山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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*一年前* 海神の子

148 チルル復活!

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 再度、合流したレナール達と慌ただしく別れの挨拶をし、リュンクスは塔に戻ることになった。
 その帰り道。
 妖精竜の背中で、リュンクスは先輩との賭け事を思い出した。
 
「先輩の本当の親が誰か当てたら、何でも一つ言うことを聞いてくれるって言ってたのに」
 
 魔物の掃討作戦からドキドキすることの連続で、すっかり忘れていた。
 まあいいか、次の機会で。
 正直、ノクトに何を要求するか考えていなかった。
 この件は、いざという時の切り札として隠し持っておこうと、リュンクスは考える。

『カノンがいないから大丈夫だと思ったのに、リュンクスの先輩なにあれ怖い! 尻尾が凍っちゃうよ!』
「まだ俺のこと諦めてなかったの、マイオール」
 
 妖精竜は、ノクトに釘を刺されたので怯えている。先輩は例によって爽やかな笑顔で「リュンクスに尻尾の先っぽでも絡めたら凍らせるよ」と言ってのけたのだ。
 
『リュンクスは、怖いマスターに捕まって大変だねえ。僕はいつでもリュンクスの味方だよ!』
「うん……まあ、逃げたくなったら喚ぶよ」
 
 妖精竜の言うとおり、カノンもノクトも厄介なマスターではある。何が厄介って、彼らのする事のスケールの大きさだ。カノンは王様と呼ばれるほど塔の学生や教師への影響力があるし、ノクトは霧氷の二つ名を持つ有名な魔術師だ。
 彼らに合わせて成績を維持するのも大変だと、リュンクスは遠い目をする。途中で「付いていけない」と音《ね》を上げて逃げたくなったら、わりと真面目に妖精竜は役に立つかもしれない。
 そんなこんなでリュンクスはグラキアスから塔に帰ってきた。
 妖精竜から屋上に降り、塔の十階にある事務室で、任務完了の報告をする。
 
「カノン怒ってるかなあ」
 
 そうして、気が進まないがカノンの待つ、寮の自室に向かった。
 マスターにはサーヴァントの居場所が分かるという。
 リュンクスが自室のドアを開けると、腕組みしたカノンと目が合った。とっくに帰ってきたのに気付き、スタンバイしていたらしい。
 
「リュンクス……定時連絡はどうした? 何のための巻貝だ?」
「~~~っ」
 
 そこに直れと怒られ、リュンクスは寝台の上に正座して、カノンの説教を受けた。
 
「頼むから先輩の悪影響を受けないでくれ。君なら多少マスターに逆らっても平気だろう。怪しい場所に連れて行かれそうになったら抵抗を」
「おいカノン、無茶苦茶なこと言ってるの気付いてるか」
 
 リュンクスは途中でお説教に飽きた。
 荷物から、くたっとなっている竜の子を取り出す。
 帰り道にも火の魔術を食べさせたが、相変わらず調子悪そうだ。寝そべって鼻水をずるずるさせている。
 
「チルル。お前はそれでも火竜の端くれか」
 
 カノンは呆れた様子で、尻尾を持って竜の子を吊り下げた。
 マフラーがほろりと床に落ちる。
 
「燃え上がれ、ルベル・フレア」
 
 竜の子を逆さ吊りにしたまま、カノンは火の魔術を発動した。
 炎に包まれた竜の子がバタバタもがく。
 
「ちょっ、焚き火じゃねーんだから! チルルは食材じゃないぞ!」
 
 まるで鳥の丸焼きを作るかのような手荒な真似に、リュンクスはぎょっとした。
 
「チルルも苦しんで……苦しんで?」
 
 途中で気付く。
 竜の子はバタバタしながら、炎が翼に当たるように体をねじっている。それはまるでシャワーを浴びる人間のようで。
 カノンの手の下でぶらんぶらん揺れる竜の子は、悲壮感の欠片もなく……どちらかというと、喜んでいた。
 
「……」
「これで良いだろう」
 
 カノンがぱっと手を離すと、竜の子は宙返りしながら落下した。気のせいか鱗が磨いたように艷やかになっている。
 翼を広げ、竜の子は鮮やかに床に降り立った。
 人間の言葉が話せるなら「復活」と叫んでいるだろう。
 目をキラキラさせてリュンクスを見上げる。
 
「竜種って……竜種って」
 
 よく分からん。とリュンクスは真剣に思った。
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