山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

文字の大きさ
184 / 266
*一年前* 冬至祭

160 三人の関係

しおりを挟む
 リュンクスの希望は『君が決めると面白くないから』という理由で却下された。いったい誰にとっての面白さだろうか。
 カノンは真面目な顔で「マスターは他者の意見に揺れてはいけないのだ」と力説していたが、実際のところ、やっぱり自分の好きにしたいだけのように思う。
 そして、マスターに振り回されると嬉しいサーヴァントの性質で、リュンクスは結局二人に逆らえないのだ。
 
「はぁー。先輩なにくれるんだろ……?」
「リュンクス、目がハートになってるよ」
 
 研究室でセドリックと薬を調合しながら、リュンクスは夢心地でつぶやいた。
 ノクトの台詞は本気とも冗談ともつかないものだったが、経験上ふざけながらも要点は押さえ、リュンクスの喜ぶ事をしてくれると分かっている。
 巻貝と守護輪ミサンガしか、まだもらったことがない。
 冬至にいったい何をくれるのだろうと、あれこれ想像をする。
 
「楽しそうだね。その分だと、僕は本当に望み薄か」
「あ……ごめん、セドリック」
「いや、分かっていたことだよ。この部屋でずっと、君達を見てきたからね」
 
 セドリックの告白を忘れた訳ではないが、ついノクトの事で頭がいっぱいになってしまっていた。
 リュンクスは、セドリックの前で惚気のろけるべきではなかったと自省する。
 一方のセドリックは、苦笑していたが、落ち込んでいる様子はない。最初から分かっていたと冷静だ。
 
「実際のところ、二人のどっちが好きなの?」
「両方」
 
 リュンクスは即答した。
 あまりに素早い解答にセドリックは困った顔になる。
 
「それじゃ答えにならないよ。どっちか一人しか選べないとしたら、どっちにするの。例えば、手を離したらどっちかが死ぬみたいな状況でさ」
 
 ほら、崖っぷちで落ちるイメージだよ、とセドリックは手振り身振りで説明した。
 リュンクスは唇に指をあてて考えた。
 
「……三人で一緒に落ちるか、または三人で一緒に助かる方法を探す気がする」

 カノンは「俺だけ助かるのは公平じゃない」とか言い出しそうだし、先輩は「私は年寄りだから、若い方に譲るよ」と言って肝心なところで遠慮しそうだ。

「三人で仲良く? と普通なら思うけど、実際に君達の会話を聞いてると、あながち否定できないんだよね。君のマスター二人、意外に仲良くやってるよね」

 セドリックは、この部屋で行われるやり取りを見聞きしている。

「うん。あいつらは仲良くないって言うんだけど、あれは普通に友達レベルだと思うな」
 
 リュンクスのいないところで連絡を取り合ったり、魔術について議論を戦わせたりしているらしい。
 気の合わない相手と、そんなことをするだろうか。

冬至祭ユールかぁ。昔、祭りの夜に二人で抜け出して、塔の十一階にこっそり登った事がある」
 
 セドリックは、ふっと遠い目をした。
 その二人の片方、セドリックを連れ出した相手は、マスターのカーマインなのだろう。
 しかしセドリックは、彼の名前を口にしない。
 
「祭りの夜は、塔の中は立ち入り禁止になる。だけど彼は、行こうと僕の手を引いて」
 
 リュンクスは、黙って話を聞く。
 
「十一階に着いた途端に、雪が降り出したんだ。塔の下には祭りの灯りが点々と付いていて、その上に銀白の雪が舞っていた。とても印象的だったよ」

 聞いていて、リュンクスは切なくなった。
 セドリックはもう二度と、愛するマスターと十一階から雪景色を見る事はできないのだ。
 
「気にしないで」
 
 リュンクスが悲しそうにしている事に気付き、セドリックは淡く微笑んだ。
 
「生きている内に楽しまなきゃ。リュンクスは先輩とカノンと、十一階で雪景色を見ておいでよ。とっても綺麗なんだよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

処理中です...