181 / 266
*一年前* 冬至祭
157 贈り物
しおりを挟む
セドリックが爆破した鍋を、どうにかしなければならない。
「カノン~~、今度の冬至祭で、俺に鍋を買って!」
自室に帰って、おねだりをすると、カノンは頭痛をこらえるように眉間を押さえた。
「リュンクス……なぜ毎年毎年、冬至祭で俺に生活用品を買わせるんだ」
冬至は、一年の内でもっとも太陽が出ている時間が短くなる日だ。人々は太陽の再生を願って、冬至に祭りを行う。
魔術師にとって、冬至祭はかき入れ時だ。
というのも、日が短くなる冬至には魔物の動きが活発化するため、人里に結界を張るので忙しくなるからだ。
それはそれとして、祭りにかこつけてプレゼントを交換する風習もあった。地方によって祭りの習慣が違うので、必ずという訳ではないのだが。
カノンは、毎年のように「何か欲しいものはあるか?」とリュンクスに聞く。
「えー、実用品がいいって、いつも言ってるじゃん」
「去年はハサミで、一昨年は箒だったな。今年は鍋だと?」
王族の係累であるカノンの実家はお金持ちだ。
しかしカノンは、塔にいる間、なるべく実家の資産を使うのは、控えていた。彼は公平性を大切にしており、他の生徒と同じ条件で授業を受けるよう心掛けている。
ただし、例外はあって「誰かのため」だったり、あるいはその真逆で「誰にも迷惑を掛けない自分の趣味」には、金を出すことを厭わない。
リュンクスを愛でるのは、例外の範疇だ。
したがって、宝石や金品をプレゼントするのも吝かではないのだが、肝心のリュンクスが「俺は食べ物か実用品がいい」と毎回断るのである。
「いいじゃないか。俺がもらった鍋で、カノンにシチューを作る! プレゼントのお返しができて一石二鳥だな!」
「……」
そういう話ではないのだが、とカノンは思う。
しかもリュンクスは、料理用の鍋で薬剤を調合する気だ。
混ぜるな危険と言いたいが、料理も薬も変なものが出てきたことはない。その辺リュンクスは非常に器用だった。
「……セドリックと仲直りしたのか」
諦めてカノンは話題を変える。
その台詞で、リュンクスは先生から聞いた衝撃の真実を思い出した。
カノンに、先生達の同級生に吸血鬼がいたこと、その吸血鬼がセドリックのマスターだったことを説明する。
「俺はブリスト家の嗜みとして、アウレルムの政治を学んできた。組織を運用するというのは、必ずしも綺麗事ばかりではない」
話を聞いたカノンは腕組みして言った。
リュンクスは唇を尖らせた。
「カノンは、塔の隠蔽は正しいと思ってるのかよ」
「いや……」
カノンは珍しく言葉をにごした。
明るい黄金の瞳が、つかの間陰りを帯びる。
「俺はずっと……それを疑問に思っているのかもしれないな。大義の前に人の尊厳を踏みにじるのが、正しい事なのかどうか」
最初から迷っていた、とカノンは呟いた。
「君を見た時に、強引にでも手に入れなければならないと感じた。しかし、知識も何もない君を、無理やりサーヴァントにするのは気が引けて、様子を見ていた。だから先輩に奪われた」
「俺はカノンの誠実さを知ってるよ。今までずっと見てきた」
リュンクスは、腕を伸ばして、カノンに抱きつく。
ずっと一緒にいた。これからも、ずっと一緒にいるのだろうと思う。
「迷うお前だから、好きになったんだよ」
カノンの黄金の瞳が驚いたように見開かれた。
「リュンクス。君に好きと言われたのは、初めてだ」
「……あ」
そういえば、言ったことなかったっけ。
リュンクスは赤面した。
「カノンだって、言ってないじゃん」
「俺は言ったぞ」
「いつ?」
「アウレルムに来て欲しいと言った」
確かに、あれは告白だった。
好きとは言っていないけれど、それを指摘するのは野暮だと、さすがのリュンクスも分かっている。
カノンは、羞恥に体を離そうとするリュンクスの腕を強く握り、逃がすまいと上から覗き込む。
「分からないなら、もう一度言おうか。好きだ。リュンクス、卒業後は、俺とアウレルムに来て欲しい」
直球の告白だった。
触れ合った体温が焼けるように熱い。焚火の側にいるように、胸の底が温かかった。じわじわと歓喜がこみ上げる。
以前は、先輩が好きだからと断った。
あの時。それでもカノンは構わないと言った。
卒業まではパートナーでいようと誓い、他のサーヴァントに目もくれず、リュンクスだけを側に置いてくれたのだ。
けして諦めず、ただ誠実にリュンクスの希望と向き合ってくれた。
ここまでされて揺らがないのは、心の無い人間だけだ。
「……うん。一緒にアウレルムに行く」
リュンクスがそう答えると、カノンは子供のように「やった」と言って嬉しそうに笑った。ぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。
「先輩は諦めてないと思うけど」
喜びに水を差すようで悪いが、まだ本当の決着は付いていない。
リュンクスが指摘したが、カノンは動揺しなかった。
「君も、だろう。先輩との絆を切り離せないのは承知している。だが、俺との絆も、もう絶ち切ることはできない。リュンクス、君は俺のものだ」
食らいつくような口付けが降ってくる。
その執着を、嬉しいと、リュンクスは思った。
「カノン~~、今度の冬至祭で、俺に鍋を買って!」
