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*一年前* 冬至祭
161 お祭り当日
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何とかセドリックを部屋から出す方法を見つけたいリュンクスだったが、休暇から戻ってきたセイエルが捕まらない。
多忙の上に、生徒が次々に相談に訪れる。
リュンクスは同じ七階に研究室があるので、研究しながら待てばいいと気楽に考えていた。
それが良くなかった。
自分の研究に夢中になり、気が付くと塔から出る時間だったりする。部屋が近くだと油断してしまうのだ。
セイエルに相談できないまま、冬至になってしまった。
冬至祭の当日。
先輩が休みを取って塔に戻って来た。
「祭りの雰囲気を味わうのは、久しぶりだ」
ノクトは懐かしそうに目を細める。
彼の目線の先には、扉に飾られた柊《ひいらぎ》の枝や、各所に吊られた星のオーナメントがある。
リュンクスは屋上に先輩を迎えに行った。
今は、二人で階段を降りているところだ。
「カノンは?」
「地上で篝火を付けるのを手伝わされてる。あいつ在校生で一番強い火の魔術師だから」
「やっぱりね。やけに素直に冬至祭の当日を譲ると思ったよ」
カノンは自治会のリーダーに就任した事もあり、冬至祭の設営を手伝わされている。ノクトの件がなくたって、実は忙しくてリュンクスと一緒に過ごせないのだ。
魔物の多くは火を嫌がる。
日が短い冬至の数日は、塔の周囲に点々と巨大な篝火を焚く。それに火を灯すのは、本来は塔の教師の仕事のはずだが、カノンは有能過ぎて大人扱いされていた。
自治会の仕事ついでに、教師にやってくれと頼まれたそうだ。
事情を聞いたノクトは真面目な顔で言った。
「退魔の結界は、火の魔術師がやった方がいいんだよ。自然に火の元素を帯びるから、陰気が寄り付かない。私みたいな水の魔術師は、水の元素が陰気を生じさせるから、かえって魔物を呼んでしまうんだ」
「先輩、もっともらしく言うけど、仕事サボる理由にはならねーぞ」
リュンクスは鋭く突っ込んだ。
「ははは、リュンクスは最近、可愛くなくなってきたな」
ノクトは、からからと笑った。
ちなみに竜の子は、今日はカノンと一緒にいる。火の魔術を使う時に火竜がいると何かと効率がいいから、カノンが連れて行ったのだ。
おかげでリュンクスは首元が少し寒い。竜の子はうっすら熱気を帯びているため、首に巻くと良いマフラー代わりだったのだ。
リュンクスとノクトは雑談しながら、塔の一階まで降りる。
一階に着くと、鍵束を持った教師が、早く出ろと促した。
「ノクト・クラブス。知っているでしょうが、冬至祭《ユール》の間、塔内は立ち入り禁止です。陰気が強くなり、悪霊の力が増しますので」
「知っていますよ。何故、強調するんですか?」
「過去の行動を振り返ってみなさい。あなたの隣にいる後輩を危険にさらす真似はしないように!」
教師は、階段の前の扉をバタンと閉めて施錠する。
ノクトは肩をすくめた。
「私ももう子供じゃないから、夜に塔を探検したりしないよ」
「……」
「リュンクス、その顔はなんだい」
前に真夜中の塔を探検させられた事を思い出し、半眼になっていると、ノクトに「可愛くないよ」と頬をつねられた。
塔の外に出ると、パーティー会場が設営されている。
玄関前から寮の建物近くまで、敷地いっぱいを使って、屋外にテーブルや椅子が並べられていた。冬至祭では、空の下で星を見上げながら、開放的に食事を楽しむ。
リュンクスも実は事前に準備を手伝っていた……主に料理の方だ。今はもう、調理済の食べ物が溢れんばかりに皿に積まれ、テーブルの上に所狭しと並べられている。
「あ、ノクト先輩! 戻ってきてたんですか」
五年生の一人が、ノクトに気付いて近寄ってきた。
お祭りの賑やかな立食パーティーなので、ちょっとした知り合いでも声を掛けやすい雰囲気だ。
もともと有名人のノクトには、隠れた信徒やら、付き合いのあったサーヴァントやら、知り合いが沢山いる。彼らはノクトの隣にいるリュンクスに気付いているが、祭りの無礼講に乗っかって今日ばかりは遠慮なかった。
「帝国はどんなところですか?」
「宮廷魔術師の仕事について教えて下さい!」
わらわら集まってくる下級生に、ノクトは余裕たっぷりに笑む。
「一人ずつ、答えるから、静かにしなさい」
けして圧迫感のない、優しい口調なのだが、よく通る声だった。集まってきた生徒達は、大人しくなる。彼らはノクトを取り巻き、和気あいあいと質問を始めた。
