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*一年前* 冬至祭
165 聖なる力
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「大丈夫か、リュンクス」
青ざめて動かなくなったリュンクスに気付き、カノンが心配そうに声を掛ける。
そして自分の首に巻き付いている竜の子を外すと、リュンクスの肩に置いた。竜の子は「チー?」と鳴き、尻尾をリュンクスの首筋に絡ませる。その温かい感触に、リュンクスはほっとした。
ノクトは上空を見上げて言う。
「塔の上層に陰気が溜まっているようだね。私はうっすらとしか感じないが……サーヴァントは私達より敏感だ」
カノンも先輩も、リュンクスが感じているような嫌悪は感じていないようだ。
ただ険しい面持ちで、上空を見つめている。
「このまま上層に登ると、陰気でローブが汚れそうだ。リュンクスも怯えている」
ノクトは何か決心したようだ。
中庭に向かって足を踏み出した。
「どうするつもりだ?」
内部の階段への扉を解錠していたカノンが、手を止めて聞く。
「中に入ってしまうと、塔の全体に魔術を使えないからね。先にここから陰気を祓ってしまおう」
ノクトは事もなげに言った。
カノンが「祓えないから塔を封鎖しているんだぞ」と困惑している。
「先生達は、単に労力を割きたくないだけさ。陽光が射せば、自然と祓われるものを、わざわざ大きな魔力を使ってまで祓う必要はない……」
暗闇の底に銀の風が吹く。
ノクトが滑らかに呪文を紡ぐ。しかし、その呪文は途中から音階を持った歌に変化した。
歌っている。
リュンクスは、海辺で聞いた神霊の歌を思い出した。
あの時と同じだ。
「……!」
ノクトの周囲に湧いた清冽な空気が、一気に噴き上がって、上空の黒い塊を直撃する。陰気が消滅して、塔の中央に光が射し込んだ。
外の雪の欠片だろうか。
銀光の鱗片が、舞い散る花びらのように上空から降ってくる。
リュンクスとカノンは言葉もなかった。
「……何の魔術だ?」
カノンが不思議そうにする。
呆然としていたリュンクスは、その言葉で我に返る。
魔術じゃない。神霊の力だ。
海辺の街で、グラキアスの魔術師が言っていたではないか。
神霊は陰気を嫌う。彼らのいる場所は聖域となり、アンデッドは発生しないと。
「さあ、これでしばらくは大丈夫。今のうちに上まで行こう」
ノクトは不敵な笑みを浮かべ、リュンクスの背中を押す。神霊の力を使っているのは秘密なのだろう。カノンには説明しなかった。事情を知るリュンクスは「水の元素は陰気を呼ぶ」から神霊の力を使ったのだろうと思う。
背中を押されたリュンクスは慌てて、カノンに続き階段を登り始めた。
「それにしても、残念だ。せっかくリュンクスと二人きりで、塔を探検できる機会だったのに」
殿を歩くノクトが嘆く。
先頭のカノンが足を止め振り返った。
上段から見下ろし、無表情で宣う。
「リュンクスから、アウレルムに来るという言質を取った。別れ話をするなら、二人きりの時間を作ってやってもいい」
明後日から矢が飛んできたようなものだ。
カノンの言葉に、リュンクスは動揺して立ちすくむ。
「五年生の答え合わせまで待たずに、私に喧嘩を売る気かな。それとも私を試しているのか。不遜だぞ、カノン・ブリスト」
外の冷気を遮断する塔の中なのに、にわかに気温が下がる。口の端に冷笑を浮かべたノクトは、いつもと違い狼のような獰猛さを漂わせていた。
二人はリュンクスを挟んで火花を散らす。
カノンから揺らめく金炎の熱気が、ノクトからは凍てつく氷晶の空気が流れ出す。
まさに一触即発。
一瞬、どちらを諌《いさ》めるか迷ったリュンクスだが、覚悟を決めて発言する。
「二人とも、ストップ」
両方と付き合うと決めたのだ。
状況に流されるままだと、二人共を失ってしまう。だから単独で研究する事にした。全ては、二人が角を突き合わせるこの日のために。リュンクスは準備をしてきたのだ。
「カノン、今日は俺と先輩を優先してくれる約束だろ」
「……」
「先輩、五年生の答え合わせを待ってくれるつもりじゃないの? 頭に血が登ってるよ?」
声を上げれば、二人はしばし無言でリュンクスを見返した。
居心地の悪い沈黙に、リュンクスは困惑する。
「……私が大人げなかったよ、カノン。ここまでにしておこうじゃないか。私達が仲違いすると、リュンクスが好き勝手し始める」
年長の余裕からか、先に口を開いたノクトが謝罪する。
しかし台詞の後半は、リュンクスにとって心外な文句が含まれていた。
「それは由々しき問題だな」
カノンが重々しく同意する。
「ちょっと待って! それ、どういうこと?!」
リュンクスは憤然とした。
