山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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*現在* 天空の城

196 合流

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 昼間、通ってきた道は紅蓮の炎に包まれている。
 街は火の海だ。
 滅びた時の光景を、死霊街は夜毎にリピートしている。
 滅ぼされた人々の怨嗟が、どこにも行けない想いが、街に溢れて焼き付いている。それらは救いを求める霊魂の想いと裏腹に、恨みの炎となって今もなお燃え続けているのだ。

「この死灯鳥、ここで死んだ者達の霊魂が変じた魔物か! 炎で焼け死んだ怨念の塊! 火の魔術師の俺でも、こればかりは操れない……!」
 
 カノンは険しい表情で剣を構える。
 
「リュンクス、獣人達と先に行け!」
「カノンは?!」
「俺は奴らを引き付ける囮になる。竜種の血を引く俺は、奴らの仇だ。格好の的《まと》になるだろう」
 
 話している間にも、死灯鳥の数が増えている。
 数十、数百を越えて増殖し、空に舞い上がり続けていた。
 あの数に飛び掛かられたら、いくらカノンでもどうにもならない。
 
「チルル、リュンクスを死んでも守れ!」
 
 竜の子が悲しそうに「チー!」と鳴く。
 カノンは「行け!」と怒鳴った。
 背中を向けた、その表情はリュンクスからは見えない。しかし決死の気迫が伝わってくる。

「……」
「あの」
「……あなた達は、走って逃げて」
 
 リュンクスは、戸惑っている獣人の背を押した。
 
「子供は抱えて、走るんだ。真っ直ぐいけば、すぐに死霊街の境界だから」
「……死なないで下さい」
 
 獣人達は、死霊街の外に向かい、走り出す。
 リュンクスは、カノンの隣に進み出た。
 
「カノン、お前の命令でも、これだけは聞けない」
「リュンクス! 君には先輩がいるだろう!」
「先輩とお前と、どっちか選べてたら、今みたいな関係になってねえよ!」
 
 リュンクスは怒鳴り返す。
 虚を突かれたように、カノンは目を見開いた。
 
「死ぬ時は、一緒だ」
 
 死霊街は陰気に満ちており、通常なら魔術師を守護してくれる精霊がいない。ガーネット相手に使った、血を介して魔物を支配する魔術は、相手が血を求めている場合のみ有効だ。
 打つ手は無かった。
 死灯鳥の群れが旋回し、リュンクスとカノン目掛けて急降下してくる。
 リュンクスは、死を覚悟した。




 その時、不意に一陣の涼風がリュンクス達の前に吹き込んだ。
 どこからか、歌声が聞こえてくる。
 いや、歌のように聞こえる呪文。
 
「……ステラ・ルーナ・メディウムマール・ルクス。天つ風よ、吹き清めよ!」
 
 襲いかかってきた死灯鳥の群れと、後方から吹いてきた銀光の風がぶつかった。
 死灯鳥は、水を掛けられた種火のように、次々と蒸発して消えていく。
 リュンクスは、風にはためくローブを押さえながら、振り返った。
 
「先輩!!」
 
 死霊街の外れから、白いローブを着た若い男性が歩いてくるのが見えた。夕闇の一番星の明かりの下に、よく知っている白皙の美貌が現れる。
 青みがかった銀髪に、薄氷色の瞳。
 淡い色合いをまとう彼が白いローブを着ると、まるで神聖な何かのように、夜の闇から浮いて輝いて見える。
 
「間に合って良かったよ。予想より少し早くて、さすがの私も焦った」
 
 ノクトは「無事かい?」と微笑む。
 焦りも恐怖も無い、いつも通り余裕の先輩だ。
 彼は再会に胸がいっぱいのリュンクスに、行こうと促した。
 
「魔術が使えない今、場所を浄化するのは無理だ。ここから離れるよ」
 
 死灯鳥の群れは一時的に消え失せたものの、また増え始めている。退避するなら今の内だ。
 リュンクスとカノンは、急いで死霊街を離脱した。
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