先輩と二人きりを邪魔されたリュンクスは、へそを曲げて葡萄ジュースをがぶ飲みする。
いっそカノンのところに行きたいと思ったが、おそらくカノンのところも似たようなものだ。人気なマスターを持つと苦労すると遠い目をした。
多忙の上に、生徒が次々に相談に訪れる。
リュンクスは同じ七階に研究室があるので、研究しながら待てばいいと気楽に考えていた。
それが良くなかった。
自分の研究に夢中になり、気が付くと塔から出る時間だったりする。部屋が近くだと油断してしまうのだ。
セイエルに相談できないまま、冬至になってしまった。
冬至祭の当日。
先輩が休みを取って塔に戻って来た。
「祭りの雰囲気を味わうのは、久しぶりだ」
ノクトは懐かしそうに目を細める。
彼の目線の先には、扉に飾られた柊《ひいらぎ》の枝や、各所に吊られた星のオーナメントがある。
リュンクスは屋上に先輩を迎えに行った。
今は、二人で階段を降りているところだ。
「カノンは?」
「地上で篝火を付けるのを手伝わされてる。あいつ在校生で一番強い火の魔術師だから」
「やっぱりね。やけに素直に冬至祭の当日を譲ると思ったよ」
カノンは自治会のリーダーに就任した事もあり、冬至祭の設営を手伝わされている。ノクトの件がなくたって、実は忙しくてリュンクスと一緒に過ごせないのだ。
魔物の多くは火を嫌がる。
日が短い冬至の数日は、塔の周囲に点々と巨大な篝火を焚く。それに火を灯すのは、本来は塔の教師の仕事のはずだが、カノンは有能過ぎて大人扱いされていた。
自治会の仕事ついでに、教師にやってくれと頼まれたそうだ。
事情を聞いたノクトは真面目な顔で言った。
「退魔の結界は、火の魔術師がやった方がいいんだよ。自然に火の元素を帯びるから、陰気が寄り付かない。私みたいな水の魔術師は、水の元素が陰気を生じさせるから、かえって魔物を呼んでしまうんだ」
「先輩、もっともらしく言うけど、仕事サボる理由にはならねーぞ」
リュンクスは鋭く突っ込んだ。
「ははは、リュンクスは最近、可愛くなくなってきたな」
ノクトは、からからと笑った。
ちなみに竜の子は、今日はカノンと一緒にいる。火の魔術を使う時に火竜がいると何かと効率がいいから、カノンが連れて行ったのだ。
おかげでリュンクスは首元が少し寒い。竜の子はうっすら熱気を帯びているため、首に巻くと良いマフラー代わりだったのだ。
リュンクスとノクトは雑談しながら、塔の一階まで降りる。
一階に着くと、鍵束を持った教師が、早く出ろと促した。
「ノクト・クラブス。知っているでしょうが、冬至祭《ユール》の間、塔内は立ち入り禁止です。陰気が強くなり、悪霊の力が増しますので」
「知っていますよ。何故、強調するんですか?」
「過去の行動を振り返ってみなさい。あなたの隣にいる後輩を危険にさらす真似はしないように!」
教師は、階段の前の扉をバタンと閉めて施錠する。
ノクトは肩をすくめた。
「私ももう子供じゃないから、夜に塔を探検したりしないよ」
「……」
「リュンクス、その顔はなんだい」
前に真夜中の塔を探検させられた事を思い出し、半眼になっていると、ノクトに「可愛くないよ」と頬をつねられた。
塔の外に出ると、パーティー会場が設営されている。
玄関前から寮の建物近くまで、敷地いっぱいを使って、屋外にテーブルや椅子が並べられていた。冬至祭では、空の下で星を見上げながら、開放的に食事を楽しむ。
リュンクスも実は事前に準備を手伝っていた……主に料理の方だ。今はもう、調理済の食べ物が溢れんばかりに皿に積まれ、テーブルの上に所狭しと並べられている。
「あ、ノクト先輩! 戻ってきてたんですか」
五年生の一人が、ノクトに気付いて近寄ってきた。
お祭りの賑やかな立食パーティーなので、ちょっとした知り合いでも声を掛けやすい雰囲気だ。
もともと有名人のノクトには、隠れた信徒やら、付き合いのあったサーヴァントやら、知り合いが沢山いる。彼らはノクトの隣にいるリュンクスに気付いているが、祭りの無礼講に乗っかって今日ばかりは遠慮なかった。
「帝国はどんなところですか?」
「宮廷魔術師の仕事について教えて下さい!」
わらわら集まってくる下級生に、ノクトは余裕たっぷりに笑む。
「一人ずつ、答えるから、静かにしなさい」
けして圧迫感のない、優しい口調なのだが、よく通る声だった。集まってきた生徒達は、大人しくなる。彼らはノクトを取り巻き、和気あいあいと質問を始めた。
先輩と二人きりを邪魔されたリュンクスは、へそを曲げて葡萄ジュースをがぶ飲みする。
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