自室に帰って、おねだりをすると、カノンは頭痛をこらえるように眉間を押さえた。
「リュンクス……なぜ毎年毎年、冬至祭で俺に生活用品を買わせるんだ」
冬至は、一年の内でもっとも太陽が出ている時間が短くなる日だ。人々は太陽の再生を願って、冬至に祭りを行う。
魔術師にとって、冬至祭はかき入れ時だ。
というのも、日が短くなる冬至には魔物の動きが活発化するため、人里に結界を張るので忙しくなるからだ。
それはそれとして、祭りにかこつけてプレゼントを交換する風習もあった。地方によって祭りの習慣が違うので、必ずという訳ではないのだが。
カノンは、毎年のように「何か欲しいものはあるか?」とリュンクスに聞く。
「えー、実用品がいいって、いつも言ってるじゃん」
「去年はハサミで、一昨年は箒だったな。今年は鍋だと?」
王族の係累であるカノンの実家はお金持ちだ。
しかしカノンは、塔にいる間、なるべく実家の資産を使うのは、控えていた。彼は公平性を大切にしており、他の生徒と同じ条件で授業を受けるよう心掛けている。
ただし、例外はあって「誰かのため」だったり、あるいはその真逆で「誰にも迷惑を掛けない自分の趣味」には、金を出すことを厭わない。
リュンクスを愛でるのは、例外の範疇だ。
したがって、宝石や金品をプレゼントするのも吝かではないのだが、肝心のリュンクスが「俺は食べ物か実用品がいい」と毎回断るのである。
「いいじゃないか。俺がもらった鍋で、カノンにシチューを作る! プレゼントのお返しができて一石二鳥だな!」
「……」
そういう話ではないのだが、とカノンは思う。
しかもリュンクスは、料理用の鍋で薬剤を調合する気だ。
混ぜるな危険と言いたいが、料理も薬も変なものが出てきたことはない。その辺リュンクスは非常に器用だった。
「……セドリックと仲直りしたのか」
諦めてカノンは話題を変える。
その台詞で、リュンクスは先生から聞いた衝撃の真実を思い出した。
カノンに、先生達の同級生に吸血鬼がいたこと、その吸血鬼がセドリックのマスターだったことを説明する。
「俺はブリスト家の嗜みとして、アウレルムの政治を学んできた。組織を運用するというのは、必ずしも綺麗事ばかりではない」
話を聞いたカノンは腕組みして言った。
リュンクスは唇を尖らせた。
「カノンは、塔の隠蔽は正しいと思ってるのかよ」
「いや……」
カノンは珍しく言葉をにごした。
明るい黄金の瞳が、つかの間陰りを帯びる。
「俺はずっと……それを疑問に思っているのかもしれないな。大義の前に人の尊厳を踏みにじるのが、正しい事なのかどうか」
最初から迷っていた、とカノンは呟いた。
「君を見た時に、強引にでも手に入れなければならないと感じた。しかし、知識も何もない君を、無理やりサーヴァントにするのは気が引けて、様子を見ていた。だから先輩に奪われた」
「俺はカノンの誠実さを知ってるよ。今までずっと見てきた」
リュンクスは、腕を伸ばして、カノンに抱きつく。
ずっと一緒にいた。これからも、ずっと一緒にいるのだろうと思う。
「迷うお前だから、好きになったんだよ」
カノンの黄金の瞳が驚いたように見開かれた。
「リュンクス。君に好きと言われたのは、初めてだ」
「……あ」
そういえば、言ったことなかったっけ。
リュンクスは赤面した。
「カノンだって、言ってないじゃん」
「俺は言ったぞ」
「いつ?」
「アウレルムに来て欲しいと言った」
確かに、あれは告白だった。
好きとは言っていないけれど、それを指摘するのは野暮だと、さすがのリュンクスも分かっている。
カノンは、羞恥に体を離そうとするリュンクスの腕を強く握り、逃がすまいと上から覗き込む。
「分からないなら、もう一度言おうか。好きだ。リュンクス、卒業後は、俺とアウレルムに来て欲しい」
直球の告白だった。
触れ合った体温が焼けるように熱い。焚火の側にいるように、胸の底が温かかった。じわじわと歓喜がこみ上げる。
以前は、先輩が好きだからと断った。
あの時。それでもカノンは構わないと言った。
卒業まではパートナーでいようと誓い、他のサーヴァントに目もくれず、リュンクスだけを側に置いてくれたのだ。
けして諦めず、ただ誠実にリュンクスの希望と向き合ってくれた。
ここまでされて揺らがないのは、心の無い人間だけだ。
「……うん。一緒にアウレルムに行く」
リュンクスがそう答えると、カノンは子供のように「やった」と言って嬉しそうに笑った。ぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。
「先輩は諦めてないと思うけど」
喜びに水を差すようで悪いが、まだ本当の決着は付いていない。
リュンクスが指摘したが、カノンは動揺しなかった。
「君も、だろう。先輩との絆を切り離せないのは承知している。だが、俺との絆も、もう絶ち切ることはできない。リュンクス、君は俺のものだ」
食らいつくような口付けが降ってくる。
その執着を、嬉しいと、リュンクスは思った。
22
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!
黒木 鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる