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*一年前* 冬至祭
169 月天心
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「……」
「先輩?」
階段の踊り場の手前で、ノクトは立ち止まる。
「先ほど、私に別れ話をしろと言ったね、カノン・ブリスト」
いったい何を言い出すのか。間に挟まれたリュンクスは、おろおろと向かい合う二人を見比べた。
「そこまで言われて何もしないのは、面白くない。腹いせにリュンクスを帝国に連れて行こう」
「えぇ?!」
仰天するリュンクスの腕を引き寄せ、軽々と抱き上げる。
バランスを取るため、慌ててリュンクスは先輩の首根っこにしがみついた。
「リュンクス! おい、もう少し抵抗しろ!」
「無茶言うなよ!」
カノンは舌打ちして剣を抜きかけ、途中で諦めた。ノクトとリュンクスの距離が近すぎて、攻撃すればリュンクスを巻き込む。
仕方なく、竜の子に助力を求めた。
「チルル!」
リュンクスの首元で、竜の子は突然の事態に目を丸くしている。カノンに呼びかけられ、我に返ったように動き出した。
ノクトの顔に飛びかかろうとするが。
「氷像になりたいかい?」
アイスブルーの眼差しに撃沈する。
「チルル……」
リュンクスは哀れ震えている竜の子を、片手で懐に退避させた。
そして荒ぶっているカノンに呼びかける。
「ごめん、カノン! ちょっと行ってくる!」
「だからもう少し抵抗しろと……」
呆れたような声が聞こえる。
踵を返して屋上に向かうノクトを、カノンは追わなかった。
「いいのかい? 彼より私を優先して」
ノクトはリュンクスを抱き上げたまま、早足で階段を登る。
「後でカノンに怒られる覚悟はした」
リュンクスの答えに、ノクトはくっくっと喉で笑う。
行儀悪く、足で屋上の扉を蹴り開けた。
屋上には既に虹蛇エインガナが待機していた。
主の姿を認めたエインガナは、平べったい頭を上げ、虹の翼を広げる。エインガナの虹は、夜空を背景に、オーロラのようにも見えた。
「さすがに腕が疲れてきたな」
「年寄りを自称してるのに、無茶するからだよ」
ぎっくり腰になるぜ、と先輩をからかいながら、リュンクスは床に降りる。ノクトに攫われる格好で屋上まで連れて来られたが、彼と一緒にいることにリュンクスに否やは無かった。
雪が舞う屋上は寒い。ノクトは虹蛇に積んであった荷物から、毛皮のコートを取り上げて、自分ごとリュンクスを包んだ。
エインガナは、二人が乗り込むと、ゆっくり離陸する。
「空の上だ、エインガナ」
どこへ飛ぶのかと思えば、ノクトは全く意味不明な指示をした。
虹蛇は心得ているようで、ぐんぐん真上に飛翔する。
雪を含んだ布団のような雲が迫ってきて、リュンクスは驚愕した。
「うわっぷ」
エインガナは、雲の中に突入して昇り続ける。
まるで水中に入ったような奇妙な感覚だ。
すぽん、と抜ける音がして、虹蛇は雲の上に躍り出た。
「見てご覧。月天心だ」
「え……?」
ノクトが示す先を見ると、空の中心には太陽に代わって、白く輝く大きな満月が浮かんでいた。
「うっわ、すご……」
手を伸ばせば、お月様が触れそうだ。
リュンクスは夢中で月を見上げた。
「東の地方では、月が綺麗というのは、告白を意味するそうだよ」
月を見上げるリュンクスを抱きしめ、ノクトはささやく。
「もうカノンに告白したかい? アウレルムに行くと返事をしたんだろう……?」
その言葉に、リュンクスは瞠目する。冷水を浴びせられたように、一瞬で心が現実に引き戻された。
「先輩?」
階段の踊り場の手前で、ノクトは立ち止まる。
「先ほど、私に別れ話をしろと言ったね、カノン・ブリスト」
いったい何を言い出すのか。間に挟まれたリュンクスは、おろおろと向かい合う二人を見比べた。
「そこまで言われて何もしないのは、面白くない。腹いせにリュンクスを帝国に連れて行こう」
「えぇ?!」
仰天するリュンクスの腕を引き寄せ、軽々と抱き上げる。
バランスを取るため、慌ててリュンクスは先輩の首根っこにしがみついた。
「リュンクス! おい、もう少し抵抗しろ!」
「無茶言うなよ!」
カノンは舌打ちして剣を抜きかけ、途中で諦めた。ノクトとリュンクスの距離が近すぎて、攻撃すればリュンクスを巻き込む。
仕方なく、竜の子に助力を求めた。
「チルル!」
リュンクスの首元で、竜の子は突然の事態に目を丸くしている。カノンに呼びかけられ、我に返ったように動き出した。
ノクトの顔に飛びかかろうとするが。
「氷像になりたいかい?」
アイスブルーの眼差しに撃沈する。
「チルル……」
リュンクスは哀れ震えている竜の子を、片手で懐に退避させた。
そして荒ぶっているカノンに呼びかける。
「ごめん、カノン! ちょっと行ってくる!」
「だからもう少し抵抗しろと……」
呆れたような声が聞こえる。
踵を返して屋上に向かうノクトを、カノンは追わなかった。
「いいのかい? 彼より私を優先して」
ノクトはリュンクスを抱き上げたまま、早足で階段を登る。
「後でカノンに怒られる覚悟はした」
リュンクスの答えに、ノクトはくっくっと喉で笑う。
行儀悪く、足で屋上の扉を蹴り開けた。
屋上には既に虹蛇エインガナが待機していた。
主の姿を認めたエインガナは、平べったい頭を上げ、虹の翼を広げる。エインガナの虹は、夜空を背景に、オーロラのようにも見えた。
「さすがに腕が疲れてきたな」
「年寄りを自称してるのに、無茶するからだよ」
ぎっくり腰になるぜ、と先輩をからかいながら、リュンクスは床に降りる。ノクトに攫われる格好で屋上まで連れて来られたが、彼と一緒にいることにリュンクスに否やは無かった。
雪が舞う屋上は寒い。ノクトは虹蛇に積んであった荷物から、毛皮のコートを取り上げて、自分ごとリュンクスを包んだ。
エインガナは、二人が乗り込むと、ゆっくり離陸する。
「空の上だ、エインガナ」
どこへ飛ぶのかと思えば、ノクトは全く意味不明な指示をした。
虹蛇は心得ているようで、ぐんぐん真上に飛翔する。
雪を含んだ布団のような雲が迫ってきて、リュンクスは驚愕した。
「うわっぷ」
エインガナは、雲の中に突入して昇り続ける。
まるで水中に入ったような奇妙な感覚だ。
すぽん、と抜ける音がして、虹蛇は雲の上に躍り出た。
「見てご覧。月天心だ」
「え……?」
ノクトが示す先を見ると、空の中心には太陽に代わって、白く輝く大きな満月が浮かんでいた。
「うっわ、すご……」
手を伸ばせば、お月様が触れそうだ。
リュンクスは夢中で月を見上げた。
「東の地方では、月が綺麗というのは、告白を意味するそうだよ」
月を見上げるリュンクスを抱きしめ、ノクトはささやく。
「もうカノンに告白したかい? アウレルムに行くと返事をしたんだろう……?」
その言葉に、リュンクスは瞠目する。冷水を浴びせられたように、一瞬で心が現実に引き戻された。
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