実際のところ、サーヴァントの反抗でマスターのプライドをくすぐられた二人が、逆に結託してしまったという結果なのだが、リュンクスとしては釈然としない。
青ざめて動かなくなったリュンクスに気付き、カノンが心配そうに声を掛ける。
そして自分の首に巻き付いている竜の子を外すと、リュンクスの肩に置いた。竜の子は「チー?」と鳴き、尻尾をリュンクスの首筋に絡ませる。その温かい感触に、リュンクスはほっとした。
ノクトは上空を見上げて言う。
「塔の上層に陰気が溜まっているようだね。私はうっすらとしか感じないが……サーヴァントは私達より敏感だ」
カノンも先輩も、リュンクスが感じているような嫌悪は感じていないようだ。
ただ険しい面持ちで、上空を見つめている。
「このまま上層に登ると、陰気でローブが汚れそうだ。リュンクスも怯えている」
ノクトは何か決心したようだ。
中庭に向かって足を踏み出した。
「どうするつもりだ?」
内部の階段への扉を解錠していたカノンが、手を止めて聞く。
「中に入ってしまうと、塔の全体に魔術を使えないからね。先にここから陰気を祓ってしまおう」
ノクトは事もなげに言った。
カノンが「祓えないから塔を封鎖しているんだぞ」と困惑している。
「先生達は、単に労力を割きたくないだけさ。陽光が射せば、自然と祓われるものを、わざわざ大きな魔力を使ってまで祓う必要はない……」
暗闇の底に銀の風が吹く。
ノクトが滑らかに呪文を紡ぐ。しかし、その呪文は途中から音階を持った歌に変化した。
歌っている。
リュンクスは、海辺で聞いた神霊の歌を思い出した。
あの時と同じだ。
「……!」
ノクトの周囲に湧いた清冽な空気が、一気に噴き上がって、上空の黒い塊を直撃する。陰気が消滅して、塔の中央に光が射し込んだ。
外の雪の欠片だろうか。
銀光の鱗片が、舞い散る花びらのように上空から降ってくる。
リュンクスとカノンは言葉もなかった。
「……何の魔術だ?」
カノンが不思議そうにする。
呆然としていたリュンクスは、その言葉で我に返る。
魔術じゃない。神霊の力だ。
海辺の街で、グラキアスの魔術師が言っていたではないか。
神霊は陰気を嫌う。彼らのいる場所は聖域となり、アンデッドは発生しないと。
「さあ、これでしばらくは大丈夫。今のうちに上まで行こう」
ノクトは不敵な笑みを浮かべ、リュンクスの背中を押す。神霊の力を使っているのは秘密なのだろう。カノンには説明しなかった。事情を知るリュンクスは「水の元素は陰気を呼ぶ」から神霊の力を使ったのだろうと思う。
背中を押されたリュンクスは慌てて、カノンに続き階段を登り始めた。
「それにしても、残念だ。せっかくリュンクスと二人きりで、塔を探検できる機会だったのに」
殿を歩くノクトが嘆く。
先頭のカノンが足を止め振り返った。
上段から見下ろし、無表情で宣う。
「リュンクスから、アウレルムに来るという言質を取った。別れ話をするなら、二人きりの時間を作ってやってもいい」
明後日から矢が飛んできたようなものだ。
カノンの言葉に、リュンクスは動揺して立ちすくむ。
「五年生の答え合わせまで待たずに、私に喧嘩を売る気かな。それとも私を試しているのか。不遜だぞ、カノン・ブリスト」
外の冷気を遮断する塔の中なのに、にわかに気温が下がる。口の端に冷笑を浮かべたノクトは、いつもと違い狼のような獰猛さを漂わせていた。
二人はリュンクスを挟んで火花を散らす。
カノンから揺らめく金炎の熱気が、ノクトからは凍てつく氷晶の空気が流れ出す。
まさに一触即発。
一瞬、どちらを諌《いさ》めるか迷ったリュンクスだが、覚悟を決めて発言する。
「二人とも、ストップ」
両方と付き合うと決めたのだ。
状況に流されるままだと、二人共を失ってしまう。だから単独で研究する事にした。全ては、二人が角を突き合わせるこの日のために。リュンクスは準備をしてきたのだ。
「カノン、今日は俺と先輩を優先してくれる約束だろ」
「……」
「先輩、五年生の答え合わせを待ってくれるつもりじゃないの? 頭に血が登ってるよ?」
声を上げれば、二人はしばし無言でリュンクスを見返した。
居心地の悪い沈黙に、リュンクスは困惑する。
「……私が大人げなかったよ、カノン。ここまでにしておこうじゃないか。私達が仲違いすると、リュンクスが好き勝手し始める」
年長の余裕からか、先に口を開いたノクトが謝罪する。
しかし台詞の後半は、リュンクスにとって心外な文句が含まれていた。
「それは由々しき問題だな」
カノンが重々しく同意する。
「ちょっと待って! それ、どういうこと?!」
リュンクスは憤然とした。
実際のところ、サーヴァントの反抗でマスターのプライドをくすぐられた二人が、逆に結託してしまったという結果なのだが、リュンクスとしては釈然としない。
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