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*一年前* 海神の子
147 星が綺麗だね
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海から上がったリュンクス達は、魔術で召喚した真水で体と衣服を洗い、風の魔術でさっと乾かした。
今は、宿への帰り道をのんびり歩いているところだ。
「星が綺麗だね。先輩もそう思わない?」
「そうだね」
夜空には、満天の星が散りばめられている。まるで金鉱石を割って砕いた粒を、手当り次第まぶしたみたいだ。
リュンクスは、上を見過ぎて時折小石につまづきそうになる。
苦笑するノクトが、そっと体を支えてくれた。
「海で泳ぎたかったなー」
「それは次の機会だね。明日も遊びたいけど、さすがにまずいかな。レナールが火を噴く」
君がもう少し大人になったら、二人で思う存分サボるんだけどね、とノクトは肩をすくめた。先輩は大人なのか子供なのか分からない。
リュンクスは最後にもう一度、月明かりに照らされる海を見ようと、振り返り……
「あ」
砂浜に立つ白い人影を目撃する。
遠目にも分かるほど、それは美しい女性だった。白銀の髪に白いドレスを着た貴人。長い髪とドレスの裾が、茉莉花《まつりか》の花びらのように風にひるがえる。
人間ではない証に、女性は背中に大きな白い鳥の翼を広げていた。
海の神霊だ。
本能的に、リュンクスは相手の正体に気付く。
仰天して立ち止まるリュンクスと、女性の視線が絡み合う。
透明な蛍石のように綺麗な面差しは、どこか非常に見覚えがあった。
女性は、うっすら微笑みを浮かべる。
それは慈愛に満ちた表情で、懐かしさが込み上げるような不思議な一瞬だった。
「どうしたんだい?」
「今、そこに……」
瞬きの間に、女性の姿は消えていた。
リュンクスは、きょとんとするノクトを見上げ、その容姿と先ほど見た女性の神霊の容姿が非常に似ている事に気付いた。
「……もしかして、先輩のお母さん?」
「何か見たのかな。私には見えなかったけど」
息子と、息子の友達を観察しに現れたらしい。しかし、ノクトと直接会って話すつもりはないようだ。そういうところ、親子でそっくりなのだな、とリュンクスは思った。
海辺の街で一泊した、その次の朝。
仕事は終わったから塔に帰りなさいと、先輩は言った。
「帝国には寄らなくていい。グラキアスの港でレナールに挨拶したら、そのまま妖精竜で塔へ帰りなさい」
「えー、もうちょっと先輩といたい。帝国まで先輩と帰ったら駄目なの?」
「駄目だ。ガウリルを覚えているかい?」
駄々をこねるリュンクスに動じる風でもなく、ノクトは理由を説明した。
ガウリルは、ノクトの上司である帝国の宮廷魔術師長だ。
出会い頭に、卒業後は帝国に来ないかと勧誘された。
「帝国に寄ったら、理由を付けてガウリルに呼ばれるだろう。あっという間に手籠《てごめ》にされてしまうよ」
「えぇ?!」
「宮廷魔術師の世界を甘く見てはいけない。優れたサーヴァントは奪い合いだ」
リュンクスは身震いした。最近ようやく自分が狙われる立場だと自覚してきたところだ。
ノクトは険しい面持ちで言った。
「分かってると思うが、くれぐれも私とカノン以外のマスターに付いていかないように。カノンに守ってもらいなさい。彼以外のマスターは、認めないからね」
「はーい」
ノクトは、リュンクスを他のマスターと共有するのは面倒だと考えている。行儀が良くて扱いやすいカノン以外、横槍を入れてくる邪魔なマスターは不要だ。
普段は嫉妬しない、リュンクスを放置だか放牧だか分からない状態で放り出すことも多い先輩が、こんな風に所有権を主張するのは稀なことだ。
めったにない先輩の独占欲を受け、リュンクスは機嫌よく承諾の返事をした。
今は、宿への帰り道をのんびり歩いているところだ。
「星が綺麗だね。先輩もそう思わない?」
「そうだね」
夜空には、満天の星が散りばめられている。まるで金鉱石を割って砕いた粒を、手当り次第まぶしたみたいだ。
リュンクスは、上を見過ぎて時折小石につまづきそうになる。
苦笑するノクトが、そっと体を支えてくれた。
「海で泳ぎたかったなー」
「それは次の機会だね。明日も遊びたいけど、さすがにまずいかな。レナールが火を噴く」
君がもう少し大人になったら、二人で思う存分サボるんだけどね、とノクトは肩をすくめた。先輩は大人なのか子供なのか分からない。
リュンクスは最後にもう一度、月明かりに照らされる海を見ようと、振り返り……
「あ」
砂浜に立つ白い人影を目撃する。
遠目にも分かるほど、それは美しい女性だった。白銀の髪に白いドレスを着た貴人。長い髪とドレスの裾が、茉莉花《まつりか》の花びらのように風にひるがえる。
人間ではない証に、女性は背中に大きな白い鳥の翼を広げていた。
海の神霊だ。
本能的に、リュンクスは相手の正体に気付く。
仰天して立ち止まるリュンクスと、女性の視線が絡み合う。
透明な蛍石のように綺麗な面差しは、どこか非常に見覚えがあった。
女性は、うっすら微笑みを浮かべる。
それは慈愛に満ちた表情で、懐かしさが込み上げるような不思議な一瞬だった。
「どうしたんだい?」
「今、そこに……」
瞬きの間に、女性の姿は消えていた。
リュンクスは、きょとんとするノクトを見上げ、その容姿と先ほど見た女性の神霊の容姿が非常に似ている事に気付いた。
「……もしかして、先輩のお母さん?」
「何か見たのかな。私には見えなかったけど」
息子と、息子の友達を観察しに現れたらしい。しかし、ノクトと直接会って話すつもりはないようだ。そういうところ、親子でそっくりなのだな、とリュンクスは思った。
海辺の街で一泊した、その次の朝。
仕事は終わったから塔に帰りなさいと、先輩は言った。
「帝国には寄らなくていい。グラキアスの港でレナールに挨拶したら、そのまま妖精竜で塔へ帰りなさい」
「えー、もうちょっと先輩といたい。帝国まで先輩と帰ったら駄目なの?」
「駄目だ。ガウリルを覚えているかい?」
駄々をこねるリュンクスに動じる風でもなく、ノクトは理由を説明した。
ガウリルは、ノクトの上司である帝国の宮廷魔術師長だ。
出会い頭に、卒業後は帝国に来ないかと勧誘された。
「帝国に寄ったら、理由を付けてガウリルに呼ばれるだろう。あっという間に手籠《てごめ》にされてしまうよ」
「えぇ?!」
「宮廷魔術師の世界を甘く見てはいけない。優れたサーヴァントは奪い合いだ」
リュンクスは身震いした。最近ようやく自分が狙われる立場だと自覚してきたところだ。
ノクトは険しい面持ちで言った。
「分かってると思うが、くれぐれも私とカノン以外のマスターに付いていかないように。カノンに守ってもらいなさい。彼以外のマスターは、認めないからね」
「はーい」
ノクトは、リュンクスを他のマスターと共有するのは面倒だと考えている。行儀が良くて扱いやすいカノン以外、横槍を入れてくる邪魔なマスターは不要だ。
普段は嫉妬しない、リュンクスを放置だか放牧だか分からない状態で放り出すことも多い先輩が、こんな風に所有権を主張するのは稀なことだ。
めったにない先輩の独占欲を受け、リュンクスは機嫌よく承諾の返事をした。
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