山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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*現在* 天空の城

197 もどかしい思い

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 幻の炎に包まれた街が見えなくなるまで、リュンクス達はひたすら歩いた。
 先に行った獣人達の姿はない。
 まばらに生えた木立は静まり返り、ほうほうと鳴くふくろうの鳴き声が聞こえた。
 
「……魔術は、使えないはずだが」
 
 額の汗をぬぐったカノンが、ノクトに聞く。
 
「魔術ではないよ。魔術をモデルにアレンジしているから、魔術のように見えるけどね」
 
 ノクトは肩をすくめて見せた。
 魔術でなければ何なのか、続く説明が無かったのでカノンは不満そうだ。
 
「先輩、どこをほっつき歩いてたのさ。連絡が無いから心配したんだぜ」
「連絡……そういえば、するのを忘れていたよ」
「忘れんなよ」
 
 リュンクスは、突っ込みながら笑いが込み上げてきた。
 やっぱり先輩がこのくらいでどうにかなる訳がなかった。嬉しいような残念なような、複雑な気分だ。
 ノクトは「面倒だからしなかった訳じゃない。魔術が使えないから仕方ない」と弁解する。面倒だからと言う辺りに本音が透けて見えた。
 
「リュンクス達は、あれかな。リュンクスのお母さんを探しに、天空城に来たのかい?」
「それもあるけど、先輩を探しに来たんだよ。連絡がなかったら心配するじゃん」
「おや」
 
 ノクトは片眉を上げて微笑する。
 
「本当に心配したのかな。私の事を知っているリュンクスが、それほど心配するとは思えないけれど」
「……」
 
 正直そこまで心配はしていなかった。
 リュンクスは視線を逸らして返事を保留にする。

「リュンクス、そこは先輩心配したよ! と主張するところじゃないかい?」
「俺は嘘を付けないんだ……」
 
 カノンが咳払いしたので、リュンクスとノクトは談笑を止めた。
 
「セイエル先生から、合流して行動するように指示を受けている。今までどこにいて何をしていたか、先ほどの魔術もどきの件も含め、きっちり説明してもらおうか」
「……やれやれ。ガウリルならともかく、先生の指示は無視できないな」
 
 ノクトは諦めたように嘆息した。
 聞いていたリュンクスは、上司からの指示は無視するんだ、と先輩に振り回される人々に同情した。




 三人は、ルクバトの街の前の森でキャンプをすることにした。
 疲れていたし、他の人々がいない場所で話をしたかったからだ。
 枯れ木を集めると、竜の子が火を付けた。
 焚き火の前に座ろうとして、リュンクスは例によって、どちらのマスターに寄るか一瞬悩んだ。その悩みを見透かしたように、ノクトは初めから少し離れて木の根に腰掛ける。

「私の事は気にしないで、リュンクスはカノンに付いていてあげなさい」
「えぇ?」

 リュンクスは何となくモヤモヤしたが、ノクトが話しだしたので、仕方なくカノンの隣に腰を降ろした。
 
「私は天空城の西側に上陸した後、魔術の封印について探っていた」
「先輩は西側にいたんだ。俺達は東側から上陸したんだよ」
「道理でね。何となくリュンクスが近くにいるような気がしたんだけど、はっきり分からなかったのは、そのせいか」
 
 リュンクス達は、天空城の東側にいたため、西側にいるノクトと合流できなかったのだ。
 カノンは、魔術の封印という言葉に反応した。
 
「魔術を封じているのは、北西の都市アスケラにある神霊の遺跡だという話だが」
「もうそこまで情報を得ていたのかい? さすがだな。その通りだよ」
 
 魔術が使えれば、翼人から必要以上に逃げ回る必要もないし、先ほどの死霊街でも対応できたのだ。
 話題は必然的に、魔術の封印の話になった。
 
「アスケラにある神霊の遺跡には、精霊を苦しめる毒の粉を吹き上げる装置があるのさ。見えない粒子が風に乗って、この天空城全体を包んでいる。雲の壁があるから、天空城の外には粒子が漏れない仕組みだよ。私はアスケラに忍び込んで様子を見てきたんだが、魔術が使えないので破壊できなかった」
「先輩でも駄目なんだ」
「私は元から物を壊すような術の類は、あまり得意ではないんだよ。おまけに魔術を封じられては為す術もない」
 
 ノクトは肩をすくめて見せる。
 破壊なら、竜の炎を使えるカノンの出番だ。リュンクスは、カノンの方を見たが、彼は難しい顔をして何も言わない。
 どうして自分が破壊できると言わないのだろう。
 そこまで考えて、気付く。
 カノンに竜の力がある事は秘密なのだ。
 今は当たり前のようになっていたが、本来カノンは、竜種由来の黄金の瞳について話したがらない。共に竜の卵を孵したリュンクスだからこそ、秘密を共有してくれたのだ。
 
「それにしても、どうやって俺とリュンクスの危機を察知したんだ? 北西の都市アスケラから死霊街まで距離が離れているのに」
 
 元より隠し事を好まないカノンは、後ろめたいのか、ノクトに突っ込む言葉は妙に歯切れ悪かった。

「私にも奥の手があるんだよ」

 答えるノクトも、若干覇気がない。
 魔術が使えない状況なので、それはノクト独自の神霊にまつわる術なのだろうと、リュンクスは推測する。
 しかし、ノクトも神霊の技が使える事を秘密にしている。
 これでは話が進まないと、リュンクスは頭を抱えた。
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