塔の四年生と言えば、そろそろ共通の課題でグリフィンを捕まえる頃合いだろうと、彼は高をくくっていた。
 しかし、肝心のノクトは、レナールの言葉を聞いていなかった。
 
「そうだね、練習にちょうど良いだろう」
「やった!」
「ノクト?!」
 
 あっさり容認したノクトに、レナールは目を剥いた。
 彼は、若者二人をどういさめたものかと悩む。
 その懸念は検討違いだった。
 リュンクスが呼び出した妖精竜を見て、レナールは口から魂が出そうになった。
 
『呼んでくれたんだね、リュンクス! あれ? カノンがいない。ということは、ちょっと早いけど二人で愛の逃避行?』
「違うから」
 
 学生の内から竜種の使い魔を持つ者は滅多にいない。
 襟巻きにしている竜の子供だけではなく、希少な妖精竜も使い魔にしていると知り、レナールは絶句した。
 
「君がリュンクスくんを選んだ理由が、よく分かったよ」
「ははは。別に才能だけで選んだ訳じゃないけどね」
 
 ノクトは、何も出来なかった頃のリュンクスを知っている。
 数年前、懸命に食らいついてくる後輩に興味を持った時の事を思い出し、ノクトは懐かしくなった。今のリュンクスは、ノクトを引っ張る事もできるくらい成長している。
 
「よーし、先輩よりも早く飛ばしてやるぞ!」
「リュンクス、競争じゃないからね。だいたい行き先を知らないのに先に飛んでどうするんだい」
 
 まだ少し、危なっかしいけれど。




 やたら宙返りしたがる妖精竜に注意しながら、リュンクス達はグラキアスを目指した。
 隣の国なので、それほど時間は掛からずに、集合場所の山に辿りつく。竜を一般人の前で着陸させると騒ぎになるので、山の方に降りることになっていた。
 山からは、もう海が見える。
 大地と森の領域は山麓の街付近で終わりを告げ、白い砂浜と青い水面が始まっている。どこまでも続く水面は、空との境界で一本線が引かれていた。
 その水平線の向こうにも大地があるのだと知識では知っているが、まるで世界の果てに来たようだと、リュンクスは畏怖の念を抱く。
 
「っつ」
 
 歌が聞こえる。
 耳鳴りのような症状は、コーカサス地方に行った時と酷似していた。こんな時に、とリュンクスは唇を噛む。
 
『大丈夫?』
「うん、ありがとう。マイオールは俺が降りたら帰ってくれ」
 
 山の上の広場には、待っているグラキアスの魔術師が見えた。
 妖精竜を着陸させながら、リュンクスは自分に活を入れる。
 ノクトの顔に泥を塗る訳にはいかない。せめて挨拶が終わるまでは、しゃんとしていないと。
 幸い、まだ神霊は近くないようで、気にならない程度の違和感だ。我慢できる程度である。
 ノクトは、隣まで歩いてきたリュンクスの様子がおかしい事に気付いていたが、ここで甘やかすのは良くないと口をつぐむ。
 
「ノクト!」
 
 グラキアス側の魔術師は四人。
 待っていた中の一人、初老の黒いローブの魔術師が、真っ先にノクトを出迎えた。
 
「セルディール。ご無沙汰しており、すみません」
「相変わらず他人行儀だな。もう何年も前から家族なのに」
 
 セルディールは、大股で歩み寄ってノクトと軽く抱擁を交わした。
 対するノクトは妙にぎこちない。

 
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