158 / 266
*一年前* 海神の子
145 情報交換
しおりを挟む
ノクトの様子に気付き、セルディールは苦笑を浮かべた。
「私が怒っていると思ったのか。確かにベリアの件は悩んだが、それはお前を助けないという理由にはならないよ……その子か。お前が選んだサーヴァント属性の魔術師は」
挨拶を終えたセルディールの視線が、後ろで様子を見ていたリュンクスの方に向いた。
ノクトも、リュンクスも、内心冷や冷やした。
セルディールが娘のように可愛がっているダリアを捨て、ノクトが選んだのがリュンクスだ。
嫌味を言われても仕方ない関係である。
「リュンクス君、と言ったか」
しかし、セルディールが口にしたのは意外な言葉だった。
「料理が得意なんだって? 君と話したとベリアは言っていたよ。君のおかげで、ベリアが私に連絡してくれた」
ぽかんとしているリュンクスに、セルディールはにこにこ笑顔だ。
ノクトが引きつった表情で「リュンクス?」と言ったので、リュンクスは身をすくませる。
「はっはっは。お前達の面白い顔が見られて、私はとても楽しい。さあ、山を降りて仕事の話をしようじゃないか。積もる話はその後にしよう」
セルディールは、ノクトの肩を叩いて笑った。
それからリュンクス達は、他のグラキアスの魔術師とも挨拶を交わした。
灰色のローブを着た学生のリュンクスが混じっていることに、グラキアスの他の魔術師は驚いたようだが、帝国の人選にケチを付けるつもりはないようだ。差し障りの無い会話をするに留めた。
魔術師の一団はぞろぞろと街に降りる。
グラキアスの魔術師が複数連れ立って歩くだけでも珍しいのに、帝国の軍服を着た魔術師も同道しているので、リュンクス達は目立っていた。
一般市民から物珍しそうな視線を感じたが、無視して堂々と歩く。許可は降りており、両国の魔術師が合同で海域を調査するという名目なので、何も後ろめたい事はない。
海に出るのは明日で、今日はこのまま宿に泊り、グラキアスの魔術師と情報交換をする事になっている。
一緒に食事をすると、グラキアス側の魔術師との間に漂っていた緊張感は薄れた。
彼らは、リュンクスの連れている竜の子供に関心を示す。
竜の子供が小さな蜜柑を頬張る様子に「可愛い」と場の空気が和んだ。「どこで捕まえたのか」と聞かれ、リュンクスはどう説明するか困った。その頃には落ち着きを取り戻したノクトが「べフレートで。彼はべフレート近くの出身なんですよ」と適当に誤魔化してくれた。
食事に区切りが付いたところで、グラキアスの魔術師達とノクト達は、仕事の話を始めた。
「白骨死体が海から登ってきたということですが、ありえないんですよ。帝国の下流にあたるグラキアスの晴雲川、その海に通じる近辺は神霊の棲む領域に近い」
神霊……リュンクスは口を挟まずに、耳をそばだてる。
やはり、この海には神霊がいるらしい。
「神霊は陰気を好まない。あの海はいわば聖域。アンデッドが自然発生するなんて、ありえません」
「となると、誰かがアンデッドを量産して持ってきた、という事になるが」
「言うまでもありませんが、グラキアスの魔術師に、そんな大それた侵略を考える者はいません。帝国の魔術師を受け入れたのも、我々の誠意と考えて頂きたい」
「分かっていますよ。帝国もグラキアスを疑ってはいません。悪意のある第三者の仕業でしょう。犯人を捕まえたいところですが……」
「はい。魔術師が連れ立って歩くと目立ちますからね。頭のいい犯人なら、今頃逃げ出していることでしょう」
グラキアスと帝国を戦争させる意図は何だ、などと、ノクト達は議論を戦わせている。
しかし情報が不足しているということで、結論は出なかった。
リュンクスは議論を聞きながら、二枚貝をこじ開けて皿に積み上げる。初めて食べる海鮮は美味しかった。
仕事の話題が尽きると、途中から私的な会話になった。
グラキアス側は同僚同士で雑談を始める。
そんな中、セルディールが大人の会話に付いていけないリュンクスに気を使って話しかけてきた。
「ベリアは、ノクトに直接、連絡を取るのをためらって、私に連絡して来たんだよ。ノクトは気にしていないだろうと言ったんだがね」
セルディールは、リュンクスに感謝している理由を教えてくれる。どうもベリアもノクトも、なかなか実家のセルディールに連絡しないようだ。
「ノクトは本当に水くさい。私の事を、いつまで経ってもお父さんと呼んでくれないんだよ」
セルディールは泣き真似をして、リュンクスに「どう思う」と聞いてくる。
リュンクスは慣れない仕事の連続で、そろそろ限界だ。
必死に頭を働かせるが、疲労で思考がにぶり、上手い回答が思い付かない。
「リュンクス、先生に報告するんだろう。先に上がりなさい」
酒宴の雰囲気になってきた事を察し、ノクトはリュンクスを先に休ませる事にした。
適当な口実だが、他の魔術師達も「学生さんだから仕方ないな」と理解を示してくれる。
ノクトの相棒として彼らと情報交換し計画を立てる事は、リュンクスにはまだ荷が重かった。魔術を使うだけが仕事ではないと知り、リュンクスは「まだまだ修行が足りないな」と思ったが、ここは厚意に甘えて休むしかない。
「リュンクス」
挨拶して席を辞そうとするリュンクスの背中に、ノクトが声を掛ける。
「ありがとう」
ベリアの件で礼を言われたのだと分かった。
リュンクスは胸が温かくなったが、何も答えずにそのまま宿の一室へ向かった。
