山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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*一年前* 冬至祭

157 贈り物

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 セドリックが爆破した鍋を、どうにかしなければならない。
 
「カノン~~、今度の冬至祭ユールで、俺に鍋を買って!」
 
 自室に帰って、おねだりをすると、カノンは頭痛をこらえるように眉間を押さえた。
 
「リュンクス……なぜ毎年毎年、冬至祭で俺に生活用品を買わせるんだ」
 
 冬至は、一年の内でもっとも太陽が出ている時間が短くなる日だ。人々は太陽の再生を願って、冬至に祭りを行う。
 魔術師にとって、冬至祭ユールはかき入れ時だ。
 というのも、日が短くなる冬至には魔物の動きが活発化するため、人里に結界を張るので忙しくなるからだ。
 それはそれとして、祭りにかこつけてプレゼントを交換する風習もあった。地方によって祭りの習慣が違うので、必ずという訳ではないのだが。
 カノンは、毎年のように「何か欲しいものはあるか?」とリュンクスに聞く。

「えー、実用品がいいって、いつも言ってるじゃん」
「去年はハサミで、一昨年は箒だったな。今年は鍋だと?」
 
 王族の係累であるカノンの実家はお金持ちだ。
 しかしカノンは、塔にいる間、なるべく実家の資産を使うのは、控えていた。彼は公平性を大切にしており、他の生徒と同じ条件で授業を受けるよう心掛けている。
 ただし、例外はあって「誰かのため」だったり、あるいはその真逆で「誰にも迷惑を掛けない自分の趣味」には、金を出すことをいとわない。
 リュンクスを愛でるのは、例外の範疇だ。
 したがって、宝石や金品をプレゼントするのもやぶさかではないのだが、肝心のリュンクスが「俺は食べ物か実用品がいい」と毎回断るのである。

「いいじゃないか。俺がもらった鍋で、カノンにシチューを作る! プレゼントのお返しができて一石二鳥だな!」
「……」
 
 そういう話ではないのだが、とカノンは思う。
 しかもリュンクスは、料理用の鍋で薬剤を調合する気だ。
 混ぜるな危険と言いたいが、料理も薬も変なものが出てきたことはない。その辺リュンクスは非常に器用だった。
 
「……セドリックと仲直りしたのか」
 
 諦めてカノンは話題を変える。
 その台詞で、リュンクスは先生から聞いた衝撃の真実を思い出した。
 カノンに、先生達の同級生に吸血鬼がいたこと、その吸血鬼がセドリックのマスターだったことを説明する。

「俺はブリスト家のたしなみとして、アウレルムの政治を学んできた。組織を運用するというのは、必ずしも綺麗事ばかりではない」
 
 話を聞いたカノンは腕組みして言った。
 リュンクスは唇を尖らせた。
 
「カノンは、塔の隠蔽は正しいと思ってるのかよ」
「いや……」
 
 カノンは珍しく言葉をにごした。
 明るい黄金の瞳が、つかの間陰りを帯びる。
 
「俺はずっと……それを疑問に思っているのかもしれないな。大義の前に人の尊厳を踏みにじるのが、正しい事なのかどうか」
 
 最初から迷っていた、とカノンは呟いた。
 
「君を見た時に、強引にでも手に入れなければならないと感じた。しかし、知識も何もない君を、無理やりサーヴァントにするのは気が引けて、様子を見ていた。だから先輩に奪われた」
「俺はカノンの誠実さを知ってるよ。今までずっと見てきた」
 
 リュンクスは、腕を伸ばして、カノンに抱きつく。
 ずっと一緒にいた。これからも、ずっと一緒にいるのだろうと思う。
 
「迷うお前だから、好きになったんだよ」

 カノンの黄金の瞳が驚いたように見開かれた。
 
「リュンクス。君に好きと言われたのは、初めてだ」
「……あ」
 
 そういえば、言ったことなかったっけ。
 リュンクスは赤面した。
 
「カノンだって、言ってないじゃん」
「俺は言ったぞ」
「いつ?」
「アウレルムに来て欲しいと言った」
 
 確かに、あれは告白だった。
 好きとは言っていないけれど、それを指摘するのは野暮だと、さすがのリュンクスも分かっている。
 カノンは、羞恥に体を離そうとするリュンクスの腕を強く握り、逃がすまいと上から覗き込む。
 
「分からないなら、もう一度言おうか。好きだ。リュンクス、卒業後は、俺とアウレルムに来て欲しい」
 
 直球の告白だった。
 触れ合った体温が焼けるように熱い。焚火の側にいるように、胸の底が温かかった。じわじわと歓喜がこみ上げる。
 以前は、先輩が好きだからと断った。
 あの時。それでもカノンは構わないと言った。
 卒業まではパートナーでいようと誓い、他のサーヴァントに目もくれず、リュンクスだけを側に置いてくれたのだ。
 けして諦めず、ただ誠実にリュンクスの希望と向き合ってくれた。
 ここまでされて揺らがないのは、心の無い人間だけだ。
 
「……うん。一緒にアウレルムに行く」

 リュンクスがそう答えると、カノンは子供のように「やった」と言って嬉しそうに笑った。ぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。
 
「先輩は諦めてないと思うけど」
 
 喜びに水を差すようで悪いが、まだ本当の決着は付いていない。
 リュンクスが指摘したが、カノンは動揺しなかった。
 
「君も、だろう。先輩との絆を切り離せないのは承知している。だが、俺との絆も、もう絶ち切ることはできない。リュンクス、君は俺のものだ」
 
 食らいつくような口付けが降ってくる。
 その執着を、嬉しいと、リュンクスは思った。
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