「私が怒っていると思ったのか。確かにベリアの件は悩んだが、それはお前を助けないという理由にはならないよ……その子か。お前が選んだサーヴァント属性の魔術師は」
挨拶を終えたセルディールの視線が、後ろで様子を見ていたリュンクスの方に向いた。
ノクトも、リュンクスも、内心冷や冷やした。
セルディールが娘のように可愛がっているダリアを捨て、ノクトが選んだのがリュンクスだ。
嫌味を言われても仕方ない関係である。
「リュンクス君、と言ったか」
しかし、セルディールが口にしたのは意外な言葉だった。
「料理が得意なんだって? 君と話したとベリアは言っていたよ。君のおかげで、ベリアが私に連絡してくれた」
ぽかんとしているリュンクスに、セルディールはにこにこ笑顔だ。
ノクトが引きつった表情で「リュンクス?」と言ったので、リュンクスは身をすくませる。
「はっはっは。お前達の面白い顔が見られて、私はとても楽しい。さあ、山を降りて仕事の話をしようじゃないか。積もる話はその後にしよう」
セルディールは、ノクトの肩を叩いて笑った。
それからリュンクス達は、他のグラキアスの魔術師とも挨拶を交わした。
灰色のローブを着た学生のリュンクスが混じっていることに、グラキアスの他の魔術師は驚いたようだが、帝国の人選にケチを付けるつもりはないようだ。差し障りの無い会話をするに留めた。
魔術師の一団はぞろぞろと街に降りる。
グラキアスの魔術師が複数連れ立って歩くだけでも珍しいのに、帝国の軍服を着た魔術師も同道しているので、リュンクス達は目立っていた。
一般市民から物珍しそうな視線を感じたが、無視して堂々と歩く。許可は降りており、両国の魔術師が合同で海域を調査するという名目なので、何も後ろめたい事はない。
海に出るのは明日で、今日はこのまま宿に泊り、グラキアスの魔術師と情報交換をする事になっている。
一緒に食事をすると、グラキアス側の魔術師との間に漂っていた緊張感は薄れた。
彼らは、リュンクスの連れている竜の子供に関心を示す。
竜の子供が小さな蜜柑を頬張る様子に「可愛い」と場の空気が和んだ。「どこで捕まえたのか」と聞かれ、リュンクスはどう説明するか困った。その頃には落ち着きを取り戻したノクトが「べフレートで。彼はべフレート近くの出身なんですよ」と適当に誤魔化してくれた。
食事に区切りが付いたところで、グラキアスの魔術師達とノクト達は、仕事の話を始めた。
「白骨死体が海から登ってきたということですが、ありえないんですよ。帝国の下流にあたるグラキアスの晴雲川、その海に通じる近辺は神霊の棲む領域に近い」
神霊……リュンクスは口を挟まずに、耳をそばだてる。
やはり、この海には神霊がいるらしい。
「神霊は陰気を好まない。あの海はいわば聖域。アンデッドが自然発生するなんて、ありえません」
「となると、誰かがアンデッドを量産して持ってきた、という事になるが」
「言うまでもありませんが、グラキアスの魔術師に、そんな大それた侵略を考える者はいません。帝国の魔術師を受け入れたのも、我々の誠意と考えて頂きたい」
「分かっていますよ。帝国もグラキアスを疑ってはいません。悪意のある第三者の仕業でしょう。犯人を捕まえたいところですが……」
「はい。魔術師が連れ立って歩くと目立ちますからね。頭のいい犯人なら、今頃逃げ出していることでしょう」
グラキアスと帝国を戦争させる意図は何だ、などと、ノクト達は議論を戦わせている。
しかし情報が不足しているということで、結論は出なかった。
リュンクスは議論を聞きながら、二枚貝をこじ開けて皿に積み上げる。初めて食べる海鮮は美味しかった。
仕事の話題が尽きると、途中から私的な会話になった。
グラキアス側は同僚同士で雑談を始める。
そんな中、セルディールが大人の会話に付いていけないリュンクスに気を使って話しかけてきた。
「ベリアは、ノクトに直接、連絡を取るのをためらって、私に連絡して来たんだよ。ノクトは気にしていないだろうと言ったんだがね」
セルディールは、リュンクスに感謝している理由を教えてくれる。どうもベリアもノクトも、なかなか実家のセルディールに連絡しないようだ。
「ノクトは本当に水くさい。私の事を、いつまで経ってもお父さんと呼んでくれないんだよ」
セルディールは泣き真似をして、リュンクスに「どう思う」と聞いてくる。
リュンクスは慣れない仕事の連続で、そろそろ限界だ。
必死に頭を働かせるが、疲労で思考がにぶり、上手い回答が思い付かない。
「リュンクス、先生に報告するんだろう。先に上がりなさい」
酒宴の雰囲気になってきた事を察し、ノクトはリュンクスを先に休ませる事にした。
適当な口実だが、他の魔術師達も「学生さんだから仕方ないな」と理解を示してくれる。
ノクトの相棒として彼らと情報交換し計画を立てる事は、リュンクスにはまだ荷が重かった。魔術を使うだけが仕事ではないと知り、リュンクスは「まだまだ修行が足りないな」と思ったが、ここは厚意に甘えて休むしかない。
「リュンクス」
挨拶して席を辞そうとするリュンクスの背中に、ノクトが声を掛ける。
「ありがとう」
ベリアの件で礼を言われたのだと分かった。
リュンクスは胸が温かくなったが、何も答えずにそのまま宿の一室へ向かった。
22
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる